建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2013年1月号〉

【寄稿】 宮城県の河川・海岸における
東日本大震災からの復旧・復興について


宮城県 土木部 河川課長
門脇 雅之

1.はじめに

 東日本大震災から1年半が過ぎようとしています。被災地のがれき処理も進み、復興商店街が立ち上がるなど、大分落ち着いてきたようにも思えますが、本格的な復興の道筋はまだまだといったところです。
 宮城県土木部では今年度を「復興元年」と位置付けており、「災害に強いまちづくり宮城モデル」の構築に向けて、復興へのスタートダッシュを図っています。復旧の現場では、着工式や杭打ち式など段階的な復興イベントの開催や、復旧計画に合わせた堤防への丁張の設置、県河川課ホー※ムページにおいても箇所毎の復旧方法等を掲載するなど、県内外への情報発信に努め、県民の方々や被災者の方々にとって“見える復興・見せる復興”となるよう努めているところです。
(※県河川課ホームページアドレス http://www.pref.miyagi.jp/kasen/)

図1 大曲海岸災害復旧工事着工式

2.地震および津波の概要

図3 浸水範囲概況図(仙台周辺)(出典:国土地理院)
 平成23年3月11日に発生した、三陸沖を震源とする我が国の地震観測史上最大となるマグニチュード9.0の巨大地震「東北地方太平洋沖地震」により、宮城県栗原市で最大震度7、仙台市宮城野区でも震度6強を観測するなど、県内全域で激しい揺れに見舞われました。この地震による大津波は、平野部では内陸5kmまで到達するなど、太平洋沿岸域を深く呑み込み、県土の約4.5%に当たる327km2が浸水する甚大な被害を受けました。
 さらに、平成23年4月7日に発生した余震においてもマグニチュード7.1を観測し、栗原市や仙台市宮城野区で震度6強を記録するなど、新たな被災の発生や、復旧箇所の増破が生じました。最近では落ち着きつつあるものの、余震は未だに続いています。
 この震災により、県内では約1万人の方の死亡が確認されているほか、未だに約1,400人を超える方が行方不明となっています。(平成24年8月8日時点)


3.河川の被災状況

図2 丁張設置状況(大曲海岸の復旧高を提示)

図4 二級河川沖ノ田川 被災状況
図5 二級河川津谷川水系外尾川 被災状況
図6 二級河川津谷川水系津谷川 被災状況
図7 二級河川伊里前川 防潮水門被災状況
図8 二級河川定川水系定川 被災状況
図9 二級河川七北田川水系七北田川 被災状況
 県内河川の被害状況を、地理地形で大別して説明します。県沿岸域北部に位置し、リアス式海岸地形である三陸沿岸の河川においては、地形的特性もあり巨大津波となって沿岸域に来襲しました。津波は河川や谷筋に沿って非常に高い標高まで遡上し、壊滅的な被害を及ぼしました。
 気仙沼市に位置する二級河川沖ノ田川では、河口付近の津波痕跡高はT.P.+12.8mに達しました。周辺の宅地や農地はもちろん、鉄道橋も橋脚・橋台を残して流失し、河川堤防の洗掘や破堤などにより、元の流路が判別し難い状況となりました。
 同市の二級河川津谷川や、同支川外尾川では、河口付近でT.P.+20.4mもの津波痕跡高が確認されています。掘込形状の外尾川では、河川護岸は残ったものの、背後の市街地で壊滅的な被害が生じています。
 山間の低地を流れる津谷川では、河口部の三面張の高潮堤の左岸は跡形もなく流失し、河口部に架かる国道橋の上部工も流失しました。津波遡上は河口から約4kmにまで至ったため、一定の標高がある上流の地区では、川が屈曲しており、山に遮られて下流の状況が見えない地形となっていたことから、津波に気づくことができず、突然の津波来襲により人的被害が拡大したと指摘されています。  南三陸町を流れる二級河川伊里前川では、河口防潮水門の閉扉を、遠隔操作により津波到達前に完了しましたが、海岸堤防を遥かに超える巨大津波により、鉄製の扉体や構造部材が無残に吹き飛ばされただけでなく、周辺堤防も決壊・流出するなど、背後市街地を含めて甚大な被害を受けました。
 県沿岸域中南部の、低平地の広がる仙台湾沿岸の河川では、津波は広く、そして内陸に深く侵入しました。海岸堤防を突破した津波と河川を遡上した津波が一体となり、人口、資産、仙台空港をはじめとする産業経済活動が集積する仙台平野を広範囲に呑み込みました。仙台空港も甚大な被害を受けましたが、その後の国土交通省をはじめとする関係機関の皆さまによる、昼夜を問わない復旧作業の結果、平成23年9月には全面復旧し、現在では震災前の全路線が復活しています。全国の皆さま方におかれましては、今後ますます仙台空港をご利用いただければと思います。
 石巻市と東松島市を流れ、石巻港へと注ぐ二級河川定川では、河川を遡上した津波により河口部の右岸堤防が破堤し、宅地と農地が広範に浸水しました。後述する地盤沈下の影響により、背後地盤高が満潮位以下に落ち込んだため、湛水は自然に排水できない上に、満潮時には海水が逆流してくるため、堤防復旧や強制排水による浸水被害の解消には長期間を要しました。
 仙台市内を流れる二級河川七北田川においても、津波により河口部両岸で破堤しましたが、中流部においても多くの箇所において、津波遡上による深い洗掘が見られました。
 遡上した津波は、沿岸から3〜4kmほどの距離に位置する仙台東部道路の高盛土によって、ようやくその勢いを止めることとなりましたが、津波到達範囲内の河川は、程度の大小はあれ、いずれも同様の被害を受けています。

