建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2013年7月号〉

【寄稿】復興に向けたリーディングプロジェクト「三陸沿岸道路」

―― 復興のため1日も早い完成に向け全力

 国土交通省 東北地方整備局
 仙台河川国道事務所

 所長 桜田 昌之






1.はじめに

三陸沿岸道路 仙塩道路の整備状況(4車線化事業中)
 国土交通省仙台河川国道事務所は、宮城県仙台市に拠点を置き、河川〔一級河川の阿武隈川(下流)・名取川〕、海岸〔仙台湾南部海岸〕、道路〔一般国道4号・6号・45号・47号・48号・108号、三陸沿岸道路〕の維持管理や整備を行っています。当事務所が管理する河川、海岸、道路は、東日本大震災の地震・津波により甚大な被害を受けました。被災地の一日も早い復興のため、主要な事業でプロジェクトチームを立ち上げる等、地権者、地方公共団体等の皆様の多大なるご支援・ご協力を賜りながら、スピード感を持って事業を実施することを心がけております。
 本紙面においては、当事務所が行う事業のうち、三陸沿岸道路について紹介いたします。

2.“命の道”三陸沿岸道路

 三陸沿岸道路は、宮城、岩手、青森の各県の太平洋沿岸を結ぶ延長359kmの自動車専用道路です。このうち震災当時の完成区間は約130kmであり半分も供用されていませんでした(供用率約36%)。しかし、完成区間は震災時には「命の道」として、人的支援や物資輸送の緊急輸送道路として機能した他、津波からの避難場所としても使用され、副次的な防災機能を発揮しました。また、ルートが、過去の津波を考慮して高台に計画されていたため、津波の被災から免れ、緊急輸送等に大きく貢献するとともに、道路の重要性が改めて確認されました。
 その一方で未開通区間が多いことから、被災した国道45号の迂回・混雑等により、仙台から宮古間は7時間以上も要しました。
 このため、地域経済の再生や生活環境の向上を支える復興のリーディングプロジェクトとして、震災直後より県、被災市町村から未開通区間の早期整備が強く要望されていました。

復興道路・復興支援道路 三陸沿岸道路(宮城県内)の概要

3.全線事業化が決定

 政府の東日本大震災復興構想会議において、地域活動を支える基盤強化として、三陸沿岸道路など緊急整備に関する提言がなされました。
 ルートを具体化する作業は、平成23年7月から着手し、まずは、ルートが通過する概ねの範囲を市町村や地域の皆さまに提示(1km幅)し意見聴取、8月には概ねのルート、ICの位置を再度、市町村や地域の皆さまに提示(500m幅)し意見聴取しました。いただいた意見を反映し、8月末にルートの確定に至ったものです。
 主な意見として、「津波浸水区域を回避して欲しい」「市町村の復興まちづくり計画に配慮して欲しい」「避難機能の具備」などの意見が寄せられました。
 9月から事業評価手続きに着手し、10月には、評価結果が公表され、平成23年11月に第3次補正予算の成立により、「復興道路・復興支援道路」として、新たに148kmの事業化が決定されました。
 宮城県内の三陸沿岸道路は延長126km(当事務所事業区間:108km)であり、震災前には仙塩道路、矢本石巻道路等74kmが供用され29kmが事業中でしたが、補正予算により残る23kmが事業化されています。また、補正予算により34kmの4車線化が決定し、現在は、48km(当事務所事業区間:34km)で4車線化の事業を行っています。

4.三陸沿岸道路の新たな考え方

 本道路は、地域の暮らしを支え、命を守るためには、早期の全線整備が必要であり、平時には暮らしを支え(医療サービス、産業、観光)、災害時には命を守る(避難、救命救急、復旧)という機能を持った道路整備が必要です。また、厳しい財政状況から、より一層の効率性が問われており、基本設計を見直し、低コストの実現が求められています。
 そのため、6つの設計コンセプトにより、低コストを実現しつつ、暮らしを支え命を守る機能を強化しました。

●6つの設計コンセプト

@強靱性の確保(ルートは津波浸水区域を回避)
 大震災における津波に対しても、道路が寸断されることなく交通機能を確保することが大きな命題であり、強靱性を確保していく必要があります。
 三陸縦貫自動車道は、95%が津波浸水区域を回避しており、今回の震災においても、被害は確認されていません。
A低コストの実現
 従来の4車線、トランペット型ICを見直し、地域の交通状況や土地利用状況を踏まえ、2車線整備で、かつコンパクト型のICに見直していく必要があります。
B復興まちづくりの支援
 復興まちづくりと一体となって、アクセス性の確保、利便性を考慮し、出入り口を配置していく必要があります。
C拠点と連絡するIC等の弾力的配置
 平時、災害時の利便性に配慮し、水産業や商工業施設、防災拠点施設等へのアクセスや病院への緊急車両出入り口の設置等、ICを弾力的に配置していく必要があります。
D避難機能の強化
 今回の震災で、三陸沿岸道路が避難場所となったり、緊急避難路で直結する等の事例や地域からの要望も多く寄せられたことから、災害時の避難機能(緊急避難路、避難階段の設置等)について具備していく必要があります。
EICT(情報通信技術)による通行可能性把握
 ITSスポットや民間プローブ情報等を活用し、災害時に通行可能なルートをドライバーに提供していく必要があります。

関連する土地利用との調整(南三陸町) 「4車線、トランペット型IC」→「2車線、コンパクト型IC」
避難階段の設置(東松島市)「歌津〜本吉」 起工式(H24.11.3)(気仙沼市)

5.新規区間が1年で着工

 通常の道路事業においては、測量、設計、用地、工事の各段階において、順々に手続きを経ながら、工事着工までは4年程度要していますが、「歌津〜本吉」では、新規事業化から一年足らずというスピードでの着工となりました。新規事業化した復興道路・復興支援道路の18区間、224kmのうちで、最も早い工事着工となります。
 スピード着工に至った原動力として、以下があげられます。
・地元説明会に首長ご自身がご出席頂き、地域と一体となって取り組んだこと。
・速やかな用地契約など、地元の多大なるご協力や熱意。
・国会等中央政府のご理解と予算上の配慮。
・復興道路会議の設置による国・県・市町村の連携。
・国内初の取り組みとして、民間の技術力を活用した事業促進PPPの導入。
・効率的な事業推進のために設立した復興道路気仙沼推進チーム。
 これらにより官・民が一丸となって、様々なプロセスを短期間かつ並列進行が出来たものです。

6.おわりに

 三陸沿岸道路は、前述のとおり、広域的経済活動の支援や災害時の救急活動の支援など、地域の皆様方から早期完成への強い要望が寄せられているところです。宮城県そして東北地方の一日も早い復興のため、仙台河川国道事務所はこれからも早期の完成を目指し最大限努力して参ります。引き続き関係者の皆様のご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。


HOME