建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2014年2月号〉

 山本建設株式会社 代表取締役
 NPO 法人 北海道エネルギー研究会 会員
 稚内新エネルギー研究会 会員
 北海道新エネルギー研究会 会員
 菊池 工



雪氷貯蔵「勇知いも」を原料にした稚内「激レアグルメ」が続々誕生

――幻のブランドで果物並の甘さを誇るスイーツの材料に全国から注目
北海道知事表彰(2013年度新分野進出優良企業)を受賞

─― 社長の略歴をお聞きしたい
菊池 会社の創業は昭和12年で創業者は山本周市で、二代目は茂野和雄です。私は平成16年に社長に就任しました。私は昭和20年に満州で生まれました。当時は父親が満鉄に勤めており、復員したのは昭和25年頃のことです。昭和39年に稚内高を卒業し、当社の前身である稚内砂利(株)に入社しました。当時は大林組の協力会社として、戦後復興期のインフラ整備に携わりました。
─― 昭和47年に山本建設へ改称しましたね
菊池 創業者の山本は、当時は稚内市議会議長を勤めており、山本建設に改称したのです。当時は大林組の現場がかなりありましたが、私が社長に就任した平成16年は、建設業にとって最悪の時期でした。受注の確保に大変苦労致しました。
─― 主力分野は
菊池 道路整備を中心とした土木です。ただ、この2,3年は過剰競争でなかなか受注できず、道路維持工事だけの状態にありました。維持工事では利益はありませんが、地域を守るとの意識で臨んでいます。
─― そうした状況もあって、新分野に目を向けることになったのですね
菊池 稚内新エネルギー研究会は平成17年に発足しましたが、私は平成17年に、大林組にも会員への参加を要請しました。その時、タイミングが良く、H16年度NEDO・大林組が低温凍結熱媒と雪氷による氷点下貯蔵庫事業が採択され、候補地を捜していたとの事で当社の敷地で実施することになったのです。
 これからは自然エネルギーが主流になると感じていたので、着手することにしました。幸い、本業は資金運営がしっかりしていたので、実現できたのです。
雪氷等の自然冷熱利用による貯蔵庫
─― 雪氷等による自然冷熱利用貯蔵施設の稼働に当たっては、いろいろと試行錯誤があったのでは
菊池 最初はタラバガニの水槽として、海水を注入しただけで、餌を与えず仮死状態でどれくらい保存できるかをテーマに実験しました。50日間、仮死状態で保存したカニと、収穫したばかりのカニの食味を比較したのですが、遜色はありませんでした。
 これによって、稚内のカニ、ホタテ、ホッキガイなどに拡大し、貯蔵できるとの確信が得られ、21年9月末で実証を終えました。
 この他には、タマネギ、ニンジン、ダイコン、ジャガイモ、カボチャなどの農産物にも試しましたが、湿度の加減が難しく、失敗を繰り返しながらダイコンとジャガイモ、ニンジンで成功しました。
 このうちジャガイモの貯蔵は平成18年から共成建設生産のじゃがいもで貯蔵試験を始めていますが、動機は和寒の越冬キャベツがテレビで紹介されていたので、これをジャガイモでできないかと考えたのです。それで実験した結果、糖度が上がることが判明したために、以後はジャガイモに特化しました。それまでは勇知いもというのはよく知らなかったのですが、手がけているうちに歴史が分かりました。大正期や昭和の頃には関東、関西方面で好評で、かなりの評判だったようです。昭和36年に2,000トンくらいの取扱量だったようです。
 ところが、酪農への転換が進み、畑作農家が減少し、勇知いも生産者は、大硲牧場さんと共成建設さんの2軒しか作らなくなりました。それが貯蔵事業を通じて判明したので、復活させようと考えました。
低温貯蔵(野菜庫)状況 糖度比較(自社測定による)
─― その「わっかない勇知いも研究会」代表の大硲さんと出会うきっかけになったのですね
菊池 畑地の造成に当たって、大硲さんが共成建設を指導していたので、間接的には知っていましたが、平成21年に稚内地産地消研究会を発足した時に、会長就任を依頼してから関係が始まりました。大硲さんも、この貯蔵施設で糖度が上がることは想像もしていなかったようで、事業化してこれほど多忙になるとは思わなかったと漏らしていました。
─― 食材の魅力を最大限に引き出す技術ですね
菊池 甘くなると同時に味も向上するのです。使用しているオホーツク海のミネラルの豊富な氷が、作用していると言われています。ただ、生産農家も高齢化しているので、これ以上、注文を増やされると困るとのことなので、今年度からは選別機をはじめ生産機械による機械化が実現します。総生産量は40tくらいですが、そのうち22tを貯蔵施設で低温貯蔵しています。
─― 品質は均一なのですか
菊池 糖度は10〜15度くらいで、品種によってバラつきはあります。それでも10度となると、初物のイチゴと同程度です。
─― どんな用途に用いられていますか
菊池 菓子類では寺江食品、香花堂、オレンジエッグの三軒の菓子屋に納品しており、このうち商品化されているのはオレンジエッグです。
