建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2015年7月号〉

阿武隈川上流の河川整備計画事業

―― 安全かつ安心が持続できる地域の実現へ向けて

 国土交通省 東北地方整備局
 福島河川国道事務所 所長 永尾 慎一郎

福島河川国道事務所の河川管内地図

流域の概要

 阿武隈川は、その源を福島県西郷村の朝岳(標高1,835m)に発し、大滝根川、荒川、摺上川等の支川を合わせて、福島県中通り地方を北流し、阿武隈渓谷の狭窄部を経て宮城県に入り、さらに白石川等の支川を合わせて太平洋に注ぐ、幹線流路延長239km、流域面積5,400km2の1級河川です。
 その流域は、福島、宮城、山形の3県にまたがり特に福島河川国道事務所が管理する区間については、盆地と狭窄部を挟み、福島県主要都市である須賀川市、郡山市、本宮市、二本松市や福島市の都市が発達しています。

洪水の歴史

平成14年7月洪水(二本松市・安達地区)
平成14年7月洪水(本宮左岸地区)
平成23年9月洪水(浜尾遊水地)
 阿武隈川では有史以来幾度となく、大規模な洪水被害に見舞われています。戦後最大の出水を記録した昭和61年8月の台風による洪水では甚大な被害を受けました。その後、平成10年、平成14年、そして近年では平成23年9月洪水により須賀川市や郡山市の上流部において計画高水位を超過する程の大規模な出水が発生しています。

事業の経緯

 福島河川国道事務所の始まりは、大正8年に福島市内に内務省直轄事務所が設置され、支川荒川の改修や福島、郡山、須賀川地区における河道のショートカット工事が実施されています。
 昭和61年8月洪水に対した治水対策は、支川広瀬川における激甚対策特別緊急事業により、大規模な被害を受けた梁川町(現伊達市)被害軽減を図っています。
 平成10年8月洪水への対処としては、無堤地区の解消、暫定堤防の完成堤化、そして大きな被害を受けた須賀川市上流に洪水調節機能を有する浜尾遊水地を整備し被害軽減を図りました。

阿武隈川水系河川整備計画

 阿武隈川水系河川整備計画(以下、「河川整備計画」)は、平成18年に戦後最大洪水となった昭和61年8月洪水を目標に今後30年間の事業を位置付け策定しています。また、平成24年には平成23年9月に発生した洪水を反映し計画を変更しています。
 事業のメニューは、現況で相対的に治水安全度が低い上流部においてアンバランス解消を図るため、二本松・安達地区における狭窄部の氾濫及び地形特性に応じた治水対策、本宮地区におけるまちづくりと一体とした堤防の嵩上げ完成堤防化事業及び浜尾遊水地の追加掘削事業等を位置付けています。

平成27年度の主な事業

 現在、福島河川国道事務所では、平成27年度中の事業完了を目指し、二本松・安達地区(二本松市)においてトロミ地区、平石高田地区輪中堤の築堤工事を実施しています。

二本松・安達地区(二本松市)H27.3撮影 二本松(トロミ地区)輪中堤

 二本松・安達地区は阿武隈川上流特有の狭窄部で、小規模集落が数多く点在する地区です。そのため、洪水時の水位上昇が早く、さらに洪水継続時間が長くなる傾向があり、一度洪水となると集落の孤立化が長時間に及ぶ特性を持つ地区です。
 近年も平成10年以降、平成14年及び平成23年の大雨により浸水被害が多発しており、狭窄部の地形特性を踏まえた「輪中堤や宅地嵩上げ」により住民の生命と財産を早急に守るため、平成21年度より事業に着手しています。
 本宮左岸地区(本宮市)では堤防の完成堤化を目指し、特殊堤の築造や樋管の新設工事を実施中です。
 背後に本宮市市街地を抱え資産が集中している区間であるが、河川の流下能力達成率が他の区間に比較して低く、近年洪水においても浸水被害が発生しており、平成23年年度より事業に着手しています。
 また、事業着手にあたり「阿武隈川左岸地区まちづくり懇談会」を設立し有識者、地域住民、本宮市、福島県及び福島河川国道事務所にてまちの将来像について意見を交わし、提言書をとりまとめそれぞれの事業に反映しております。
 浜尾遊水地(須賀川市)では治水容量を180万m3から更に50万m3を追加するため掘削工事を実施中です。
 平成23年9月の洪水で初めて洪水調節(地内湛水)を実施しましたが、更なる下流への負担軽減を図ることを目途に追加掘削を実施しています。
 そのほか、平成24年に実施した堤防緊急点検の結果を受け、必要な堤防浸透対策として堤防機能の強化に資する堤防の質的整備工事を実施予定としています。

本宮地区(本宮市)H27.3撮影 本宮Aゾーン完成写真

今後の課題

浜尾遊水地(須賀川市)H27.3撮影
 平成23年9月洪水では上流部の須賀川市や郡山市で計画高水位を超過する水位を計測し、戦後最大の洪水となりました。
 幸い、阿武隈川から市街地への外水氾濫には及ばなかったものの、阿武隈川の水位が長時間高い状況下において、阿武隈川へ流入する支川や水路などから内水があふれ、住家や田畑の冠水被害が生じています。
 これら内水被害の軽減のためには、洪水時における阿武隈川の水位をできるだけ低下させる必要があり、そのためには、整備計画に位置付ける洪水貯留施設の新設や阿武隈川の川底を掘削する事業が必要となります。
 また、郡山市が実施する雨水の流域貯留対策事業のような事業との連携も重要となります。
 更に福島県内においては東日本大震災による原子力災害の影響により、国や自治体により除染作業が実施されていますが、阿武隈川においても沿川の各自治体が定める「除染実施計画」に基づき、堤防の除染を計画的に実施していく必要があります。
 近年、阿武隈川流域においても局所的な短時間降雨や過去に経験したことのない大雨の頻度が増えています。
 必要なハード対策に加え、降雨や水位等観測データの迅速な提供や地域住民への避難に関する水位予測情報等、的確な情報発信に努めて参ります。


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