建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2013年5月号〉

【寄稿】鹿野川ダム改造事業と地域との共生

鹿野川ダム安全協議会代表者
清水・安藤ハザマ 特定建設工事共同企業体 芳岡 良一

1.工事概要

 鹿野川ダムは、愛媛県南西部を流れる肱川水系の大洲市肱川町に位置し、約50年前に建設された重力式コンクリートダムである。
 鹿野川ダム改造事業は、その洪水調節容量を1.4倍(1,650万m3⇒2,390万m3)に増加させるものである。
 肱川流域の大洲市では、平成以降でも6回は洪水被害が発生しているため、この改造事業への期待は大きい。
肱川河川整備計画は、「鹿野川ダム改造」に加え「堤防整備」「山鳥坂ダム建設」の3本柱からなり、ダムと堤防による洪水対策となっている。想定している洪水の規模は、戦後最大の5,000m3/sである。
 鹿野川ダム改造事業関連の主な工事は、「トンネル洪水吐」と「選択取水設備設備」の新設である。

2.鹿野川ダム改造事業関連工事の特徴

約320m2の最大掘削断面施工状況
ドラゴンボート大会
肱川ふれあいまつり
 「トンネル洪水吐」は、延長約450m、標準部仕上り内径11.5m(最大掘削断面積:320m2)である。

特徴は、
@ダム下流より貯水池に向かって、大断面トンネルを掘進。
Aダム機能を維持したままの貯水池内に、呑口立坑(内径17m、深さ41m)を構築(鋼管矢板工法)。
B同貯水池内で、呑口立坑側からトンネルを迎掘りし貫通。等である。これら一連の工事の当該規模での施工は、日本初である。

 トンネル洪水吐に設けられるゲートは、呑口側が「スライドゲート(充水装置付)×1門( 幅:9.00m 高さ:19.17m)」、吐口側が「ラジアルゲート(幅:4.2m 高さ:7.5m))」で、共に日本最大級である。現在工場製作中で、平成26年秋頃より現地で組立、設置する予定である。
 「選択取水設備」は、鹿野川ダム本体に貫通孔(高さ:2.7m・幅:2.7m)を施工し、その中に放流管(φ1.5m)を設置するものである。あわせて堤体上流側にある既存の取水塔を撤去し、新たに選択取水設備を構築する。既設ダムへの影響を最小限にした堤体貫通孔掘削と、貯水池での大水深で施工する既設取水塔の取壊しおよび新設する選択取水設備構築の、工程確保・品質確保が課題である。

3.周辺地域とともに

 事業全体の事故防止対策として、発注者である国土交通省山鳥坂ダム工事事務所ご指導のもと、安全協議会を組織し、工事の安全管理に努めている。鹿野川ダム改造事業関連工事は、これから最盛期を迎え、建設発生土の搬出、3千トンを超える鋼管等大型資材の搬入が本格化するため、特に工事関連車両の安全走行を徹底したいと考えている。
 地域の方々と一体となって、ボランティア活動に参加している。肱川周辺の一斉清掃やれき河原の除草による景観保全等を行い、「肱川流域をもっときれいに」を合言葉に活動している。
 また、地域との交流を深めるため、毎年鹿野川湖で行われる「ドラゴンボート大会」や、「肱川ふれあいまつり」にも参加している。
 周辺地域は、一年を通じて肱川に関連した行事が多数催される。上記のほかに、花火大会、カヌーツーリング駅伝大会、鵜飼、大洲特産の里芋を使った「いもたき会」等々があり、いかに周辺住民の方々が、肱川を愛してやまないかが伝わってくる。しかし、前述のように数年に一度という高い頻度で洪水被害が発生しているため、この事業により安心して肱川とふれあうことができるようになることが共通の願いである。
 地域の宝であり文化の中心を担う「肱川」、その流域の発展に貢献できるよう、今後も、安全と環境に最大限配慮した建設工事を進めていく所存である。


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