建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2012年5月号〉

道路網をきちんと整備しなければ明日の北海道はない

── 設立50周年、秋津道路の由来は日本書紀の秋津島

北海道舗装事業協会 会長、秋津道路株式会社 代表取締役 渡辺一郎氏


――今年で設立50周年ですが、会社設立の経緯から伺いたい
渡辺 先代の渡辺孫一は昭和14年に北大土木専門部を卒業して、鉄道会社の技師として満州に渡りました。20年の終戦で復員し、23年に私は生まれました。
 24年に米軍八雲飛行場の建設工事を日本鋪道(現NIPPO)が請け負い、その下請けとして作業員を引き連れて参画したのが始まりです。28年に千歳国道弾丸道路の建設で日本鋪道(現NIPPO)が受注し、その舗装を下請けした経験から、これからは舗装の時代と考えて37年に会社を設立したようです。
 秋津道路の社名は日本書紀に由来し、かつて日本は秋津島と呼称されていたので、その秋津が少しでも広がっていくことを願って命名したとのことです。
――札幌大学の一期生として入学しましたが、どんなことに打ち込んでいましたか
渡辺 浪人生ばかりで「フリーメンズクラブ」というサッカーチームを結成していましたが、それに理解ある教授の働きで、本格的なサッカー場が大学に整備されるとのことで招かれました。そこで、全国大会への出場を目指しました。優勝校となった法政大チームと0対0で渡り合い、延長戦後に抽選で負けてしまいましたが、全国で戦えるレベルは達成できました。一丸となって取り組めば、成せばなることを実感しました。
――その経験は企業経営にも生かされているのですね
渡辺 企業は人であり、人は和であり、そして和は心です。心ある人間が集まり、一つの目標に向けて頑張っていけば叶うというのが信条です。
―― 一方、北海道舗装協会長にも就任しましたが、業況をどう捉えていますか
渡辺 北海道は広域分散型で、これを鉄道や飛行機で結ぶことは不可能ですから、道路しかないと思います。現在は国道が7,000q、道道は1万2,000q、市町村道は7万1,000qで、高規格幹線道路は900qが整備されていますから、これらの維持補修や二次改築に予算配分されなければ、かつての「荒廃したアメリカ」の二の舞になりかねません。実際に国道を見れば、積雪が消える春先は穴だらけで、パッチの継ぎ接ぎという見苦しい状況です。草刈りが行われる回数も減っており、地方道の歩道は雑草だらけです。
 しかし、開発予算はかつて約1兆円だったのが、いまや5,000億円を下回り、道路予算も3,500億円が1,500億円に減っています。使用される合材トン数は、ピーク時は705万トンだったのが、今年は300万トンに満たない見通しです。このため協会もプラントの統廃合を進め、290基だったプラントは120基に減りました。企業が単独でプラントを保有するのでなく、JVで共有する形です。
 これで懸念されることは、若い人材を新たに導入できなくなることで、工事量が減る一方で定年も65歳まで延長することが論議される時勢ですから、新人を3年もかけて育成するのは困難です。そのため、全職種で老齢化が進んでいます。
 ある程度の削減は展望していましたが、ここまでの激減は予想外でした。小泉政権の構造改革以降、民主政権の2年間でさらに10%以上の削減率ですが、その意図が不明です。
――路面状況が酷いのでは、住民からも苦情が出るのでは
渡辺 住民側としては、路面の維持補修の必要性を感じていないかも知れません。ただ、北海道では毎年、ツールド北海道が開催されますから、路面状況に対する問題意識はあるでしょう。特に穴の空いた道路は、二輪の場合では生命の危険も伴います。
 北海道の交通事故死亡件数は、昨年は200人以下で、ピーク時は500人でしたから快挙だと思います。これは運転マナーや自動車の安全対策が向上したこともありますが、一方では道路の線形改良や中央分離帯、ランドストリップの導入で眠気対策を施すなど、人に優しい道路整備も大きな要因だと思います。それをもう少しPRしていく必要があります。
 雪道での事故などは、自分のミスでなく対向車のミスで命を落とすケースがいくらでもあります。北海道は二桁国道も多いので、せめて中央分離帯と四車線化は必要でしょう。
――協会長として、補足することはありますか
渡辺 工事量が減った上に、落札率が下がって利益も確保できませんが、発注者側もそれを理解しているので、両者の話し合いで解決できればと思います。それによって「三方良し」は実現できるでしょう。業界としては、利益が得られないために納税もできないのでは、社会に資金は循環していきません。そして、若い人への技術の伝承もできません。
 特に舗装は道路工事の最後の仕事なので、夏までは閑散期で秋に施工が集中し、冬場になると積雪のために利益が消失してしまう特色があります。せめて、施工の平準化が実現できれば無駄をなくせます。
 そして、公共事業を諸悪の根元とし、建設会社が正常に経営されることを不審がる意識にも問題があります。かつて15兆円だった公共事業費を5兆円程度に減らす一方で、15兆円だった社会福祉費は30兆円に増えていますが、結局は赤字財政ですから、公共事業がこれまでの赤字の主因とは言えないでしょう。
 また、北海道は金食い虫と思われてきましたが、食糧、エネルギー、観光においては大きなウェイトを占めてきています。そのためのインフラ整備によって、国民生活に必要不可欠な食料を安定的に供給できる立場になれるのが北海道ですから、道路網をきちんと整備しなければ、明日の北海道はないものと思います。

渡辺 一郎 わたなべ・いちろう
昭和23年3月14日生まれ
昭和45年3月 札幌大学経済学部 卒業(第1期生)
昭和48年   秋津道路株式会社 入社
昭和50年   秋津道路株式会社 代表取締役に就任
平成24年2月 北海道舗装事業協会 会長に就任

秋津道路株式会社のホームページはこちら


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