4.海岸の被災状況

 県内の海岸は総延長827.7kmで、牡鹿半島を境に北は「三陸南沿岸」、南は「仙台湾沿岸」に区分されています。三陸南沿岸はリアス式海岸、仙台湾沿岸は牡鹿半島及び松島湾のリアス式海岸と仙台塩釜港から福島県に至る砂浜海岸となっています。建設海岸76海岸のうち海岸保全施設を有する63海岸全てで、津波による海岸堤防等の破壊、海岸線の消失・地盤沈下などの壊滅的な状況となりました。
 なお、甚大な被災のため七北田川河口より南側の仙台湾南部建設海岸31.7kmについては、国土交通省が侵食対策事業を行っている13.9km区域外の17.8km区域についても併せて「東日本大震災による被害を受けた公共土木施設の災害復旧事業等に係る工事の国等による代行に関する法律」に基づいた国による災害復旧が行われています。
 津波により被災した箇所のうち、緊急性の高い26箇所において2段階に分けて応急復旧工事を実施し、平成23年8月末までに完了しています。

図10 高石浜海岸 被災状況(気仙沼市唐桑・三陸南沿岸) 図11 相ノ釜・納屋地区海岸 被災状況(岩沼市・仙台湾沿岸)

5.広域的な地盤沈下の状況

図12 本震に伴う地殻変動等変動量線図(上下変動量)(出典:国土地理院)
図13 仙台平野の地盤沈下の状況(出典:国土交通省)

