建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2013年4月号〉

【寄稿】沖縄の振興と観光産業をリードする那覇港の整備

―― 沖縄21世紀ビジョン基本計画の推進に向けて

内閣府 沖縄総合事務局 那覇港湾・空港整備事務所
副所長 竹田 哲

写真1 各ふ頭の位置及び主な事業箇所

1.那覇港の概要

 那覇港は、もともと那覇港(通称:那覇商港)、泊港および新港(安謝新港)がそれぞれ独立した港湾であったが、昭和47年の沖縄の本土復帰に際して、これらの三港が一元化され、沖縄の本土復帰とともに重要港湾に指定された港である。
 那覇港は沖縄県第一の流通拠点港湾として、本島と周辺離島を結ぶ航路の拠点港として、県内の経済、社会活動に重要な役割を果たしており、那覇ふ頭、泊ふ頭、新港ふ頭、浦添ふ頭の4つのふ頭から構成されている。(写真1参照)
 なお、平成24年5月に沖縄振興特別措置法に位置づけられた沖縄振興計画として「沖縄21世紀ビジョン基本計画」が策定された。本計画における具体的施策等としても那覇港の整備が位置づけられており、目標達成のために整備に取り組んでいる。
 また、那覇港は、平成14年4月以前は那覇市が管理していたが、現在は沖縄県、那覇市、浦添市で構成された那覇港管理組合によって管理運営されている。

1-1.各ふ頭地区の概要

(1)新港ふ頭地区
資料1 ふ頭別貨物の比率
 新港ふ頭地区は旧称「安謝新港」と呼ばれ、沖縄県の生活物資のほとんどを取り扱っている那覇港貨物量の70%を占める中心的ふ頭である。(資料1参照)
 現在は外貿コンテナ航路(北米・中国・台湾・近海)や東京、阪神及び鹿児島航路の定期線フェリー、東京、大阪、博多、鹿児島及び先島航路の貨物船が就航している。
 新港ふ頭は、那覇港における物流の中核であり、本県における諸活動の活発化に伴う物流ニーズの多様化に対応しつつ、なお一層の物流基盤の充実を図る計画がなされている。(写真2参照)

写真2 新港ふ頭地区航空写真

写真3 那覇ふ頭地区航空写真
写真4 泊ふ頭地区航空写真
写真5 浦添ふ頭地区航空写真
(2)那覇ふ頭地区
 那覇ふ頭地区は、旧那覇港の一部で、古くから日本本土や中国、朝鮮、東南アジアの国々との貿易港として栄えたふ頭である。
 現在は、鹿児島航路のフェリー、セメント船、穀物船等に利用されている。なお、対岸はアメリカ軍の軍港として使われている。(写真3参照)

(3)泊ふ頭地区
 泊ふ頭地区は、もとは泊港と呼ばれ、天然の良港として南蛮船の停泊やペリー提督の来航など古くから利用されていた。現在も周辺の離島を結ぶ定期貨客船や観光船の基地となっている。
 これにより、那覇港の4つのふ頭の中で最も沖縄の人々の身近なふ頭として親しまれている。(写真4参照)

(4)浦添ふ頭地区
 浦添ふ頭地区は、那覇市と浦添市の境界にあり、セメント、雑工業品を取り扱う内貿バースである。
 現在、港湾施設の狭隘化による利用効率の低下等が生じている新港ふ頭地区の機能を浦添ふ頭へ一部移転させることにより、既設ふ頭の効率性、安全性の向上を図る再編計画が進められている。(写真5参照)
 今後は、人工海浜、マリーナ、緑地、国際交流施設等を一体的に配置したリゾート空間の整備が予定されている。

1-2.那覇港の港勢

資料2 外貿航路図
(1)那覇港からの海路
 那覇港から発着する内貿定期航路は東京、大阪、名古屋、神戸、博多、鹿児島等とを結ぶRORO船、一般貨物船等が就航している。県内では宮古、石垣への先島航路と、本島周辺離島の5航路(粟国、久米島、座間味、渡嘉敷、南北大東)が運航されている。海外への航路は、北米、中国、アジア(フィリピン)、東南アジアの2航路に台湾からの航路が開設され、全7航路となっている。(資料2参照)

(2)取扱貨物
○取扱貨物量
 平成23年における那覇港の海上出入り貨物量は約1,000万トンであり、ほぼ横ばいで推移している。(資料3参照)
 しかし、その中で輸移入の割合が68%と高く、他県・他国への依存度が高い状況となっている。(資料4参照)

資料3 取扱貨物量の推移 資料4 内外貿貨物の比率

(3)クルーズ寄港実績
 近年のクルーズ寄港実績は、東日本大震災等の影響により、外国船の寄港回数が一時的に減少している年もあるが、国内船は増加傾向で推移しており、平成24年の寄港実績は過去最高の67回となっている。(資料5参照)

