建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2013年9月号〉

【寄稿】被災の苦況にも挫けず、着実に進む復旧整備

 国土交通省 東北地方整備局
 釜石港湾事務所

 副所長 及川 隆






 釜石港湾事務所が所管する岩手県内には、四つの重要港湾と二つの地方港湾があります。私たちはその中で、四つの重要港湾を整備しています。何れも3.11の東日本大震災による地震津波被害を受けましたが、鋭意復旧に努め、復旧整備が終盤を迎えた港湾もあります。以下に、四港湾について紹介します。


久慈港

久慈港(平成25年3月空撮)

諏訪下地区に押し寄せる津波(第一波)
諏訪下地区(-10m)岸壁と座礁したFD
湾口防波堤上部コンクリート撤去状況

 三陸沿岸の北部に位置する久慈港は、周囲が陸中海岸国立公園に指定されており、良好な漁場として古くから漁業のまちとして栄えてきました。
 地元の久慈市では「海洋にひらかれた都市」づくりを目指し、昭和59年には久慈新港に1万5,000t級の岸壁が完成しました。昭和62年には国家石油地下備蓄基地の建設が始まり、半崎地区の工業開発を中心とした整備が進められています。
 私たちは現在、津波被害から生命・財産の防護、港内静穏度向上による安全な岸壁荷役、荒天時の避泊水域などを確保するため、北堤2,700mと南堤1,100mの久慈湾口防波堤を建設しています。
 この湾口防波堤により、津波による港内の水位を低減させ、さらに既存の防潮堤との連携により津波からの被害を最小限に食い止める計画です。また、久慈港内の静穏域が確保されることで、港内の多目的利用が可能となるなど、湾口防波堤建設は久慈地域発展に大きな期待が寄せられています。
 しかし、平成23年3月の東日本大震災による津波により港湾施設が大規模に被災しました。
 久慈港の主な被災状況について、湾口地区では湾口防波堤(北堤)のケーソンが一部損壊した他、諏訪下地区では仮置していた湾口防波堤ケーソンの損壊やケーソン製作用FDの損傷、また、岸壁・護岸等の損壊など港湾施設が数多く被災しましたが、着実に復旧も進み、今年度中に概ね復旧する予定です。
 また、湾口防波堤の進捗状況は、平成10年度からケーソ据付に着手し、現在も鋭意工事中であり、平成25年度末時点で、北堤約375m、南堤約935mのケーソン据付が完了する予定です。

宮古港

宮古港(平成25年3月空撮)

 宮古港は、南北180qにおよぶ陸中海岸国立公園のほぼ中央に位置し、古くから三陸沖の漁業基地として位置付けられてきました。美しい海岸風景が続くのが特徴です。背後地には、窯業、鉱業、木材工業などの企業が立地しており、搬入港としても重要な役割を果たしています。
 昭和4年から内務省の直轄事業として出崎ふ頭の整備が開始され、その後昭和26年に重要港の指定を受けました。昭和29年から1万t岸壁の建設に着工し、内陸の交通体系の整備と併せ、近代港湾としての形態を整えてきました。


被災後の宮古港ケーソンヤード 出崎地区岸壁(-9m)上部工
竜神崎地区防波堤の被災状況 出崎防波堤ケーソン製作

 現在は、市街地と連携した『みなとまちづくり』を目指し、鍬ヶ崎・出崎地区再開発事業促進及び静穏度確保のため、竜神崎地区防波堤(400m)の整備を進めています。
 しかし、平成23年3月の東日本大震災による地震や津波により出崎防波堤がケーソン14函が倒壊し、竜神崎地区防波堤は先端部が倒壊しました。このほか出崎地区・藤原地区などの岸壁・物揚場等の損壊や地盤沈下など港湾施設が数多く被災しましたが、着実に復旧も進み、港湾施設については、復旧が終盤を迎えており、今年度中に概ね復旧する予定です。
 竜神崎地区防波堤(400m)は、継続して建設を進めており、平成25年度末で330mのケーソン据付が完了する予定です。
 この防波堤の完成によって周辺水域の静穏度向上を図り、航行船舶の安全性が確保されます。


