建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2014年3月号〉

道路行政のこれから【前編】

 国土交通省 道路局長
 徳山 日出男

はじめに

 今年は甲午(きのえうま)の年。60年前の甲午の年は昭和29年、第一次道路整備五箇年計画のスタートの年にあたります。つまり、近代的な道路整備も還暦を迎えたことになります。本稿では、道路の主力事業の変遷とこれからについて考えてみたいと思います。

(1)高速道路をつなぐ

 昭和30年当時、一般国道の舗装率は13%しかなく土煙が上がっている状況であり、当時の主力事業は舗装整備と一次改築でした。現在では、高規格道路ネットワークをつなぐという事業が主力といえます。高規格幹線道路14,000qの計画のうち10,000qが整備されていますが、整備されていない地域の方は格差に悩んでおられ、繋がることが悲願となっています。
 一方で、整備された地域の方にとっては、10,000qを賢く使う必要があり、スマートインターの整備など既存ストックの活用に主力事業が移っています。
 例えば、宮城の県北の大衡では、自動車工場のすぐ横にインターを増設しました。高速道路は、いわばその工場のベルトコンベアとつながっているといえます。まさに工場を出たらそこがインターで、東北縦貫道から仙台環状道路を通って、これも増設した仙台港ICで高速道路を降りたら港に直結というネットワークが実現しています。
 高速道路を今後2万〜3万qの構想にすることは考えにくいですが、このように港や基幹病院にインターを直結することは非常に重要です。
 地震や津波で一般道がマヒしても、高規格道路はかなりの確率で生き残ります。枝線で本線に付加価値を加えるということです。
 また、高速道路に交通をシフトできれば、一般道路に対する負荷も減ります。高速道路は玉突き事故のイメージから、初心者ドライバーは怖いと感じられるようですが、死傷事故率の違いで見ると、高速道路は一般道路の1/10です。日本全体では7,000億台キロの車の交通があるので、高速道路の利用率がもっと高まれば、何百人かの死者、何十万人かの負傷者を減らすことが可能です。燃費も高速道路の方がいいことはみなさんご存知の通りで、高い性能があります。
 加えて、道路網全体の分担関係が適正化されることで、生活道路に入り込んでいた車が減り、人間優先の道路とすることができます。
 災害時にも高速道路の重要性が実証されており、その能力を考えると、同じ道路であれば高速道路は働き者であり、お買い得な買い物ということです。

(2)賢く使う

 首都圏の3環状道路の現時点での整備率は約6割ですが、これが平成27年度末で8割を超える延長が完成します。
 データを分析すると、首都高の都心環状線と中央環状線では、朝7時から夕方6時台(昼間の半日)の平均時速は40キロ台です。1車線1時間あたりの走行台数を計算すると1400台を超えており、かなり渋滞しています。一方、外環道では1,400台より少し下くらいで、時速約70kmで走っています。圏央道にいたっては、かなり余裕があり、1時間1車線で約400〜500台、時速74kmで走っています。すなわち、1,400台あたりが自動車専用道の1車線1時間の臨界点と捉えることができます。
 1時間1車線1,400台ということは2.5秒に1台。3秒に1台であれば悠々に走行できますが、2秒に近づいてくると渋滞が起きてしまいます。1車線1時間当たり1,400台未満でコントロールすると70kmの速度で快適に走行でき、燃費が一番よく、渋滞もなく、事故率も低いことになる。そのような繊細なコントロールが可能になれば、ネットワークとして世界一クリーンで安全な高速道路ができることになります。
 単に3環状が完成しただけで、これを実現できるわけではありません。首都高速の料金は建設費が安い時代に整備したため安く、外環道や圏央道は比較的近年に整備しているため料金は高い。利用者は料金の安い方へ行きたくなるため中央部分は渋滞してしまうことになります。

 そこでITで渋滞情報を的確にお知らせすることとあわせて、料金という2つ目の武器を使って交通量を最適化できないかと考えています。
 ユーザーは料金の安い箇所を通行したとしても渋滞が起きている場合、時間という対価を払っているため、トータルでは損失が大きいことになります。ITは理想的な交通を実現させるツールになるのです。
 世間では、日本は膨大に高速道路を造っているように思われていますが、日本の道路延長120万キロのうち、高速道路のような規格の高い道路はかなり少ない。延長が短いだけでなく、全国の高速道路の平均車線数が4車線に満たない国というのは日本だけで、片側1車線の道路が3割以上占めています。交通量が少なく「人口密度が低い地域は片側1車線で十分だ」ということは、再度考え直す必要もあります。しかし、片側1車線の道路であっても、賢く使い、稼働率を上げることで、見事に使いたいと思っています。
 ところが、各国の1時間1車線あたりの交通台数を調べると、日本は欧米よりも高密度かと考えていましたが、日本は300台強で、むしろ欧米の方が、密度が高いのです。
 都市部の渋滞では、曜日、時間帯のピーク時と使われていない時と差が大きく、また地方部では料金への抵抗から利用しにくくなっているのではないかなど、様々な要因が考えられます。そうした中で、IT技術やTDM(交通需要管理)など、総合力で、稼働率の高い、安全で快適な高速道路にしていきたいと考えています。

 現在、ITSスポットを道路に設置するよう進めており、車もITSスポット対応のカーナビを売り出しています。これにより、渋滞情報を的確に流せるようになるのに加え、車がセンサーとなり、どこからどんな速度で走ってきたか、どこで急ブレーキを踏んだかという道路の情報がとれます。
 こうしたビッグデータを集めると、例えば、ブレーキをよく踏んでいる交差点が特定でき、「どこが危ない交差点か」といったデータが統計的にきっちりとれることになります。あるいは、「どこの交差点で、何時間、何億円分渋滞しているか」ということが特定できるようになります。すなわち、時間帯別にどこがボトルネックなのかを解析し、ソフト対策も活用しながら解消することにより、道路全体を生かすことのできる時代が来るはずです。4車線の道路で1箇所だけ2車線となっている場合、そこがボトルネックになるが、そこを4車線にすれば前後のキャパシティまで生かせるのと同じです。
 高速道路のみならず、どこの区間を、どういう風に車を走らせると一番クリーンで、一番安全で、一番時間短縮して走らせられるかということを考えていきたいと思います。
 このように、整備された道路を、繊細なオペレーションで最大限賢く使いつくすというのは日本人の得意な分野でもあるはずです。
 アジア諸国は、アメリカのように車線数の多い道路整備はできないため、日本と同じ問題に直面していくことが予想されます。すなわち、交通をコントロールしていくという技術を確立することで、国際的な競争力にもなり、輸出することのできる技術になりうるのです。(以下次号)

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