資料5 クルーズ寄港実績

2.事業紹介

 那覇港における港湾管理者は那覇港管理組合であるが、規模の大きい工事は、那覇港湾・空港整備事務所が国の直轄事業として担当している。現在実施中の直轄事業のうち、主な3つの事業を紹介する。
@旅客船ターミナル整備事業
A国内物流ターミナル整備事業(浦添第一防波堤の整備)
B臨港道路(浦添線)整備事業(写真1 参照)

2-1.旅客船ターミナル整備事業

写真6 貨物岸壁への係留状況
資料6 防災拠点としてのイメージ
(1)事業概要、目的
 那覇港は、定期および不定期の国際クルーズ船が年間数多く訪れる日本有数のクルーズ寄港地であり、多くの外国人観光客が訪れている。しかしながら、その受け入れについては、荷役作業を行っている一般貨物岸壁で対応しているため、沖縄のイメージの低下に加え旅客船の安全性および荷役作業効率の低下が問題となっていた。(写真6参照)
 こうしたことから、平成18年度より、観光立県沖縄としての海の玄関口にふさわしい旅客船ターミナルの整備を開始した。また、多くの背後圏人口を抱える那覇港では、大規模地震が発生した場合における緊急物資対応の耐震強化岸壁の整備が急務となっていることから、大型旅客船ターミナルを耐震強化岸壁として整備することにより、国際交流拠点の基盤整備を図るとともに、防災拠点としても整備された。(資料6参照)
 なお、岸壁部分については平成21年9月より暫定供用を開始し、寄港回数は順調に増加している。
 また、平成24年度からは日本に就航する最大船型クラスのボイジャーオブザシーズ(13万トン級)が入港した。(写真7参照)

写真7 現在の整備状況及びボイジャーオブザシーズ入港状況

写真8 舗装部分の航空写真
写真9 大型起重機船
写真10 旅客船ターミナルイメージパース
(2)事業の特徴
○景観的特徴
 岸壁部の色彩は、琉球独自の染型である「紅型」や首里城に用いられる沖縄らしい「ベンガラ色」を基調色とし、舗装パターンは首里を代表する織物である「首里織」や「琉球絣」をモチーフにした辛子模様とした。(写真8参照)
 それに加え、ジャケット本体の色彩はダークグレー、上部構造物の外周をホワイトコンクリートにすることにより美しい南国の海の上に沖縄固有の織物がすっきりと浮かび漂うイメージを表現させるなど、地域の特性を活かした景観形成によりクルーズ船利用者の満足度向上並びに寄港地の魅力向上を図ることで観光支援に寄与している。

○工法の特徴
 岸壁部は、ジャケット工法を採用した。ジャケット工法とは、鋼管のトラス構造部分(ジャケット)を工場で製作し、海上輸送によって施工場所に運搬し、そのジャケットをあらかじめ施工された基礎杭(鋼管杭)と一体化させる工法である。施工に際しては、波浪や航跡波による動揺及び施工区域を最小限に止めるため、鋼管杭打設及びジャケット据付には旋回式の起重機船としては、国内最大級の大型起重機船(1,600トン吊)を使用した。(写真9参照)

(3)事業の進捗状況
 平成21年9月の岸壁部暫定供用後、平成23年度に港湾施設用地が完成した。今後は岸壁部の拡張及び臨港道路若狭2号線の進捗を図り、平成28年度の完成を目指す。(写真7参照)
 また、港湾管理者によって乗客の利便性の向上を図るためCIQ施設を含めた旅客船ターミナル施設の整備が進められており、平成26年4月に供用開始の予定である。(写真10参照)

(4)大型クルーズ船の寄港による直接的経済効果
 平成24年7月に寄港したボイジャーオブザシーズの乗客へ寄港時の消費動向のアンケート調査を実施した。その結果、寄港時に沖縄県内で消費する金額は、一人当たり、平均で約3万8千円と算出された。1隻当たり(乗客3,600人)で換算すると、大型クルーズ船の1寄港当たりの乗客の消費金額の直接的経済効果は、約1.37億円/回と推計された。(なお、今回の直接的経済効果の計算には、乗組員の消費額やタクシー・バスツアー関係の消費額は含まれていない。)今回の結果から分かるように、大型クルーズ船の寄港は地域経済へ大きな効果を与えることから、残事業についても整備を進め、早期の全面供用を目指している。

2-2.国内物流ターミナル整備事業(浦添第一防波堤の整備)

写真11 浦添ふ頭の越波状況
写真12 凹凸ブロックに着生したサンゴの状況
(1)事業概要、目的
 浦添ふ頭地区は、平成16年より本格的に稼働を始めたが、特に冬場の季節風浪の影響が大きい場合は荷役が出来ないような状態にある。(写真11参照)
 そのため、円滑な港湾荷役に十分な港内静穏度を確保し、船舶航行及び荷役作業の安全性と効率性を確保するため、平成23年度より浦添第一防波堤の整備を行っている。