釜石港

釜石港(平成25年3月空撮)

津波により被災した湾口防波堤
 釜石港の位置する釜石市は、「鉄と魚のまち」として栄え、日本で最初の洋式高炉による鉄の出銃に成功した近代製鉄発祥の地です。明治以降、鉄鋼業の発展とともに港湾が整備され、明治5年に日本人の手による海図第1号「陸中国釜石港之図」が作成されました。これは、釜石港が当時から良港として重要視されていたことを示しています。
 しかし、津波被害を受けやすい三陸海岸に位置しているため、古来から数多くの津波被害に襲われ尊い人命と貴重な財産を奪われてきました。例えば、明治29年及び昭和8年、35年に、大津波が襲来し、また昭和20年には艦砲射撃により、釜石港は大きな被害を受けましたが、その都度修築工事が行われてきました。
 そのため、津波災害時の防護、港内静穏度の確保を目的に、昭和53年から水深63mの世界最大級の湾口防波堤の建設に着手し、平成20年度に完成しました。
 この釜石港湾口防波堤は、防波堤としては初めて本格的な耐震設計を取り入れており、来襲津波に対して港内水位を防潮堤天端(T.P+4.0m)よりも低い水位に減哀させることで、津波を防ぐ仕組みとなっています。そして、中央部(開口部)の300mを大型船の航路として確保し、その両面に北堤(990m)と南堤(670m)の2本の防波堤をハの字型に配置することで、大型ケーソンに消波機能を備えた構造(スリットケーソン式混成堤)となっています。
 さらに開口部300mの航路下には、湾の遮蔽率を上げ、津波の遡上を抑えるため、海底から水深-19mまで潜堤を設けています。完成は平成20年度で、平成22年7月27日に「世界最大の水深の防波堤(Deepest breakwater)」として、ギネス世界記録に認定されました。
 しかし、平成23年3月の東日本大震災による地震や津波により湾口防波堤や須賀地区の岸壁、ふ頭用地等の損壊や地盤沈下など港湾施設が数多く被災しました。
 特に大規模に被災した湾口防波堤の被災状況は、南堤が670mの内、370m分のケーソン12函が滑動・転倒し、北堤が990mの内、870m分のケーソン37函が滑動・転倒し、また、開口部も幅300mすべてに渡り崩壊し、潜堤ケーソン11函が基礎マウンドから滑落しました。

倒壊したケーソン撤去作業 ハイブリッドケーソン釜石港入航

 復旧の方針としては、湾口防波堤と防潮堤を効果的に組み合わせ、市街地と港湾を津波から防護することとしています。
 災害復旧期間は、過去に類が無い大規模災害であったため、H23年度からH27年度までの5カ年間での復旧となっています。
 復旧に際し、釜石港では、復旧工事で使用できる作業ヤード、特にケーソン製作場の確保が困難であったことから泉作業基地(約55千m2)の活用を図ることとし、地震で沈下した岸壁・護岸などの施設を含む作業基地全体の嵩上げ(70cm)及びケーソン製作用の打継桟橋・打継場・仮置場など新たな施設の整備を行い、復旧工事の作業ヤードとして復活させました。
 南堤ケーソンの製作に当たっては、釜石港内には、泉作業基地以外にケーソン製作場が無いこと、その泉作業基地内で復旧期間内に製作可能なケーソンは、北堤ケーソン(37函)が限界であること、などの問題点・課題への対応として、釜石港以外での製作を条件に長大ケーソンが製作可能なハイブリッドケーソンを採用しました。現在、長さ50mハイブリッドケーソンを名古屋港・千葉港で製作し各々2函の計4函は製作が終了し、順次、釜石港へケーソンを回航しています。また現在、津松坂港では2函のケーソン製作を行っています。
 被災したケーソンの内、撤去が必要なケーソンは、南堤2函、北堤19函となっており、概ね平成26年度早々までの撤去を予定しているケーソンの撤去は、大型グラブ浚渫船により実施しており、撤去方法は、上部コンと蓋コンを砕岩棒(43~55t)で破砕し、その後、ケーソンの側壁・隔壁・中詰材と一緒に、硬土盤グラブ(6.3~17.5m3)にて撤去する作業を行っているが、施工場所は第一線防波堤で、厳しい海象条件下での施工であること、大型のケーソンの撤去は過去に類が無いこと、ケーソンの各部材も厚く、強固であることなどにより、大変厳しい撤去作業となっています。
ハイブリッドケーソン据付
 湾口防波堤の復旧は、平成23年度に工事が始まり、2年が経過する現在、南堤では名古屋港で製作されたハイブリッドケーソン2函(100m)の据付が完了し、今年度は残るハイブリッドケーソン4函(200m)の据付を実施する予定、北堤では継続してケーソン撤去作業を実施しており、今年末頃にはケーソン据付を開始する予定です。据付したケーソンが海上に現れたことにより、釜石の市街地と港湾を防護する湾口防波堤の復旧が本格化したことで、市民に復興への勇気と希望をあたえ、津波への安心・安全が高まり、市街地の復興にも弾みがついていくものと信じています。


