建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2015年10月号〉

地面の内部の現状復旧を経験して

株式会社 淺沼組 現場代理人
蟹江 麦

既存杭引抜工事(ケーシング削孔状況)

既存杭撤去工事施工要領図
 本物件は、東京都世田谷区にある既存庁舎を2棟解体して、RC造、地下1階地上6階、述べ床面積約13,000uの合同庁舎を新築する工事です。工事敷地は、吉田松陰ゆかりの松陰神社に近く、閑静な住宅街です。工事は、解体工事から新築工事まで一括受注をして行っております。現在は新築の躯体工事を実施中です。今回は、これまでの工事で一番技術的に難しかった既存建物の杭の引き抜きと引き抜き穴への埋め戻しについて説明します。
 解体工事は世田谷区という密集した住宅街で行ったので、近隣対応や工法の選定など諸問題がありました。取り壊しを行う2棟の建物は、昭和40年代に竣工したRC造の建物でした。構造規模は、1棟がRC地下1階、地上3階、PC杭L=約6m、もう1棟が地下1階、地上5階、アースドリル杭L=11〜13mでした。新築工事の基礎は、深層混合改良工法(地盤改良の一種)と言い、工法の概要は工事現場の土砂にドリルで掘削を行いながら、セメントミルクを混合し土砂と攪拌して地盤改良を約Φ1500長さ約4mの円柱状に行い619本施工して杭の代わりとする工法です。品質管理の課題は、解体建物の杭の引き抜き跡の穴に適切な埋め戻しをしなければ、新築の地盤改良が適切に施工できないことです。
 一般に新築の杭工事を更地で施工した場合、事前にボーリング調査を行い地質のデータに基づき、予め強度の予想されている地盤で施工をします。本物件でも地盤のデータはあるのですが、既存杭の引き抜きをした穴に新築の杭が重なるため、その穴の中の埋め戻しを周辺地盤の状態の再現をしなければなりませんでした。新築の地盤改良は、アースオーガー(ドリル状)を用いて掘削をするのですが、現場の土砂を材料の一部とするため削孔の精度が非常に重要です。削孔中に埋め戻し穴の土砂が周辺の地盤より硬すぎたり、やわらかすぎたりすると掘削孔が左右にずれてしまい、図面通りに地盤改良杭が築造できません。そこで、杭の引き抜き穴への埋め戻しが工事の品質管理の重要な点となったのです。
 杭穴への埋め戻し工事の設計は、既存建物の杭の引抜後、杭穴の内部に強度の違う材料を上下2層に分けて注入をするという工法でした。新築の地盤改良の高さよりも深い部分には、建物の支持層となるため地盤の強度と同等の強度を要するセメントミルク(添加量400kg/m3)を注入して所定の高さで止める。その後、新築工事の基礎である地盤改良を実施する浅い部分には工事現場の土砂と同じ強度になるような配合の流動化処理土の注入をする。要約すると更地に近い性状の地盤をつくるために、比重の違う液体を上下2層に分けて注入する工事ということです。
 実施の工事は、設計や計画通りには進まず非常に苦労をしました。地面のなかにある解体建物のコンクリート杭は、直径や長さが当時の竣工図面と異なっており、また、掘削と引き抜き作業を行うことにより杭の周辺の土砂が崩れてきて杭の引き抜き穴の容積がどのくらいの大きさなのかを把握できませんでした。杭穴の中には、土砂の崩壊を防ぐためベントナイト溶液といい比重の高い液体が満たされており内部が直接、確認できません。そのため、埋め戻しに使うセメントミルクと流動化処理土の作成をどのくらい行えばよいかがわかりませんでした。
杭引抜き作業状況

 改善方法を工事関係者で検討しました。杭の引抜き専門業者に理解をしてもらわなければならなかったのは、ただ引き抜きだけではなく引き抜いた後に2層の液体を設計の高さ通りに分けることの重要性でした。品質確保ため新築工事の基礎の地盤改良の工法を説明し、どうにか理解を得たのですが計画通りでは施工できないという問題が残りました。そこで、地盤のボーリングデータを見て検討をしました。ボーリングデータでは、地盤の上部が粘土層で土砂崩壊しにくく、下部が砂、礫層で崩壊しやすいことがわかっておりました。できるかどうかわからないが、空堀(水を使わず、ベントナイト溶液を使わない)を試してみようということになりました。普通、空ぼりは浅い掘削に用いるものです。地下水位(約3m)から下部では、土砂崩壊を生じるためできないと考えて別の計画を立てておりました。今回の掘削深さは13mあります。実際に空堀をしたら掘削時に摩擦が生じ騒音が大きく、時間は予定の倍かかり、掘り上げられるかどうか不安でした。
 しかし、所定の深さ(地中約13m)まで掘削し杭を引き抜きしたら、杭穴の中はすこしづつ地下水が流出しで砂が少量づつ流れている状態でした。そのまま放置しておくと土砂が崩壊していくので、この期を逃してはいけないと、早速セメントミルクを注入し支持層の高さで止め、その後流動化処理土を注入し無事完了しました。
 土砂崩壊に至る前の少ない時間で工事管理をするという、難しい工事になりましたが、無事に工事を終えることができました。その結果、新築工事のときに行った地盤改良は順調で良好な品質を得ることができました。首都圏、繁華街などでは、スクラップアンドビルドが普通に行われております。今後、騒音振動の削減ができる基礎工事の方法として地盤改良工法が利用される機会が増えてくると思います。工事現場の土砂を材料の一部とするため環境にもいいと利点ばかりが目立ちますが、地盤の性状が良好でなければ品質を保てません。杭の引抜き工事は、引き抜くことが最大の目的ではありますが、今後は地盤の現状復旧にも目を向けていかなければなりません。また、その工法や技術は施工を管理する我々現場監督が率先する課題と今回の経験を通じて感じました。


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