建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2014年4月号〉

道路行政のこれから【後編】

 国土交通省 道路局長
 徳山 日出男

(3)老朽化対策

 もう一つ、これからの道路行政を考える時に避けて通れないものは老朽化対策、長寿命化です。
 日本の道路延長の約120万キロのうち、約100万キロが市町村道です。都市の成り立ちの歴史から、アジアのあぜ道文化を起源とする我が国と他国とを比較すると、国の面積と比べて非常に長くなっています。市町村は財政力も弱く、技術者も少ないので、市町村道の老朽化が最大の問題になります。
 道路法は道路の種別として高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道の 4類型に分けて、各道路管理者が責任を持つことになっています。市町村道は、市町村長が最終責任者になりますが、これからの日本もアメリカで橋が崩落した80年代のような時代に入るため、国として老朽化対策を考え、市町村に対して、広域的、体系的に支援したいと思います。
 一方で、太田国土交通大臣は、最近の日本の状況を心のデフレという言葉を使って話されています。つまり、「これから日本は人口が減っていくので、ある程度まで道路を造ったら、後はメンテナンスだけで汲々とし、投資もできない」といった「縮み歴史観」を感じ、これからの日本に輝かしい未来がないという思考です。
 しかし、ヨーロッパやアメリカなど長い歴史の中で道路整備をしてきた国が、先んじてそのような維持管理だけで投資が終わっている時代に入っているかというと、そのようなことはありません。IT技術を活用したり、環境空間的、景観的な観点を含めたり、どんどん付加価値を付けて更新しているのです。例えば、ボストンでは、都市空間の再生のため高速道路を地下化しましたし、ワシントン DCでも環状道路の河川橋を拡幅した時に都市再開発と一緒に行っています。
 日本でも、首都高速の日本橋や築地川区間をモデル区間として、老朽化対策と都市再生とを一緒に行うことが考えられています。この事業は、都市の魅力を増して住みやすく安全な街を作るということが目的で、日本の成長を確保するための仕事ととらえられます。
 維持管理はビジネスとしても魅力的なもので、長寿命化だけではなく、付加価値を加えていくクリエイティブな仕事になりうるということですし、必然的に高度な技術を使った仕事をしていくことになると思います。

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(4)地域の元気を応援する

 また、既存道路を有効に活用するという点では、道の駅も地域の交流拠点に育ってきています。
 道の駅は制度が出来てから20年になり、昨年、道の駅の登録数は1,000を超えました。最初は道路利用者の方へのトイレ休憩など、通りすがりイメージでしたが、当初の構想をはるかに越えて独自の進化を遂げて、今や通過点ではなくて目的地になっています。
 道の駅は都市部には少なく、むしろ中山間地に多いためコンビニエンスストアとは対極をいっています。1,000店舗、計2,100憶円の売上げがあり、コンビニのチェーン店と並べても第5位と大きなシステムになりましたが、売り上げがポイントなのではなく、コンビニにはできない独自の進化を遂げていることに意味があります。例えば観光や防災など、個性のある画一的ではない、すごく魅力的なものになりました。
 防災で言うと、東日本大震災でも、後方支援基地や避難所になったところがありましたし、山田町の道の駅は震災1週間後から町の中でそこだけ食料品が買えたのです。東京からの流通なしにやれる力があったということです。

 2013年11月には、太田国土交通大臣から、第2ステージの道の駅を応援する、数を追及するよりも個性に再投資して道の駅の質を伸ばしていく、と発表していただきました。
 今後の展開としては、国交省から「観光とか防災に特化しなさい」などと指導することは考えていません。唯一お願いしたいのは、その地域の課題を解決する場になって欲しいということです。
 高齢化社会を迎える中で、高齢者のすべてのニーズを道の駅で満たしているところもあります。食事のデリバリーをしたりバスの停留所があったり、診療所も兼ねてドクターヘリの発着機能があり、集会所でおしゃべりができるといったような、高齢化という地域の課題を解決する場所になりつつある。
 そうした地域の課題を解決する発想から新しいアイデアが出てくることを期待しています。

おわりに

 老朽化対策や東北の復興、料金問題なども早急に対応しなければならない課題ですが、少し長期的に見通して、道路行政の在り方を変えていくような部分を決めていく必要があると考えています。
 今の主力商品にだけしがみついていると、10年20年するうちに陳腐化した商品を無理矢理押し付けることになってしまいます。若い人たちには、どのような世界一の交通を実現したいのか、是非コンセプトを考えてほしいし、そのとおりに実現できないとしても、まずビジョンを持って仕事をするようにして欲しいと思っています。
 道路の分野には、まだまだ新商品を開発する余地がたくさんあると思うのです。

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