建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2014年4月号〉

【ZOOM UP】

大災害にも耐え得るライフライン網を構築

── 過密都市でも最小限の施工スペースで周囲への影響も抑制

国土交通省 関東地方整備局 東京国道事務所 上北沢共同溝工事

シールド坑内状況(内径φ3.6m、L=1,038m)

シールド発進基地全景(防音ハウス2箇所分割)
 我が国の首都・東京都の中心地の道路網を整備・管理する東京国道事務所は共同溝工事を進めている。東京都区内で幹線道路約 1,100kmのうち、126kmで共同溝整備が完了。そのうち、東京国道事務所が管理する国道では、延長162kmの約7割にあたる119kmが完了している。
 現在は放射方向に向けて、国道1号日比谷共同溝、国道20号上北沢共同溝の整備に着手しており、共同溝のネットワーク化を進めている。  この上北沢共同溝は、世田谷区上北沢4丁目交差点の既設の発進立坑から、杉並区上高井戸1丁目の到達立坑までの約1.0kmの区間を、泥土圧式シールド工法にて内空φ3.6mのトンネルを築造する工事だ。
 共同溝はガス、電気、通信、上下水道など、日常生活に欠かせないライフラインを車道や歩道の下にまとめて収納する施設。地下空間を活用するので、地震などの災害に強い都市づくり、ライフラインの安全性の確保、道路の掘り返し工事による工事渋滞の軽減と、それに伴う排気ガスの低減により環境の保全が図れる。
 実際に、平成7年に発生した兵庫県南部地震では、一部が整備されていた共同溝内のライフラインには、被害は全く見られなかった。
 上北沢共同溝工事の最大の特徴は、1日5万台もの交通量がある国道20号幹線道路内において、スムーズな交通流を確保しながら、外径φ4.0mの大きな共同溝を築造していることである。このために、多くの工夫を凝らして施工が行われている。その代表的事例について紹介する。

シールド発進基地

 通常は発進立坑直上部に設置される防音ハウスを、ここでは 2箇所に分けて立坑より離れた位置に設置している。これは、車道幅員の狭い場所を外し、車道の固定占用を回避するためである。これを可能とするため、
(1)搬入した大型トンネル資材を地階から地上2階までを利用し、最大25m水平移動するための3種類のトラバーサー装置(重量物を平行移動させるための電動台車)
(2)残土積込用バックホウを2階に配置し水平移動するためのトラバーサー装置 (3)日々200m3排出されるトンネル掘削土を、発進立坑下より地上部土砂貯留槽まで約100mの距離を送る土砂圧送ポンプ装置等
を駆使している。これによって、発進基地を地下1階から地上2階まで立体的に有効利用し、限られた施工スペースで工事を行っている。

シールド発進基地 作業スペース確保対策
1階:工事車両出入り利用、
2階:トンネル資材水平移動(トラバーサー使用)
地階:トンネル資材水平移動(トラバーサー使用)

2階:バックホウ水平移動(トラバーサー使用)

シールド到達立坑

 発進基地同様、狭隘な施工スペースで大深度立坑を構築している。ここでも、異種構造の土留め壁立坑を上下に配置するという工夫が施されている。
 GL-10.0mまでの上部は鋼矢板土留め壁の立坑である。問題はN値50以上の硬質地盤での鋼矢板圧入であったが、油圧パイラーにケーシングオーガーを付属させたクラッシュパイラー工法にて施工することでこの課題を解決している。
 GL-10.0m〜-28.0mまでの下部は鋼製の分解組立型土留壁立坑がアーバンリング工法にて施工されている。ここで更に特徴的なのは、交通渋滞を招かないよう、車道幅員確保のため、路面覆工下でアーバンリング工を施工したことである。また、この土留壁にはシールド機で直接切削できるFFU部材(硬質ウレタン樹脂をガラス長繊維で強化したもの)が一部用いられている。これで坑口地山側の地山安定工事として通常施工される地盤補強工事が省略され、狭いスペースでの施工量を軽減している。
 以上のように、成熟した過密都市部で大型土木工事を行う際、施工スペースの確保が大きな課題となるが、このように色々な技術的工夫によってこの問題を解決し、大災害にも耐え得るライフライン網の構築作業を行っている。

シールド到達立坑
クラッシュパイラー施工状況 アーバンリング施工状況全景

アーバンリング施工状況
(鋼製分解組立型土留壁組立状況)


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