 今回の東北地方太平洋沖地震に伴う地殻変動により、本県では広範な地盤沈下が生じたことから、その後の復旧等において一層困難を極める状況になっています。
 国土地理院によると、牡鹿半島の先端に近い電子基準点「牡鹿」(宮城県石巻市)が、本震発生時に東南東方向へ約5.3m動き、約1.2m沈下したとのことです。その後の調査により、三陸沿岸から石巻市を中心に70cmを超えるなど内陸部でも30〜50cm程度の非常に広範に及ぶ地盤沈下が明らかになっています。
 航空レーザ計測等によると、海抜0m以下の土地の面積は、地震前と比べて約3.4倍の56km2に、朔望平均満潮位(概ねT.P.+0.7m)2以下の面積は、地震前の約1.9倍となる129kmに広がったということです。  地震・津波により堤防のみならず、排水路や排水機場の多くが被災したため、津波浸水域の低平地では溜まった海水を排除することができず、長時間にわたる湛水が継続しました。湛水は応急復旧や行方不明者の捜索活動の支障となることから、被災初期に解消すべき最も重要な課題の一つでした。
 このような状況を踏まえ、国土交通省東北地方整備局、農林水産省東北農政局、水産庁、宮城県などの関係機関が「宮城県沿岸域現地連絡調整会議」を立ち上げ、瓦礫の撤去、海岸河川の応急復旧、沿岸部の排水機場の応急復旧、仮設ポンプの設置や排水ポンプの広域配備による迅速かつ機動的排水対応など、7つの取り組みについて連携して実施し、平成23年6月中旬までに沿岸の11市町全86箇所の湛水地区を解消することができました。
 低平地における地盤沈下は、治水安全度の低下に直結します。堤防の嵩上げによる原形復旧するだけではなく、地域によっては放水路、遊水地や排水機場の整備などによる総合治水対策により地域の治水安全度を確保することとしております。
 北上川河口に位置する石巻市長面地区では、津波により河川や海岸堤防が決壊・消失した上に、地盤沈下により海水位以下にまで地盤標高が低下したため、潮の干満の影響を直接受ける状況が未だに続いています。
 このような地盤沈下による深刻な浸水被害は、気仙沼市の沿岸地区をはじめ石巻市の渡波地区、東松島市の野蒜地区など、県内各地で生じています。応急的に防潮堤を復旧し、波浪や高潮に対する一定の防御の確保に努めており、これから本格的な河川・海岸堤防の復旧に入るところですが、海水面以下に落ち込んだ低平地を復活させるためには、堤防整備と併せた排水機場による強制排水や、地盤の嵩上げ等による対策が必須となります。

図14 仙台空港周辺の冠水状況(平成23年3月15日撮影)

6.災害復旧事業の概要と進捗

 堤防や水門等の河川・海岸施設の災害復旧事業の申請は、平成23年度までに全て終えており、県管理河川で278箇所、約2,420億円、県管理海岸では74箇所、約797億円の災害復旧事業費が決定されています。
 この内、内陸域の河川の多くはすでに着手しており、本格的な復旧工事が着々と進められているところですが、甚大な津波被害を受けた沿岸域の河川や海岸の災害箇所においては、本格的な着工までに時間を要しています。
 津波浸水域の被害があまりにも甚大であったことから、河川や海岸堤防の被害に留まらず、堤防背後の市街地や農地の一切が失われており、こういった地域においては、沿岸市町において新たなまちづくり計画や土地利用計画が検討されています。河川や海岸堤防の災害復旧においては、これらの計画と十分に調整した上で詳細な設計を行う必要があり、現在その協議・調整に鋭意努力しているところです。
 沿岸市町の新しいまちづくり計画等の確定には、一定の時間を要するものと考えており、それらとの協議・調整と並行して、緊急性の高い箇所から部分的に工事に着手しています。通常、災害復旧事業は発災より3箇年で完了することとなっていますが、今回は被害が甚大なことから5箇年で完了することになっています。それでも膨大な用地買収や施工量を考えると、非常に厳しい工程にならざるを得ないところですが、県民のみなさまが復興への進捗が感じられるよう、一日でも早い復旧完了に努める所存です。

図15 新北上川河口の被災状況(左:昭和60年3月撮影 右:平成23年4月撮影)(提供:(社)東北建設協会)
図16 河川堤防の被災と復旧状況(登米市・迫川)(左:被災状況 右:工事完了)

