建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2012年7月号〉

岩手県における東日本大震災津波からの復旧・復興について


岩手県における東日本大震災津波からの復旧・復興について

岩手県 農林水産部 技術参事 兼 漁港漁村課
総括課長 大村 益男

1.はじめに

 本県は約708kmの海岸線に111の漁港が立地しており、本県中央部の宮古市を境に、北部は隆起海岸、南部は沈降海岸となっている。
 三陸沖は、親潮(千島海流)、黒潮(日本海流)、津軽暖流(対馬海流)の3海流が複雑に交錯しており、暖流系や寒流系の魚種など多種多様な水産物が漁獲されるなど優良漁場が形成されており、日本三大漁場と言われる所以となっている。
 震災前の平成11年から平成20年までの推移をみると、漁業生産量は、20万トン前後、漁業生産額については450億円〜500億円で推移しており、横ばいから上昇傾向にあったところである。
 魚種別生産量の比率をみると、飛び抜けて割合が高い魚種がなく、多種多様な水産物が漁獲されていることが本県の特徴であると言える。
 主な水産物であるアワビ類や養殖ワカメ類は全国一の産地であるとともに、さけ・ます類、養殖コンブ類、ウニ類は本州一の産地となっている。


▲図-1 生産量及び生産額の推移 ▲図-2 魚種別生産量の比率

2.被災状況

(1) 地震及び津波の概要
 平成23年3月11日14時46分、三陸沖を震源とする、国内観測史上最大となるマグニチュード9.0の地震が発生した。
 この地震により、本県では、沿岸南部の大船渡市、釜石市をはじめ、県内陸部において震度6弱を観測したほか、県内各地で強い揺れを観測した。
 さらに、この地震の発生後、大小含めた数多くの余震が断続的に発生し、平成23年4月7日には、宮城県沖を震源とするマグニチュード7.1の強い余震が発生し、震度6弱を観測するなど、立て続けに県内各地で強い揺れを観測した。

(2)被害の状況(平成24年3月末現在)
 今般の地震・津波により、沿岸地域は壊滅的な被害を受け集落・都市機能をほとんど喪失した地域や臨海部の市街地を中心に被災したものの後背地の市街地は残存している地域など、市町村や地域によって被害の程度は大きく異なっている。
 また、内陸地域においても、人的被害や家屋、製造業・農林業施設、公共土木施設等の被害が発生している。
ア 人的・家屋被害
 本県の人口は、約133万人で、沿岸12市町村では約27万人となっていることから、沿岸地域の人口の約3%が被害を受けたことになり、被害の大きさを物語っている。
 家屋については、ほとんどが津波による被害であり、避難所暮らしを余儀なくされていたが、仮設住宅の建設が進み、現在では避難所暮らしは解消されている状況である。

▲表-1 人的・家屋被害の状況

イ 産業被害(農林水産業)
 農林水産業全体の被害額としては、6,633億円余となっているが、うち水産業及び漁港関係施設被害が5,649億円余と農林水産業全体の85%を占めている。さらに、漁港関係施設被害だけで見ると、4,527億円余となっており、県内農林水産業全体の7割、水産関係被害の8割の被害額となっており、沿岸地域経済の基幹である水産業に大打撃を与えた。
ウ 漁港関係施設の被害状況
 漁港関係施設被害4,527億円余について施設別にみると、下表のとおりであるが、防波堤などの漁港施設と堤防などの漁港海岸施設で約9割を占めている。


▲表-2 漁港関係の被害状況一覧

@漁港施設
 県内111漁港(県管理31漁港、市町村管理80漁港)のうち、108漁港において防波堤や岸壁等の多くが倒壊・損壊などの被害を受けた。
 被害の程度は地域によって異なり、震源地から離れている北部の漁港被害は南部に比べると小さいが、地震による地盤沈下が県全域で確認され、最も大きい所では、約1.3m程度沈下、高潮時等になると浸水するなどの被害が生じている。


▲写真-1 田老漁港の防波堤倒壊 ▲写真-2 大船渡漁港の浸水状況

A海岸保全施設
 堤防等の海岸保全施設については、これまでに整備した55漁港海岸(39.5km)のうち、54漁港海岸(36.6km)で、堤体の倒壊、地盤沈下による被害が生じるとともに、ほとんどの漁港海岸で、陸閘・水門の扉体の飛散・流失などの被害を受けた。
 また、堤防の全倒壊や半壊などの中規模〜大規模被害は約5.3km(これまでの整備延長の13.4%)となっている。



