建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2012年10月号〉

CO2対策で自社敷地内に5000本の植樹

── 全国の被災漁船の復旧予算は根室方式で

根室商工会議所 会頭、真壁建設株式会社 代表取締役
山下 洋司 氏


──真壁建設の創業の経緯や特徴について伺いたい
山下 昭和26年に、初代の「真壁福太郎」社長が真壁建設株式会社を創立して、61年が経ちます。港湾整備事業に石材を供給することから始まりましたが、その後、二代目「山下清」社長が経営を引き継ぎ、各官庁より直接工事を受注し始めました。後には市議会議員に就任し、根室の経済発展のための基盤整備事業に熱心に取り組でいました。
 その間、今日まで一貫して技術の革新と設備の近代化にも取り組み、そして地域への貢献を旗印にしてきました。
 三代目「山下良子」社長も、当時としては珍しい女性社長でしたが、起重機船「真壁千代号」を新造したり、土木工学科の卒業生を弊社に迎え入れ始めるなど技術革新に努め、そして日本赤十字の活動にも協力するなど、設備投資と技術力向上だけでなく公益的活動にも熱心に取り組みました。
 そして、平成2年に私が経営を引き継いでからは、二隻目の起重機船「真壁海皇」を建造し、根室商工会議所の会頭もお引き受けするなど、技術革新と社会貢献の社風をそのまま引き継いでいると自負しています。
──根室の社会資本整備は、どのように変遷してきましたか
山下 根室の社会資本整備を振り返ると、私が30年以上も前に当社の経営陣に名を連ねた当時は、200海里海洋法による北洋漁場からの締め出しで、根室の水揚げが極端に減少し、市内全体に停滞感が漂っていました。水産物荷揚げなどの漁港・港湾施設整備や、水産物輸送の為の道路網整備など、基盤整備への予算が限られており、特に道路などの陸上基盤整備への市予算は見込めない状況でした。
 しかし、根室で建設会社の経営を引き継ぐ以上は、受注機会を増やさねばならないとの思いと、先代会長が市議として根室経済の発展をかんがみ、当時の根室商工会議所の小林会頭とともに、北洋漁業基地として合併した根室港と花咲港の重要港湾指定に向けた中央への要請に、大変熱心に取り組んでいたこともあって、当社としては港湾の基盤整備に備えるべく、陸上土木はもとより海洋土木の技術者や、直営の施工技能士の充実、起重機船「真壁千代号」「真壁海皇」など、海洋土木施工に対応した設備と社内体制の整備をテーマとして、会社運営に当たってきました。
5000本植樹の様子
──地域社会と建設会社の役割については、どう考えていますか
山下 地元の経済・産業の発展を目的とした社会資本整備への貢献が、地域建設業の使命と考えています。「管外の建設会社では難しい、地域とのつながりが大切である」と、先人達より教えを受けてきました。
 災害時には、地元自治体の要請が有ればいち早く駆けつける出動態勢も含め、地元の建設会社は、地域の公共性や社会貢献を経営理念に取り入れるべきだと考えます。そして、地元の災害対策の上からも、地元建設会社の経営は継続させなければならないと思います。
 当社の地域貢献への取り組みは、観光・祭典を始め、街の行事に積極的に参加するのはもとより、市営球場並びに学校のグランド整備や、流氷接岸時に起重機船を出動させての漁船の航路確保なども行っています。
 また、CO2対策においても、会社敷地内に5,000本の植樹をしています。これは高橋知事が提唱した「一人30本作戦」を取り入れたもので、5,000本の意味は、職員とそのご家族の人数に30を乗した本数です。来春には完成させます。
 さらに、地域性に合った設計・施工が求められる時代を迎えているので、そのための技術者と施工体制を確立させなければならないと思っています。特に今後は、施工技術士と地元の熟練技能士の養成に力を入れたいと思いますが、昨今の経営内容を見ると、利益が見込めない状況が続いており、経費の削減で乗り切ろうとしていますが、技術の継承へ回す予算の余裕がなく、人を育てるのは残念ながら難しくなっています。
──今後の展開をどう展望していますか
山下 根室市は、北方四島への人的交流・物的供給基地としての役割がありますが、今まで予算が付かなかったこともあり、その基盤整備が遅れていました。しかし、「このままでは、北方領土返還運動原点の街根室の役目が果せなくなる。」との恐れから、根室港に人的交流港としての専用埠頭やターミナルなどを政府に要請している最中です。
 また、海産物などをベトナムを始め東南アジア各国へ輸出する計画が進んでいます。これらの港湾設備として、保冷庫や荷積みクレーンなどの充実も検討されています。
 一方、根室地域は酪農や漁業と、それらの加工品の食糧基地として発展させる目的の基盤整備、特に大消費地への食糧の流通を考えた高速道路網整備なども、政府に要望しています。これは一時、事業仕分けでカットされましたが、国道44号線の防雪事業として、昨年より予算化されています。
 さらにTPPの加盟各国に負けないよう、酪農経営の大規模化のための基盤整備も強く政府に要望しています。地元の産業活性化と、地元建設会社の受注機会が増えること、そして根室市民である建設会社従業員の雇用安定からも、これらの基盤整備計画の実現に努力していく所存です。
全国でも有数の漁獲量を誇る根室港花咲港区 落石漁港
──災害時の危機管理体制についての要望はありますか
山下 災害の中で最も恐れられるのは、記憶に新しい津波だと思います。まずは津波警報発令と同時に、一刻も早く高台へ非難する施策が求められます。そのための「一秒でも早い警報の発令と、避難路や避難所確保の必要性、そして日頃の非難訓練の充実で危機管理の体制が整う」と、市に訴えてきました。根室市もそれらの施策を着々と進めています。ただ、避難時の食糧や毛布などの備蓄がまだ調っていないようです。
