建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2014年8月号〉

阿賀野川堤防耐震対策事業における松浜特殊堤耐震対策工事

―― 地域の資産を地震から守る強い防波堤をめざして

阿賀野川松浜特殊堤耐震対策工事 阿賀野川松浜工事事務所
現場代理人(株式会社大林組)
照井 太一

1.はじめに

 阿賀野川は福島県の荒海川を源流とし、新潟県を流れ新潟市北区松浜町付近で日本海に到達する一級河川である。その全長は210qで、信濃川とともに広大な新潟平野を形成している。阿賀野川下流域は液状化しやすい砂地盤が多く、昭和39年の新潟地震では液状化により堤防の陥没や亀裂が発生し、多くの河川構造物が被災した。阿賀野川河口部の低平地に位置する新潟市は平常時の河川水位が地盤高よりも相対的に高いところが多く、大規模地震時の液状化により堤防が沈下・破損した場合は、河川水が堤防を乗り越え居住地に流入しやすくなる。
 阿賀野川下流域では平成23 年度から河川堤防の耐震対策工事を実施しており、平成26 年5 月現在で当工事(約650m区間)の完成を残すだけとなっている。

2.工事概要

 阿賀野川松浜特殊堤耐震対策工事は松浜漁港およびその周辺で行われ、2つのタイプの耐震対策構造で計画されている。
 コンクリート擁壁堤防は、基礎地盤の液状化防止を目的として高圧噴射撹拌工法により増強する。施工延長は443.4m、改良幅4.8m、設計強度3,000kN/u、改良長は3.7〜7.4mで、液状化層であるB層(N=2〜10)およびAs1-1層(N=5〜10、細粒分含有率FC5%程度以下)が改良の対象となる。施工には揺動式の高圧噴射撹拌が可能なFTJ工法(エフツインジェット工法)を用い、改良半径R=4.0m、揺動角117 度の扇型の改良体をラップさせながら造成する。プラント設備は松浜漁港の上流側および下流側の2か所に設置し、それぞれから岸壁エプロン上の地盤改良機にセメントスラリーを圧送する。
 盛土堤防では、地震発生時の盛土地盤の側方移動を抑止するため川表側に鋼矢板を打設する(川裏側は施工済み)。施工延長は208.8m、鋼矢板の規格はハット型鋼矢板10H(SYW295)、鋼矢板の長さは10.0m で、液状化層であるAs1 層(N=5〜15)および、その下のAs2層(N=20〜50)まで貫入させる。

3.工事状況

 平成25年10月に着工し、地盤改良および鋼矢板打設を行う地盤を対象として機械ボーリングによる調査を行ったが、その結果、地盤改良を行う範囲に過去に発生した地震で破壊した堤防の残がいと思われるコンクリートや玉石、木材などが多く存在することが分かった。FTJ工法で施工する際、これらはセメントスラリー噴射用ロッドの挿入に障害となるため、事前の撤去が必要となった。障害物撤去には掘削能力が比較的大きな全周回転機を採用したが、岸壁エプロンの幅が3m程度しかないため、そこに設置できる最小クラスの掘削機を用いた。  また、相番のクレーン設置足場および掘削土砂の仮置き場として工事用台船を岸壁に接岸しながら施工した。これにより下流側120m区間の障害物撤去が平成26年5月完了した。
 平成26年6月からFTJ工法による地盤改良、非出水期となる10月から盛土堤防における鋼矢板打設を行う予定で、12月中の本工事の完了を目指し取り組んでいる。

4.地域とのコミュニケーション

 松浜漁港で工事を行うにあたり、漁業組合との協力関係は不可欠である。漁港内で作業に支障となる漁業設備や船舶がある場合は、その移動に快く協力して頂いている。これに対し、工事期間中は漁港内の係船場を使用できないため、漁船の所有者の方々には仮設の船着場を使用して頂いているが、便利に利用できるよう要望があれば協力を行っている。
 こういった漁業組合の方々とのコミュニケーションから、この地域の歴史や特性など様々な情報も得られ、良い関係を築きながら工事を進めている。
 今後、地盤改良工に本格的に着手するにあたり、地域とのコミュニケーションをさらに深める活動も積極的に進めていく。主な実施内容として、地元小学生による絵画の展示ボード、工事紹介パネルの掲示等を行う情報発信館の設置を予定しており、これらを通じて少しでも工事への関心が得られることを期待している。

5.おわりに

 阿賀野川には砂州やヨシ原など川の流れに応じて形成された自然が残され、そこにはオオモノサシトンボという希少な昆虫も生息している。地域の方々が、この自然豊かな阿賀野川とともに安心して生活できるよう、工事完成に向け関係者が一体となって努力する所存である。


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