建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2013年12月号〉

我が国最大級の水路トンネルを構築

―― ダム再開発事業による洪水調節能力の強化及び水道用水の確保、発電能力の増強

国土交通省 近畿地方整備局 琵琶湖河川事務所





天ケ瀬ダムの概要

 天ケ瀬ダムは、昭和28年台風13号により甚大な被害を受けたことを契機に計画された「淀川水系改修基本計画」に基づき、昭和34年着工から6年をかけて昭和39年に完成した多目的ダムです。
 ダム地点の計画高水流量1,360m3/sを840m3/sに調節して宇治川の氾濫を防ぎ、更に下流にある淀川本川のピーク時には160m3/sに調節して下流の洪水を防ぐことの他、隣接する天ケ瀬発電所や天ケ瀬ダム湖を下部調節池として喜撰山発電所において揚水発電するとともに、宇治市、城陽市、八幡市、久御山町の上水を供給しています。
 しかし、計画規模の洪水に対して現状の天ケ瀬ダムは現治水計画※に対して、放流能力が小さく貯水容量が不足するため、下流側へ安全に洪水を流すことができない他、上流の琵琶湖においては、下流被害防止のために貯留した水位を速やかに低下させることができない状態です。

流入ピーク前後の洪水調節計画図(イメージ図)

天ケ瀬ダム再開発事業の目的

 このような治水上の課題に対して国土交通省近畿地方整備局は、近畿2府3県を流域とする淀川水系の治水対策として治水機能の強化や、あわせて利水機能も増強するため、淀川水系宇治川にある既設天ケ瀬ダム本体の左岸側へトンネル式放流設備を新設する「天ケ瀬ダム再開発事業」に着手しています。
 天ケ瀬ダム再開発事業の目的は、既設天ケ瀬ダムの治水及び利水機能を向上させることであり、大きくは「洪水調節機能の強化」、「水道用水の確保」、「発電能力の増強」の3つがあります。
 まず、「洪水調節機能の強化」として、放流量を安全に増加させ洪水時の貯水容量を効率的に活用することで、計画最大流入量2,080m3/sを1,140m3/sに調節を行い、より大きな洪水に対しても、宇治川や淀川本川の氾濫を防ぐとともに、上流琵琶湖沿岸地域で発生している浸水被害に対しても、1,500m3/sの放流能力を確保することで琵琶湖水位を速やかに低下させ、被害軽減を図るものです。


トンネル式放流設備の構成(平面図と縦断図)

 次に「水道用水の確保」として、京都府南部地域における人口増加に対応した水道施設の整備に対して、宇治市、城陽市、八幡市、久御山町の3市1町を対象とした水道用水を安定的に供給するための新規水源を確保します。
 最後に「発電能力の増強」として、揚水発電を行っている喜撰山発電所の上部調整池有効貯留量に対して、洪水期における天ケ瀬ダムの容量不足を解消して、近年の電力需要に対応することとしています。
 これらを目的として整備するトンネル式放流設備は、「流入部」「導流部」「ゲート室部」「減勢池部」「吐口部」で構成されており、全体延長約617m減勢池部においては最大トンネル径幅21m、高さ26mといった、水路トンネルとしては日本最大級の構造を有しています。
 また施工にあたっては、模型実験による検証を行いつつ騒音や水勢、さらには大規模地震に対する安全性にも配慮しています。

減勢池部のイメージ


後期放流(イメージ図)

おわりに

 天ケ瀬ダム再開発事業は、昭和50年に予備調査を開始して、平成元年には建設事業化、平成10年に工事用道路に着手した後、河川法改正に伴う淀川水系河川整備計画の策定を受け、工事実施に必要となる具体的な構造検討を進めてきました。また、事業実施の周辺には平等院鳳凰堂や宇治上神社などの歴史的な遺産が豊富にあり、自然景観に優れた地域の宇治市であるため、周辺景観との調和を目指した景観保全の対策を行ってきました。
 現在、地権者の皆さまをはじめ、関係の方々のご理解、ご支援により本体部分であるトンネル式放流設備に着工したところです。引き続き早期完成に向けて鋭意事業を進めていきます。

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