建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2014年10月号〉

伊江地下ダム止水壁工事が完成

―― 地域に密着した施工で伊江村から感謝状

 前田建設・蔵下組特定建設工事共同企業体
 所長(前田建設工業株式会社)
 松本 拓眞

1.はじめに

 伊江地下ダムの建設は、伊江島の安定的なかんがい用水の確保と農業生産性の向上及び農業の近代化を目的として計画されている国営事業である。地下ダムは、地下に連続した止水壁を構築することで水の流れを遮断し、貯留した地下水をポンプにより汲み上げ、管水路により各ほ場に水を供給する構造となっている。当工事は、総延長2,612mの内、西側の端部110.9m区間において止水壁を築造する工事である。

2.施工概要

 伊江地下ダムの止水壁築造は、3点支持式杭打機を使用した柱列式連続壁工法(SMW工法)による施工が標準となっている(図-1)。当工事においても、半分以上の区間でSMW工法による施工を行ったが、一部の区間で杭打機を配置する施工スペースが確保できず、空隙部にセメントミルクを充填して、遮水性を確保するグラウチング工で施工した。
図-1 柱列式連続壁工法(SMW工法) 概念図

 SMW工法による施工手順を以下に示す。
(1)ケーシング削孔
 先行削孔の鉛直精度の向上と深部硬質地盤での負荷軽減のために、ケーシング(φ710mm)と単軸オーガ(φ600mm)の組み合わせで、GL-20mまで排土をしながら削孔する。
(2)先行削孔
 三軸削孔の鉛直精度の向上と硬質地盤での負荷軽減のために、単軸オーガ(φ600mm)により、GL-20mから所定の深度(止水壁の下端)まで削孔液を吐出しながら削孔する。
(3)三軸削孔
 先行削孔の孔位置に三軸オーガ(φ550mm×3)の左右両端の錐を合わせ、削孔液を吐出しながら削孔する。オーガ引き上げ時に固化液(セメントスラリー)を吐出しながら原位置土と撹拌することで、止水壁(ソイルセメント壁)を築造する。
写真-1 止水壁施工状況

3.施工時の留意点・対応策

 当工事において実施した品質確保、環境保全の対策について以下に示す。
@止水壁の下端は、水理基盤層(不透水層)に1m根入れさせるようになっているが、施工深度が浅く、基盤層まで貫入できていなければ、遮水性の低下に繋がる。止水壁の築造前に10m程度の間隔で調査ボーリングを行い、地質及び透水性を把握し、止水壁下端線を見直し、変更を行った。施工中においても地盤硬度を判定する指標となる積算電流値を測定する装置を取付け、先行削孔時に基盤層への根入れを1孔づつ確認しながら施工した。

ASMW工の施工において、止水壁の連続性を確保するために削孔精度の向上が重要になる。削孔時の偏位量(孔曲り)をリアルタイムに計測できるシステムを採用し、三軸削孔時のねじれや隣接孔とのラップ量をモニタで確認しながら、削孔作業を行った。孔曲りが増大傾向にある場合は、削孔速度を落とし、スクリューの上下や正転、反転を繰り返しながら削孔を進め、精度の高い止水壁を築造することができた。

Bグラウチング工により止水壁を構築した区間は、注入対象地盤が、空隙が多く透水性が高い琉球石灰岩であったため、注入材が逸走し所定の位置に充填されないことが懸念された。施工初期段階で注入効率を分析し、注入配合や注入圧等の仕様の見直しを行った。また、注入圧がいっこうに上昇せず、逸走の可能性がある区間については、断続注入(30分程度注入を中断し、注入再開)を実施した。以上の対策により、要求された遮水性能を満足させることができた。

C施工中は、粉塵対策で工事ヤード外周に防塵ネットを設置したり、騒音対策として削孔機械に防音カバーを取り付けるなどし、周辺環境にも充分配慮しながら工事を行った。
写真-2 工事用水をため池に供給している状況

4.地域に密着した施工

 伊江島の地下ダム建設は、島民の期待や関心が高く、工事に対しても非常に協力的で、円滑に工事を進めることができた。工事期間中は、地域との交流を深めるため、様々な行事(伊江島一周マラソン大会、ハーリー大会、清掃活動等)に積極的に参加した。また、干ばつで農業用水を貯留する既設の地表ため池の水が不足した際には、事業所協議を踏まえ工事の休日を利用して工事用水(地下ダムの貯留水)を地表ため池に供給(総量約54,000トン)し、干ばつ期を乗り越えた。以上の地域貢献活動が評価され、村から感謝状を授与された。

5.おわりに

 伊江地下ダム西最端部工事は平成26年7月に無事完了した。これにより平成16年に着工した止水壁の築造工事は全区間完成した。工事に際しご指導、ご協力頂いた工事関係者各位、地域の方々にこの場を借りて感謝の意を表します。


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