建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2013年7月号〉

【寄稿】中部横断自動車道の現在

―― 山梨・静岡のかけ橋

 国土交通省 関東地方整備局
 甲府河川国道事務所

 所長 吉岡 大藏






甲府河川国道事務所の概要

甲府河川国道事務所 管内図
 甲府河川国道事務所は、災害に強く、誰もが安全して暮らすことが出来る活力と魅力に満ちた国土づくりを目指し、山梨県内と静岡県の一部において河川及び道路事業を実施しています。河川事業は富士川、釜無川及び笛吹川等の計122kmの維持管理、浸水被害解消のための築堤護岸等の整備や、防災ステーションの整備、環境整備等を行っています。
 また、道路事業は国道20号、52号、138号、139号の4路線の計258kmの維持管理、広域ネットワークを形成する中部横断自動車道(富沢〜六郷)の整備、道路拡幅やバイパス事業、交通安全対策や電線共同溝整備を行っています。
 その中から、「強くしなやかで国際競争力のある国土の形成」と「首都圏における環状ネットワークの形成」を目的に整備を進めている中部横断自動車道(富沢〜六郷)を中心に、当事務所の取り組みを紹介します。



中部横断自動車道の概要(以下、IC名称は仮称)

首都圏における将来の環状ネットワーク図
 中部横断自動車道は、静岡県静岡市を起点とし、山梨県甲斐市を経由し長野県小諸市に至る延長132kmの高速自動車国道で、当事務所は山梨県南巨摩郡南部町の「富沢IC」から西八代郡市川三郷町の「六郷IC」間の28.3kmを直轄高速区間として平成29年度の供用を目標に整備を推進しています。
 中部横断自動車道(富沢〜六郷)区間内の主要幹線道路である国道52号は、地形や地質等の特性から、大雨等の際に通行止めを実施する事前通行規制区間が2箇所(延長7.2km)存在します。これらの地域では、通行止めが実施されると、孤立する集落が発生することが懸念されますが、中部横断自動車道(富沢〜六郷)の整備により代替道路が確保され孤立集落の解消が期待されます。
 また、江戸時代の「富士川舟運」より続く、山梨県と静岡県の交流・連携においても、中部横断自動車道の開通により「甲府市内〜静岡市内」の移動時間が約1時間短縮され、両県のより一層の活性化が期待されます。

中部横断自動車道(富沢〜六郷)の整備効果
(事前通行規制時における孤立集落の解消)
中部横断自動車道(富沢〜六郷)の整備効果
(移動時間の短縮)

中部横断自動車道の事業進捗状況について

施工状況(醍醐山トンネル)
施工状況(富士川第一橋梁)
施工状況((仮称)南部IC付近)
 平成25年度当初の事業進捗率は、富沢IC〜南部IC間が約53%、南部IC〜身延IC間が約24%、身延IC〜六郷IC間が約38%、区間全体では約35%であり、今年度は更にトンネル工事を8箇所、橋梁下部工を10箇所実施する予定です。
 中部横断自動車道(富沢〜六郷)間は、延長の約75%がトンネルや橋梁等の構造物で占められており、トンネルでは、平成24年度までに醍醐山トンネル、城山トンネル及び楮根第4トンネル等を施工しているほか、今年度は、和田トンネル等の工事に着手する予定で、今年度中にトンネル全19箇所中、16箇所の工事に着手する予定です。
 また、橋梁では、一色川橋(PC2径間連続ラーメン箱桁橋)や田中川橋(PC3径間連続I桁橋)、矢沢川橋(鋼3径間連続I桁橋(少主桁))が完成し、今年度は、富士川を渡河する富士川第一橋(鋼10径間連続細幅箱桁橋)等の施工を引き続き行うほか、椿川橋(PC5径間連続ラーメン箱桁橋)や、常葉川橋(鋼2径間・鋼2径間・鋼4径間連続非合成細幅箱桁橋)の下部工に着手する予定で、今年度中に全41橋中、35橋が完成もしくは施工中となる予定です。
 土工区間では、六郷IC周辺の改良工事を引き続き行うほか、富沢ICや南部ICの改良工事にも着手するなど、早期供用を目指し鋭意事業を推進しています。
 インターチェンジについては、「地域活性化IC」として、平成24年5月に南部ICと身延ICの間に「身延山IC」、本年6月には、身延ICと六郷ICの間に「中富IC」の追加の整備計画変更(連結許可)がなされました。




環境への配慮

 中部横断自動車道(富沢〜六郷)は、自然環境が豊かな地域を通過する道路であることから、工事実施にあたっては環境への配慮を適切に実施しています。
 事業箇所近傍には、クマタカ、オオタカ、サシバ等の希少猛禽類の営巣が確認されており、事業の円滑な実施と希少猛禽類との共生を目的に、平成19年12月より中部横断道猛禽類保全検討委員会を設置し、必要な保全対策措置を講じながら事業を進めています。
具体的対策としては、
1)CCDカメラによる巣内観察を実施し、餌内容確認など生態把握を行い、生息・繁殖に及ぼす影響を評価
2)営巣木へカメラを設置し常時記録を行い、繁殖期に工事を行う場合は工事による影響の有無を確認
3)オオタカが好む林分を解析し抽出後、代替巣を設置しオオタカを誘導
4)既知の営巣地付近で工事を行う場合は、非繁殖期からの継続施工によるコンディショニングと、繁殖期中の騒音への配慮を行うなどの措置を図りながら工事を実施しています。
 また、身延町一色地区はホタルの自然繁殖数「東日本一」を自負する自然豊かな地区であり、この環境をまもるため、地域住民で結成された「一色ホタル保存会」が中心となり、環境づくりを行っています。
 一色地区で施工中の「醍醐山トンネルその2工事」における取り組みとして、
1)ホタル同士のコミュニケーションを害しないよう、工事中は現場外周を遮光シートで覆う
2)「工事で発生する排水(濁水)は、現場内に設置した濁水処理施設で処理し、一色川に放流などの措置等を講じ、施工を進めています。

夏休み親子見学会(醍醐山トンネル) 一色ホタル祭りでの事業紹介(身延町一色)

まとめ

 中部横断自動車道(富沢〜六郷)以外の道路事業では、国道20号の大月バイパス、竜王拡幅、国道52号の上石田改良、国道138号の新屋拡幅、139号の都留バイパスや交通安全事業や電線共同溝整備事業のほか維持管理においては、道路管理施設の総点検と老朽化対策の推進及び公共施設の耐震化を重点的に進めていくほか、事前通行規制区間の早期解消に向けた防災対策の実施を進めています。
 河川事業では、日本三大急流の一つに数えられる富士川の無堤部解消を目的とした築堤護岸整備や老朽化した管理施設の改善・機能向上を目的とした設備改善措置等を実施します。
 引き続き、災害に強く、誰もが安心して暮らす事ができる国土づくりを目指し、既存施設の維持管理、施設整備を推進します。

営巣木に設置したカメラと代替巣内の雛の状況 濁水処理施設(醍醐山トンネル)


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