▲写真-3 田老漁港海岸の防潮堤倒壊

B漁村生活環境基盤施設
 漁港背後に立地する漁業集落(以下「漁港背後集落」という。)では、生活環境改善に資するため漁業集落排水施設の整備を進めてきたところであり、平成22年度末現在において32地区が整備されている。漁業集落排水処理施設については、集落の立地状況等や経済性・効率性を踏まえ、漁港施設用地に建設されていることが多いため、23地区において地震による損壊若しくは津波による浸水などの被害を受け、下水処理が不能になった。
C漁場施設
 これまでに整備してきたウニ・アワビ増殖場(ブロック等を設置)については、被害状況調査が遅れたものの、養殖場の消波施設の倒壊や、ブロック等の飛散が確認されている。
 この他、津波により損壊した家屋や車両、漁船や養殖施設などが、大量の瓦礫として海域に堆積・浮遊しており、早期の漁業再開のための定置網や養殖施設の設置の大きな支障となった。

▲写真-4 吉里吉里地区の処理施設

3.被災直後の対応

(1) 瓦礫撤去
 被災直後は、瓦礫が漁港内を埋め尽くし、沖合に避難していた漁船が係留する場所もなかったことから、発災後速やかに災害協定等に基づき、請負業者に対して要請し、瓦礫撤去を最優先に行った。
 平成23年9月30日には、瓦礫撤去の必要があった86漁港において全て完了し、県下111漁港全てで利用が可能となった。
 また、倒壊した防波堤や堤防などの応急工事を以下の観点から実施した。



▲写真-5 漁港周辺における瓦礫埋塞状況 ▲写真-6 瓦礫と化した養殖施設の撤去状況

(2) 応急工事の実施
 本県では、災害査定が6月下旬から順次始まったが、以下の観点から応急工事を実施している。
ア.二次災害防止のため、
  (ア) 故障した水門・門扉の補修、倒壊した防潮堤区間・飛散した門扉部分の応急的な措置
  (イ) 地盤沈下による浸水を防止するための岸壁等の嵩上げ
  (ウ) 残存した漁船等の安全確保対策
イ.10月頃から本格化する秋サケ等水揚げ体制確保
ウ.ワカメ等の養殖再開の準備作業が実施できるよう岸壁等の仮復旧及び漁場の瓦礫除去
エ.漁船の安全な航行・停泊等のため、安全に係船できる区域の必要最小限の復旧


▲写真-7 泊地内の瓦礫撤去(左:撤去前、右:撤去後)

 県内各地では、漁業活動が徐々に活発化してきており、漁業協同組合や漁業者等から漁港の早期復旧、漁場に堆積している瓦礫等の撤去、市場前岸壁などの仮復旧の要望が強まったことから、それらに迅速に対応すべく、6月下旬から順次始まった災害査定を待たずに応急工事を実施した。
 具体的には、
ア.荒天時の静穏度確保のための防波堤等の外郭施設(19漁港)
イ.漁船の安全な係留場所確保のための岸壁等の係留施設(22漁港)
ウ.洗掘や浸水防止のための堤防等の海岸保全施設(21漁港海岸)
エ.生活排水などの汚水処理のための仮設配電盤設置等(18地区)
 を実施した。


▲写真-8 港内への波浪流入防止(左:工事前、右:工事後)

▲写真-9 荒天時の洗掘・浸水防止(左:工事前、右:工事後)

4.復旧・復興に向けての計画

 本県では、科学的、技術的な知見に立脚し、被災市町村等の復興を長期的に支援するという考え方に基づき、沿岸地域をはじめとした岩手県全体が、東日本大震災津波を乗り越えて力強く復興するための地域の未来の設計図として、平成23年8月に岩手県東日本大震災津波復興計画(以下「復興計画」という。)を策定した。
 計画期間は、本県における迅速な復興の推進を図るとともに、平成31年度に予定される県の次期総合計画を見据え、平成23年度から平成30年度までの8年間を全体計画期間とし、第1期(平成23年度から25年度までの3年間)、第2期(平成26年度から28年度までの3年間)、更なる展開に向けた連結期間となる第3期(平成29年度から30年度までの2年間)に区分し、取組を推進することとしている。
 復興計画では、「いのちを守り 海と大地と共に生きる ふるさと岩手・三陸の創造」を目指す姿とし、「安全の確保」、「暮らしの再建」、「なりわいの再生」を3つの原則として掲げ、この原則のもとで、地域のコミュニティや、人と人、地域と地域のつながりを重視しながら、ふるさと岩手・三陸の復興を実現するための取組を着実に推進していく。
 水産業関係の具体的取組項目として、
@漁業協同組合を核とした漁業、養殖業の構築
A産地魚市場を核とした流通・加工体制の構築
B漁港等の整備
 の3つの項目を掲げ取組んでいくこととしている。
(以下次号)

▲図-3 岩手県復興基本計画の概要

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