 他には本間水産で、「かにたっぷり!!コロッケ」という商品が開発され、売れ始めています。今月は小鹿さんという菓子屋が勇知いもを使用したいとの要望で、1月から試作品作るとのことです。
 このように、着実に盛り上がりを見せています。
平成23年10月札幌丸井今井(キタフェスティバル) 平成25年2月ハッピーロード大山商店街(東京都板橋区)
平成25年8月 最北端食マルシェ(稚内市)出店販売
─― 品種は複数を扱っているのですか
菊池 勇知いもの原料としては農林1号からスタートし、後にアンデスレッド、きたあかり、メークイン、そして果物なみに甘くなるのはインカのめざめで、メロン並みになります。それだけに、これだけはどこでも高額で販売されています。大硲さんは3種類、北武建設も同じく3種類、共成建設が5種類を栽培していますが、最近は病害虫に強く量産しやすいサヤアカネという品種を北武建設、大硲農場さんが導入しています。これらの全品種を、毎月糖度の測定をしています。
─― 新たな顧客開拓は順調ですか
菊池 最近は生食で関東・東京方面へ輸出しています。麻布十番と西麻布のレストランに毎月30〜40sくらいを送っています。
 また、板橋区のハッピーロード大山商店会に、全国の食材を扱うとれたて村というのがあり、そこにも出荷しています。
─― 価格帯はどれくらいのものですか
菊池 1sで200円なので、10sで2,000円ですが、これを空港などで買ったなら、インカのめざめは8,000円、その他も4〜5,000円の価格ですから安いですよ。東京での評価は、築地市場のものよりも多少は高いけれども味は良いと好評です。
─― 全国の勇知いも備蓄基地となっていますね
菊池 道でも雪氷や他のエネルギーも使用しながら備蓄基地を実験していますね。この施設では、換気扇電灯を太陽光発電と風力発電施設から受電しており、また、製氷も稚内の寒さだけを利用するなど、自然エネルギーを使用するところに付加価値があるものと思います。
 ただ、野菜の貯蔵庫を増設しているので、そこに経費がかかっています。しかし、10tトラック4台分の増設が完了したので、当面は賄いきれる体制にはなっています。
─― 今後の収益の見通しは
菊池 施設をさらに拡大しないと、利益は出ないでしょう。しかし、地域貢献の意味では、菓子屋の人気も上がるなど波及効果は大きいので、8割以上はボランティアとして割り切っています。
 また、オレンジエッグが「ポテマルコ」というクッキーを開発し、稚内駅の「キタカラ」というところで販売していますが、売り上げはNo1です。そのほかに、身障者を雇用して芋餅を製造しているところもあります。
─― 新年を迎えて、スタッフにはどんな訓辞をしましたか
菊池 方針としては、本業の土木建設を安全に着実にこなすことです。
わっかない勇知いも研究会「勇知いも」
─― 技術向上にはどのように取り組んできましたか
菊池 かつては4qに及ぶ道路工事がありましたが、近年はそれほど大規模の工事はあり得ないですね。大林組の協力会社として、長い延長で擁壁を設置しながら施工していました。お陰で、当社の技術は当時としてはトップレベルにありました。ゼネコンを手伝いながら技術を磨いてきたのです。
─― 今年度は、北海道建設部新分野進出優良企業知事表彰を受けることになりましたね
菊池 少しは認められたのかな、と思います。ただ、私一人の功績ではなく、多くの関係者があってのことで、製品は各社が作ってくれていますから、私が代表して受け取るものと考えています。稚内市役所からは応援頂き、稚内ブランド認定品としてPRしてくれています。道や開発局も支援してくれています。
─― 今後は増産体制をさらに整えることが課題ですね
菊池 貯蔵庫の拡充をしたいと、わっかない勇知いも研究会では話し合っています。一方、宗谷農業改良普及センターの指導のもと、北海道に於ける「北のクリーン農産物表示制度」Yes,cleanという低農薬で環境に配慮した表示制度で今年度から会員の皆さんが来年に向けて取り組んでおり、認証されると、低農薬で環境に配慮し、安全な食材を提供する業種として認知されることになります。
─― 勇知いもが採れる勇知地区の魅力が向上しますね
菊池 稚内市勇知地区は、芋が一番良い状態に生育する時期に全道の中でもトップクラスで日照時間が長く、雨は少なく、高湿にならず、病害虫が寄りつくような要因が全くなく品質の高いいもが、その要因で生産されます。
 また、利尻島の恩恵を受けています。利尻山(利尻富士・1718m)が雨雲を遮り、勇知地区を回避するように分かれるので、両側では降雨でも勇知地区だけは降らないのです。そして、勇知地区からの利尻富士の眺めは優れています。したがって観光資源にもなります。大硲さんの近くにアトリエ華という喫茶がありますが、そこから眺める利尻富士が最高の眺望です。

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