建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2013年2月号〉

被害が見込まれる太平洋沿岸に避難路を確保
直営の施工体制で地域雇用を維持
── 建設業界の発展に寄与し国土交通省大臣表彰を受ける


釧路建設業協会 会長、株式会社上田組 代表取締役

上田 光夫 氏


──社長に就任して40年以上が経過しましたが、地域もかなり変わったのでは
上田 あっという間に年月が過ぎました。目立つ変化といえば釧路・根室管内の農業が、全国有数の大規模酪農専業地帯に成ったことです。別海町、浜中町などでは、ただ作れば良いという発想ではなく、環境に配慮した酪農が行われています。
── 農業土木技術もかなり進歩してきたのでは
上田 技術的には進歩しており、社会資本整備の性質がそもそも以前とは異なるので、従来のようにただ土を動かすのではなく、近年は設備関係が中心となっております。
── 農家側にはいろいろ要望があるのですね
上田 環境対策に着手するとなればまだまだで、現在実施しているところは一部しかありません。管内の全農家に着手するとなれば、かなりあります。すでに完了したのは浜中町だけで、現在は別海町、鶴居村辺りが施工中です。鶴居村は今年でほぼ完了するようです。
 ただ、環境対策に着手しても収穫量が上がるわけではないので、屎尿対策は最も遅くなる事情もあるでしょうけど、これからの時代には大事なことですね。
北海道開発局長表彰を受賞した用水路末端施設
(家畜ふん尿処理施設の建設で環境の改善)
── 平成16年に地元建設協会長に就任し、10年目を迎えましたが、管内の業界事情は
上田 建設業のあり方が様変わりしましたね。かつては“土建屋”のイメージでしたが、今は株式会社という法人としての体制が確立し、発注者側の体制も変わりました。特にISOが導入された頃からは、官庁の発注体制も企業の受注体制も変わりました。管理運営システムもすべてが電子化されました。
── 北海道は東日本大震災を受け、昨年6月に太平洋沿岸に津波予測図が発表されましたが、管内ではどんな要望が聞かれますか
上田 取りあえず避難路の確保を、という考えしかありません。
草地整備事業(担い手)
── 管内の地域事情に精通した釧路建設業協会員であれば、災害時の対応も万全ですね
上田 そうは言っても、釧路管内浜中町琵琶瀬で国内最大の34.6mもの津波がくるとなれば、予算を投じてどこかを整備した程度で対処できるものではありません。例えば釧路市(予測19.8m)内を見れば、橋でも何でも相当の対策をしないと、対処できるものではありません。過去に津波被害を受けた地域では、地盤の嵩上げなどの論議はあっても、まずは避難の仕方を検討しなければならないでしょう。5年や10年分のインフラ整備で対処できる予算規模でもないでしょう。
 したがって、まずは避難路を確保し、それを周知徹底させることから始まり、その上で強靱化対策として急ぐべきところに着手するというのが順序でしょう。
── 協会員は各社とも、緊急時に従業員が対応できる体制はできているのですね
上田 それは協会を中心として対応できるような体制ができていますから。
── 従業員は、緊急時には出動する気構えがあるのですね
上田 それはみな個人としてもその気構えでいるし、すでに釧路沖地震(平成5年1月15日)、北海道東方沖地震(平成6年10月4日)の災害は経験しているのですから、みな認識はあると思います。
── 業界の将来はどうなりますか
上田 この景気対策も一時的なものなのか、これが5年後も続くと保証してくれるなら設備投資も人材育成もできますが、1年や2年で終わるようなら、それもできません。そこがはっきりすれば、雇用も機械・設備投資も新たにできますが。  とりあえず発注が1割か2割も増えて、自社の規模に見合った万度の仕事が獲られればという意識で、様子見の状況でしょう。何しろ工事量が1/3に減っているのですから。
── いま現在、釧路沖地震のような災害が起きると、対応はいかがですか
上田 あの当時から見れば、業者自身が2割も減っているでしょう。特に釧路などは、大手の下請け業者がすべて潰れてしまっています。災害が発生したとなると、平成5年当時と全く同じ対応はできないですね。
── 釧路・根室管内もインフラ整備は、万度に完成したとはいえませんね
上田 道内で最も後れています。何と言っても道路整備を十分に実施してもらわないと、根室までの高速道路の延伸計画は、決まってはいるものの全く手つかずのままです。札幌から阿寒までに2年かかり、そこから釧路市内までとなると3年はかかるでしょう。それが出来るまでに、せめて1本の背骨くらいは通してもらわないと。  やはり高速道路によって、津波からの逃げ道となり、防波堤にもなり、急病人のための「命の道」にもなるのですから、なるべく早くに整備してほしいですね。