7.津波対策の概要

図17 海岸堤防の高さ【基本計画堤防高図】

 本県におけるこれまでの津波対策は、昭和三陸津波やチリ地震津波を対象として整備を進めてきました。しかし、今回の地震・津波による広範囲で甚大な海岸施設の被害を踏まえ、堤防の高さや構造など、海岸施設の復旧に関する基本的な考え方について、国の提言や通知※1に基づいて、大幅に見直しを行っています。
 海岸堤防の設計高さは、数十年から百数十年に一度程度発生する「頻度の高い津波」に対応する高さで設定しています。県内の海岸線を、湾の形状や山付け等の自然条件等により、一連のまとまりのある海岸線として22の地区海岸に分割し、地区ごとの津波高さを設定しました※2。
 また、裏法被覆の補強や裏法尻の強化と、背後に道路施設や盛土した防災緑地を併設するなどの構造上の工夫により、堤体の浸食、吸い出しなどの被災を受け難くし、大津波が施設を超えた場合でも施設の効果が粘り強く発揮できるような構造で整備することとしています。
 各海岸管理者が、堤防高や構造について考え方や基準を統一し、沿岸市町のまちづくり・復興計画と整合を図りながら、環境・景観にも配慮しつつ、災害復旧に取り組んでいるところです。

※1 中央防災会議「東北地方太平洋地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」中間とりまとめ(平成23年6月26日)・海岸関係3省庁通知「設計津波の水位の設定方法等」(平成23年7月11日)・海岸における津波対策検討委員会「平成23年東北地方太平洋沖地震及び津波により被災した海岸堤防等の復旧に関する基本的な考え方」(平成23年11月17日)
※2 平成23年9月9日「宮城県沿岸域現地連絡調整会議」にて決定

 河川の津波対策については、水門方式と堤防方式(バック堤方式)が基本とされています。震災以前、宮城県では水門方式による津波対策を多く実施してきましたが、今時津波において、県内17の河川防潮水門のうち16水門で激しく被災し、操作不能に陥ったことから、再開門に時間を要し内水排除の支障になりました。
 これらの反省を踏まえ宮城県では、原形復旧にとらわれず、社会的影響、経済性、維持管理や水門とした場合の操作確実性、まちづくりの観点、「最大クラスの津波」への対応等を総合的に検討した結果として、堤防方式(津波バック堤)を基本とした河川津波対策を実施することとしています。
 河口部の河川堤防高は海岸堤防高と同一とし、河口から第一の山付(または河川を横断する道路盛土)までは、海岸堤防と同一の高さとすることを基本としました。津波が河川を遡上するシミュレーションを実施し、第一の山付部までに津波水位が減衰しない場合には、第二の山付けまで同一の高さとすることとしています。
 山付地点より上流については、シミュレーションによる津波遡上水位に1mを加えた高さを包含するよう、上流に向かって階段状に(レベルで)堤防高を下げていく計画です。
 また、河川堤防構造については、堤防を越流する津波が発生したとしても壊滅的な被害を回避できるよう、海岸堤防と同様に粘り強い構造となるよう、検討を進めています。

図18 河川津波対策イメージ図

8.おわりに

 今回の東日本大震災において、国や自衛隊をはじめ、全国の自治体等の皆様に、発災直後より、救助・救援活動や被災者支援、応急対策に加え、早期復旧に向けた災害対応に献身的に取り組んで頂きました。また、国内外の多くの関係機関や皆様から様々な御支援を頂き、心からお礼と感謝を申し上げます。
 平成24年8月29日に内閣府の有識者検討会と中央防災会議の作業部会から、駿河湾から日向灘の「南海トラフ」を震源域とする最大級の地震が発生した場合の被災想定が公表されました。関東から九州・沖縄の30都府県で最大32万3千人が死亡、238万6千棟が全壊・焼失するというもので、これは東日本大震災の被災を大幅に上回るものです。そして、適切な「減災対策」により、被害を大きく減らす事ができる試算も同時に示されました。本県と致しましては、そういった巨大地震や津波への備えに活かしていただくよう、いろいろな機会を利用して、大震災の教訓を踏まえた復旧・復興のあり方や取り組み状況などを伝えていきたいと思っています。
 一日も早く被災された方々が安心して暮らすことができるように、今後とも震災対策を優先的・計画的に進め、災害に強い県土づくりを推進して参りますので、引き続き各方面からの支援と協力を頂くよう、よろしくお願いします。


HOME