大船渡港

大船渡港(平成25年3月空撮)

 大船渡港は岩手県沿岸南部に位置し、古くは伊達藩の頃から天然の良港として栄えてきました。昭和34年に県内では3番目の重要港湾に指定され、小野田セメント大船渡工場をはじめとする誘致企業が繰業を開始し、臨海工業帯としての港湾利用が活発化しました。また、県南内陸都市との物資流通港としても重要な役割を担っています。
 昭和35年のチリ地震津波の被害を契機に、津波から国民の生命と財産を守るため、湾口部にわが国で初の津波防波堤が整備されました。
 この防波堤の特徴は、目的が津波対策であるため、津波来襲時の海水流入量の制限を行う必要があり、中央開口部を10万t級の船舶が入港可能な水深(-16.3m)に規定し、潜堤も建設していることです。また、地形的には最大水深が-38mに及ぶ大水深防波堤で、中央防波堤部分では堤体の平均高さが40mに及んでいる部分もあります。
 防波堤標準部の構造は、基礎捨石上にケーソンを据付、上部にコンクリートを現場打設したものです。また、開口部は-22.3mまで基礎捨石を行い、この上に高さ6mの鋼製セルを据付け、中詰めをプレパック土コンクリートによって現場打設した構造となっています。
 しかし、平成23年3月の東日本大震災による地震や津波により湾口防波堤の全壊、岸壁の破損・沈下、臨港道路の損壊、防潮堤の倒壊など港湾施設が数多く被災しました。
 特に大規模に被災した湾口防波堤の被災状況は、南堤291m、開口部201m、北堤244mのケーソン48函、ほとんどが基礎マウンドから滑動・転倒しました。


湾口防波堤ケーソン製作(FD) 湾口防波堤基礎捨石投入作業
湾口防波堤(北堤)ケーソン据付 湾口防波堤(南堤)ケーソン据付

 復旧の方針としては、釜石港と同様に、湾口防波堤と防潮堤を効果的に組み合わせ、市街地と港湾を津波から防護することとしています。
 災害復旧期間についても釜石港と同様に、過去に類が無い大規模災害であったため、H23年度からH27年度までの5カ年間での復旧となっています。
 湾口防波堤の復旧は、総延長736.4m(南堤ケーソン13函、北堤10函、取付部(基部)両サイドには新たに20mの開口部を設け、また、中央の開口部には水質保全の通水口を設ける構造)とし、平成23年度に工事が始まり、2年が経過する現在は、工事も本格化しFDで製作したケーソン6函(南堤2函・北堤4函)(120m)の据付が完了し、今年度末には、残りケーソン4函(80m)の据付を実施する予定で、今年度中としては合計10函(200m)のケーソン設置が終了します。全体の完成時期については、災害復旧期間内の平成27年度末を目標に工事を進めています。


HOME