建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2012年9月号〉

岩手県における東日本大震災津波からの復旧・復興について


岩手県における東日本大震災津波からの復旧・復興について【第3回】

岩手県 農林水産部 技術参事 兼 漁港漁村課
総括課長 大村 益男

6.今後の見通し

(1)水産業復活への対応
 平成23年度は、漁協及び漁業者の要請に応えるため、応急工事を中心に実施してきたところである。
 今後、水産業の復活を支援していくため、本格的な復旧を着実に進めていく必要がある。
 震災後は、漁業者が漁船や漁具等の確保に奔走し、漁業再開へ前向きに進んでいたこともあり、漁港の復旧についてもスピードが求められていたことから、まずは復旧工事を着実に実施することが求められていた。
 震災から1年が経過した現在において、地域のまちづくり等の方向性が見え始めており、復興に向けて地域と議論を進める時期であると考えている。
 復旧・復興を考えるにあたり、非常に重要な視点である岩手県における水産業と漁村の関わりなどについて触れさせていただきたい。

▲写真-13   護岸の復旧状況(左:復旧工事前、右:復旧工事後)

(2)復旧・復興を考える上で重要な視点
ア.漁港・漁場・漁村のかかわり
 本県では、豊富な栄養塩を含んだ三陸漁場を前面に抱え、古くより定置網漁業や養殖業が盛んに行われてきた。
 漁港整備については、明治時代の末期から大正時代にかけて、桟橋などの設置が各所で見られるようになり、昭和25年の漁港法制定に伴い、本格的に進められてきた。昭和30年代の後半にはワカメ養殖技術が開発され、ワカメ養殖が急速に県内に広まり、沿岸各所に防波堤、物揚場、船揚場からなる、いわゆる「ワカメ漁港」が整備され、本県の漁港・漁場・漁村の発展の契機となっている。
 これらを踏まえると、本県沿岸域には、養殖業や採介藻漁業の適地となる良好な漁場が存在し、その漁場で漁業を行うための漁船確保、その漁船を安全に係留するための漁港整備が進められ、漁港背後にはそこで効率的な生産活動を行うため漁村が形成されているといった現在の漁業形態が確立しており、全てが密接に関連し、切るに切れない関係であることは言うまでもない。
 本県の水産業は、リアス式海岸という地理的特性などから、沿岸漁業を中心に発展してきた歴史的経緯がある。
 これまでも漁業者は試行錯誤しながら、今の漁業形態による生産活動を行っていることを考えると、上述した「漁場〜漁船〜漁港〜漁村」の関連性が一つでも欠けると歯車がかみ合わなくなり、そこにおける「なりわい」としての漁業が成り立たなくなり、地域経済が崩壊することを意味している。
 漁業者は命の次に大切な漁船を手に入れようと必死になって頑張っているところであり、漁港の原形復旧の方針は漁業者に生きる力を与えた。
イ.多面的機能
 これまでも、漁港あるいは漁村が有する多面的機能について議論がなされてきたところであるが、今ここでその機能について再確認することが必要であると考える。  漁港施設は、漁業活動の場のみならず、地域のお祭りやイベント開催など、地域の活性化に無くてはならない存在である。
 また、グリーンツーリズムなどの漁業体験学習の場であるとともに、集客施設の設置等により新たな産業の創出も期待されているほか、国土保全や環境保全の機能を有している。
 いずれにしても、本県沿岸域における漁港は漁業活動の基地としての役割を有していることはもちろんのこと、地域コミュニティが漁港と漁村が一体で成立していることが言える。
 以上のことからも、地域の復旧・復興のためには、これまでの歴史的背景や多面的機能、地域ごとの漁業特性や文化等を十分に踏まえるとともに、そこで「なりわい」としての産業活動をしている漁業者の意向を十分に反映したものでなければならないと考える。
(3)漁港の復旧・復興に向けて
 漁港の復旧・復興に向けては、先に述べたとおり、これまでの歴史的背景や多面的機能、地域ごとの漁業特性を考慮する必要があり、復旧だけについてみると、スピード感が求められていることからも、早期の実施が必要不可欠である。
 そのため、漁港施設の復旧は、概ね5年間での完了を目指すこととし、復興事業については、今後地域と協議・検討を行い、地域ニーズに合致した事業計画を策定するなど、本県の復興計画の終期である平成30年度の完了を目指して進めていきたい。

▲写真-14   岸壁の復旧状況(左:復旧工事前、右:復旧工事後)

7.おわりに

 本紙面をお借りして、被災状況や復旧工事の実施状況など現状の部分と、復旧・復興等の対応を検討するにあたり、必要である視点等についてご紹介させていただいた。
 今回の震災は、これまでの災害と異なり、漁港内や漁場における瓦礫により、被害調査が進まず、漁港施設の復旧工事に手をかけられなかったこと、また全域で地盤沈下が確認され、漁業活動再開に向けて大きな支障となった。
 震災前は、近い将来発生するであろう宮城県沖地震、あるいは東海・東南海地震に備えて、それぞれ対策を講じていたと思われる。今回の震災を受けて、本県はもちろんのこと、これまで幾多の対策を講じてきた都道府県におかれても大幅に見直しをせざるを得ないと思料される。
 本県の取組も始まったばかりであり、他地域の参考になるものは示すことはできない段階であるが、一つ言えることは、地域で生活している漁業者等の視点に立ち物事を考えていくこと、常にアンテナを高くし、何を一番優先しなければならないのか、何を求めているのかなど、このような状況だからこそ、これまで以上に高い意識を持ち、仕事を進めていく必要があると考える。
 今後、実施に向けては技術的な課題等多くの困難が予想される。  それらの問題点を一つ一つ丁寧に解決していくため、地域のニーズを的確に把握しながら、漁港等の復旧・整備に全力を挙げて取り組むこととしている。
 震災から1年が経過したとはいえ、まだまだ課題は多く残されており、今後も引き続き、関係各位からいろいろなご助言等をお願いしたい。


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