(2)事業の特徴
○環境共生型防波堤
 近年、社会資本整備において環境への配慮が特に強く求められており、今後の港湾整備においても、これまで以上に周辺環境に配慮した整備手法が求められている。
 那覇港では、過去の環境調査(サンゴ調査)の中で消波ブロック等の人工構造物に高被度のサンゴが着生していることを確認した。それをうけ、サンゴの着生促進を目的として既設の消波ブロックに凹凸加工をするなどの基礎実験を行う等の各種調査や技術の開発を行ってきた。(写真12参照)
 このような背景の中で、那覇港浦添第一防波堤の一部を、防波堤本来の機能(外海からの波浪を防ぎ港湾の内部を静穏に保つ)に、サンゴ着生促進機能を付加した環境共生型防波堤としての位置づけを行った。
 本防波堤は、将来、3,110mが延伸される予定であるが、このうち、先行する200mを試験施工区間とし、環境共生型防波堤の新たな構造を採用した。

○環境共生要素
 サンゴの生息や成長に影響を及ぼす環境条件としては、水質(水温、塩分等)、物理環境(水の流れ等)、生息基盤(形状等)がある。これらの条件の違いにより、サンゴ群集の発達や回復状況が異なると考えられる。
 これらの環境条件を踏まえ、サンゴの生息・成長をより促進させるため、下記の事項を環境共生要素として取り入れた。(資料7参照)

資料7 環境共生型防波堤の断面図

a.通水孔の設置
 港外側から港内側への海水流入を促進させ、サンゴの生息環境の改善やサンゴ幼生の流入を期待する事を目的として、防波堤の本体工に通水孔を設ける。
b.港内側マウンドの嵩上げ
 サンゴの着生・成長を促進する事を目的として、従来、サンゴの生息に適した光量がほとんど得られなかった港内側のマウンドの嵩上げを施す。
c.タイドプールの設置
 干潮時にもサンゴが生息可能な場を創出する事を目的として、防波堤にタイドプールを設置する。
d.ブロック・ケーソンの凹凸加工
 サンゴの着生促進を目的として、消波ブロックやケーソン直立壁面の一部に5〜10mmの凹凸加工を施す。
(3)今後の取り組み
 今回施工する試験区間200mについては、環境共生型防波堤の機能の発現状況を検証、評価するモニタリングを実施予定である。モニタリングの実施は、各要素技術の問題点と課題を抽出し、今後の防波堤の延伸事業実施の際にフィードバックさせる事を目的としている。本取り組みの成果は、今後、整備されるサンゴ礁海域の港湾構造物に環境配慮を施す際にも役立つと期待されている。

2-3.臨港道路(浦添線)整備事業

資料8 並行路線の混雑状況

(1)事業概要、目的
 沖縄本島の物流拠点である那覇港から本島中北部方面への物流は、浦添ふ頭以北の臨港道路が未整備であるため、慢性的な交通渋滞が続いている市街地を経由し、輸送することを余儀なくされている。(資料8、写真13参照)
 このまま推移すると、那覇港の発生集中交通のみならず一般交通にも極めて深刻な影響を及ぼすことが予想されていることから、那覇港から中北部方面への臨港交通機能を強化し、港湾物流の円滑化を図るため平成17年度より臨港道路(浦添線)の整備を行っている。(資料8、写真13参照)

写真13 周辺道路(国道58号線)の混雑状況

(2)事業の特徴

資料9 那覇港港湾計画の変更

○橋梁化による環境への配慮
 当初(那覇港港湾計画(平成15年))においては、臨港道路浦添線は全区間を埋立整備として計画されていた。しかし、当該区間は地元自治体である浦添市及び那覇近郊都市圏における貴重な大規模自然海岸であり、市民及び自然環境学習等の活動を行う地元小・中学校や里浜づくり活動団体等から保全の要望が数多く寄せられていた。さらに埋立に伴う環境影響評価準備書に対する知事意見(平成20年5月)において、自然海岸の保全、地元の人々に親しまれている場所への配慮など重要性を考慮し橋梁化も含めた検討を行うべきという意見が示された。
 このような背景のもと、平成20年度に空寿崎側の一部を橋梁化する計画変更がなされ、併せて港湾計画等の見直しが進められた。(資料9参照)
 浦添線橋梁は環境保全の観点から高架構造の採用が要望されており、橋梁区間は上部構造に波浪の影響が生じない位置を条件に決定され、北側の約840m区間を埋立方式から橋梁方式へ変更した。

○環境に配慮した景観設計
 自然環境に対する地元からの強い保全要望を踏まえて自然海岸との共存が景観への配慮に対する主たるテーマとなるため、橋梁景観のシンプル化及び環境影響低減を考慮して、橋梁基数が少なく、橋梁支間の延長に対応できるPC連続箱桁橋を採用した。(資料10参照)

資料10 臨港道路(浦添線)イメージパース

写真14 臨海道路(浦添線)の整備状況
(3)事業の進捗状況
 現在臨港道路(浦添線)の整備は、鋭意施工中であり、平成26年度末の完成を目指している。(写真14参照)
 今後、国道事業である浦添北道路が供用されることにより、那覇空港〜宜野湾までの幹線道路ネットワークが形成され、臨港交通機能の強化による物流の効率化及び交通渋滞の緩和等が期待される。





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