建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2016年1月号〉

農業用ダムから多目的ダムへ再生する千五沢ダム

 福島県県中建設事務所
 事業部ダム建設課長 高橋 正人

 福島県石川郡石川町の阿武隈川水系北須川に建設された千五沢ダムは、『国営母畑開拓建設事業』の基幹施設として昭和50年3月に完成したかんがい専用の農業用ダムである。現在、千五沢ダムでは、農業情勢の変化に伴い生じたダムの空き容量を活用し、治水機能を付加するダム再開発事業が進められている。
 千五沢ダムは、堤高 43.0m、堤頂長 176.5mの中央コア型アースダムで、地元石川町をはじめ、3市 1町2村(郡山市・須賀川市・白河市・石川町・玉川村・中島村)にかんがい用水を供給している。
 一方、石川町周辺地域では、昭和61年8月の台風や平成10年8月豪雨など、頻繁に洪水被害を受けていた。特に昭和41年9月の台風26号では多くの家屋や農地等が浸水するなど甚大な被害が発生したことから、地元から早期の治水対策が要望されていた。また、北須川と同じ流域の今出川では、昭和62年と平成9年に大規模な渇水が発生し、水道水や農業用水の不足など、水需要に対する供給が不安定な状況となっていた。
 これらの経緯を踏まえ、当初のダム事業は治水・利水を目的とした今出ダム建設と千五沢ダム改築による「今出川総合開発事業」(2ダム1事業)として、平成7年度に新規実施計画調査に着手し、平成8年度に建設採択された。その後、地質調査や測量設計等により事業の進捗を図ってきたが、平成19年度に福島県県中地域水道用水供給企業団が水需要の減小等を理由に今出ダム建設への参画を断念したため、多目的ダム建設の事業継続が困難となった。
 このため、石川町中心部を流下する北須川及び今出川の治水対策を再検証し、千五沢ダム改築と北須川・今出川の狭窄部の河川改修を盛り込んだ「一級河川阿武隈川水系社川圏域河川整備計画」を平成 21年度に策定した。千五沢ダム改築事業は、この整備計画に基づき同年「千五沢ダム再開発事業」として採択され、事業に着手した。

 昭和42年の着工当時、千五沢ダムに計画されたかんがい受益面積は約4,000haだったが、完成間近の平成6年には半分の約2,100haに減少し、ダムの貯水容量に大きな空き容量が生じる結果となった。この空き容量を福島県と東北農政局及び関係機関が協議した結果、洪水調節容量として活用する治水計画を策定した。
 今回の千五沢ダム再開発事業で治水機能を付加することにより、下流の河川改修と合わせて、石川地方での戦後最大規模の洪水から被害を防ぐと共に、下流既得用水の安定供給と河川維持用水の確保を図ることとなった。
 また、現在の洪水吐き施設は、旧基準の1,350m3/sを設計洪水流量としていたが、治水ダムとしての新基準である1,690m3/sを流下させる必要があるため、越流長を長く確保できるラビリンス型洪水吐きを採用することとなった。今回の改築工事により、ダム地点では基本高水流量を250m3/sのうち130m3/sをカットし、ダム下流の白石橋基準点の計画高水流量を390m3/sから250m3/sに低減する計画とした。

 洪水吐き改築事業の実施にあたっては、ゲートの操作ミス防止やランニングコストの縮減を図るため、人による操作から貯水位により自然に流量を調節する自然調節方式のダムに改築することとした。洪水調節は、ラビリンス型洪水吐きの4つの先端部に設置する常用洪水吐きと呼ばれる開口部(オリフィス)で行う。この常用洪水吐きで下流への放流量を一定範囲内にすることにより、それ以上の流量はダムに貯留される。この貯留により下流域の流量を調節し、下流のピーク流量の時間を遅らせることにより、河川の氾濫を防ぐ計画である。また、ダムの洪水調節容量を超える雨水が流入した際には、非常用洪水吐きと呼ばれるラビリンス型洪水吐きの上部を超えて流下させる仕組みとなっている。
 千五沢ダム再開発事業は、平成26年度から洪水吐き改築工事に着手しており、平成33年度の完成を目指している。また、農業用利水ダムとしての機能を維持しながらの工事となるため、改築工事はかんがい用水の供給に影響を与えないよう、非かんがい期(10月下旬から3月までの期間)に施工することとしている。


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