 また地震対策としても、避難所指定された校舎を含む公共施設の耐震補強も進めていますが、市役所庁舎の耐震補強が未着手とのことなので、災害指揮所となる市庁舎の耐震補強、食糧や毛布などの備蓄を急ぐよう、市に促しています。
 一方、社内の危機管理としては、計画停電などの緊急体制も取りながら、津波の災害時の警報が発令されると同時に、まずは全員が高台への非難指示を徹底しており、トップ現場安全パトロール時においても、その避難路の確認をしています。
──東日本大震災時の根室市内は、どんな様子でしたか
山下 東日本大震災により被災に合われた方々には、心からのお悔やみとお見舞いを申し上げます。昨年3月11日に、大地震と津波の警報を札幌の道庁内で知らされましたが、すぐに本社と連絡を取り、職員の安否と高台への避難の指示しました。その後、職員のご家族共々、全員が無事との連絡があり、安心したのを覚えています。
 即日に根室へ戻り、商工会議所での被害状況の把握と、私は会頭の立場にあるので被害地へのお見舞いを指示してから、花咲港を視察し港湾施設の津波被害を確認しました。その被害は軽微だったので安心しましたが、その後は「気仙沼での根室在籍の大型漁船全隻が、津波災害に巻き込まれた」との連絡が入り、大変驚きました。
 漁協組合長の要請もあり、さっそく長谷川市長を中心にオール根室体制で、政府に被災漁船全隻の復旧予算を要請し、現在では三隻が新造されサンマの漁場へ向かっています。そして残りの漁船も建造中です。余談ですが、全国の被災した漁船の復旧予算も、根室方式を取っているとのことですね。
 いずれにしろ、この後は被災地の復興はもとより、20年間下降線をたどっている国内の経済もどう復興させるのか、日本の底力の見せ所だと思っています。
──道の発表した津波予想図では、花咲港近辺は20m以上の想定でしたね
山下 根室市が500年間隔の地震を元に、津波ハザードマップを完成し、昨年に全戸配布しましたが、それによると数メートル程度の浸水だったので、それに基づいて対策を建てていましたが、道が発表した津波予想図では、その津波の巨大さに、とても防げるものではないと驚きました。道が想定した、数千年に一度の20mを超える大津波を防御するのは現実的でなく、即刻非難をするしかないと結論づけました。
 しかし、数百年に一度の5m規模の津波であっても、防御対策を執らなければ、社会生活は成り立たないと考えました。そこで、花咲港地域の被害を最小限に食い止めるため、漁協市場に場内への残骸流入防止柵と、その屋根の上に避難所の建設を国に要請しています。
 また、市街の下町商店街も浸水するとのことなので、その対策として高床式複合商店街の再構築や、道道海岸線のかさ上げによる防潮堤化で、津波を防御できないかも含めて構想中です。
 さらに、根室・釧路間の国道44号線も、厚岸町前後の浸水が予想されており、市内の道道も所々で浸水が予想がされているので、避難道路や緊急物資供給道路の確保を道や国に要請しております。
根室市花さきロード
──同時に、インフラの老朽化も問題なのでは
山下 根室は北方領土返還運動原点の街と言われ続けて、戦後70年が迫ろうという今日ですら、領土問題は未解決のままです。北方水域から根室の漁業者が締め出され、漁業・水産業の経営が困難となり、それに付随した人口の著しい減少も続いて買い物客が激減した結果、シャッター街と化した商店街の新たな設備への予算化ができないでいます。また、市の道路や水道など、古い設備の老朽化も極端に目立つようになってきました。
 さらには市中経済の疲弊とともに、三位一体の構造改革で市の予算の枯渇がみられ、国や道の公共事業費の負担が重くなり、道路網と港湾施設、そして農業用水整備などの社会基盤整備も遅れています。整備された埠頭や道路・橋などの施設の老朽化も問題になっています。
 そこで先にお話しましたが、北方四島交流の地元基盤整備と、食糧供給基地としての基盤整備を政府に訴えています。
──公共予算の削減が地域社会の崩壊をもたらした格好ですが、商議所会頭としてどう対処しますか
山下 基盤整備を含めた根室経済の活性化の予算要求のために、毎月のように上京していますが、政府は国家予算による社会資本の投入は、バラマキと批判されるのを極端に恐れており、公共投資は地域の経済・産業発展に役立てる基盤整備や、津波などの災害防止に限定しているようです。
 しかし、資本投費の費用対効果を強く求められたので、人口の減少やデフレで疲弊している地方の基盤整備はいつまでも遅れ続け、その結果、地方の産業はますます衰退する負のスパイラルに落ち込んでしまいます。北方領土返還運動原点の街・根室への公共事業予算のこれ以上の削減は、到底納得できない状況です。
 根室経済の疲弊が続いている今日では、商工会議所会員にも北方領土返還運動への協力をお願いしづらくなっており、実際に返還運動への参加者が、年々減り続けています。
 したがって、北方四島交流の地元基盤整備と、食糧供給基地としての基盤整備を政府に訴え続け、地元の経済活性化を果たすのが、私の最大の役目だと思っています。


山下 洋司 やました・ひろし
昭和47年 3月 北海道学園大学 工学部 土木工学科 卒業
昭和47年 4月 大豊建設(株) 入社
昭和49年 10月 大豊建設(株) 退社
昭和49年 11月 真壁建設(株) 入社
昭和52年 3月 真壁建設(株) 取締役
平成 2年 7月 真壁建設(株) 代表取締役


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