コントラ事業
── 根釧地区の物流機能としても、いまは不十分ですね
上田 それは道外から見れば、北海道は百数十年の歴史で、当時から設計図はできていたでしょうが、いまだに実現していません。雪が降れば、道路幅などは1/3になっている状況です。すれ違うのも危ないくらいで、国道は管理されていますが、脇に入ればとんでもなく危険な道路がいくらでもあります。
── 今後の釧路・根室管内の将来像をどう展望しますか
上田 とにかく強靱化対策を確実に決めてもらい、整備を進めてもらいたいですね。そして、この釧路・根室管内もいち早く高速道路で接続してもらいたいものです。
 またTPPも、これに参入されるとなると、この地区は大変なことになります。したがって、私たち協会を挙げて反対を表明し、訴え続けています。
── 今後の会社運営と地域雇用を維持するのは大変でしょう
上田 当社は直営で施工に当たっていますから、従事する技術者も多いです、この難局に全社員の知恵と努力を結集して正面から立ち向かっています。
── 冬祭りイベント「ナイトイン川北冬のつどい」が隔年で行われていますね
上田 いつまで続けられるかは分かりませんが、また来年の2月には開催します。これまで14回くらい実施してきましたが、幸い一度も中止になったことはありません。たった一晩のお祭りですから、中止になるとテンションが下がってしまいますが、酷い吹雪で他の祭りは中止になろうとも、なぜか当社の主催する祭りは中止になったことがありません。
 また、地域の若者はイベント作りを通じて一体感を共有しますが、そうした共同作業は今の時代はなかなか機会がないので、その面では好都合ですね。地域のお祭りなどを運営し、後援していたというのが現実です。
冬祭りイベント「ナイトイン川北 冬のつどい」
── また、標津をアピールする目的で、埼玉県新三郷に「標津いくら丼うえだ」を出店したが、状況は順調ですか
標津 いくら丼 うえだ
上田 品目はいくらが主体で、お陰様で活況を呈しています。といっても、これが本業ではないので、機会があれば2店舗や3店舗は欲しいとも思いますが、慌てて展開する必要もありません。
── 本州の人々にとっては、高級食材との価値観のようですね
上田 この標津のいくらは日本一の品質で、東京でも有名な寿司屋で採用しているいくらと、同じものです。買値と売値が釣り合わずに失敗した年もありましたが、もとの狙いは標津町のPRにあります。
── それ以外にも新分野進出の考えはありますか
上田 日本製紙(釧路工場)に参画して、3年が経過しました。灰を砂利の代わりに使用できるように改造した「エコドライボール」という製品を、日本製紙の工場内で製造し出荷しています。これは「北海道認定リサイクル製品」でも認定はされていますが、今は砂利よりも再生材が主流ですから、最近は管内で民間の宅地造成の地盤に使用されることが多いです。
EDB[エコドライブボール]事業
(日本製紙株式会社釧路工場内にて
農地の土壌改良や道路の路盤材料を製造)
※写真は凍上抑制材の施工状況
── 上田光夫社長は北海道産業貢献賞・土木功労者受賞と、昨年7月には建設業界の発展に寄与したことで国土交通大臣表彰も受賞しましたが、どんな苦労がありましたか
上田 普通に企業を守ってきただけの話しで、特別なことをした結果ではありません。従事してきた年数の長さが認められたということしか、思いつきません。組織がみんなに支えられて続いてきただけで、ただ経験が長いということだけでしょう。

■社長経歴
上田 光夫 うえだ・みつお
昭和21年10月20日生
昭和40年3月 株式会社 上田組 入社
昭和40年3月 株式会社 上田組 常務取締役
昭和43年3月 株式会社 上田組 専務取締役
昭和46年4月 株式会社 上田組 代表取締役
昭和51年5月 北拓砂利砕石 株式会社 代表取締役
昭和52年5月 標津建設業協会 会長就任
平成 元 年5月 有限会社 コスモス 代表取締役(平成11年7月 株式会社に変更)
平成 4年2月 根室中部砂利販売協同組合 代表理事
平成14年 根室支庁管内建設業協会 会長就任
平成16年4月 釧路建設業協会 会長就任
平成16年5月 社団法人 北海道土木施工管理技士会 理事就任
平成16年5月 社団法人 北海道建設業協会 理事就任
平成16年5月 社団法人 北海道土地改良建設協会 理事就任
平成23年 北海道産業貢献賞受賞
平成24年 国土交通大臣表彰受賞

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