建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2012年4月号〉

地域の要望に応え、住民が利用して喜んでもらえるインフラ整備[後編]

北海道 釧路総合振興局 副局長
菊地 隆 氏

──管内は北海道東方沖地震など震災が多い地域ですが、備えは万全ですか
菊地 地震の場合は、事前に備えておくのは難しいですが、地震が起きた場合は、まず安全に通行できるかどうかが問題です。危険であれば通行止めとするのが基本で、復旧その他はその後の問題です。一方、津波に関しては、避難のために生命線となる道路は、少しでも機能を強化しておくという配慮が必要でしょう。何年かを費やしながら液状化対策を施したり、耐震補強で強度を高めるというレベルの話ですから、そう簡単にできるものでもありません。
──それ以来、土木行政に携わり、地域を見続けて
菊地 モノを作り、維持管理をするのが私たちの仕事ですが、作るということはけっこう楽しい行為で、例えば横断図では100分の1で描かれていますが、現地では1分の1で実際に実物が作られていき、そしてそれを利用する人がいて喜んでもらえるのは素晴らしいことです。
 民間企業の場合は利潤追求が第一の目的ですが、税金を使って地域の要望に応え、自分(というより大部分は施工業者の力ですが)で作ったものを利用して喜んでもらえるという経験は、他の仕事ではあまりできないのではないかと思います。しかも、そうした目に見える構造物は、50年や100年の長期間に渡り利用されます。そうしたインフラは縁の下の存在で、時に無駄な公共事業などと揶揄もされますが、地域の利用者は決してそんな感覚では見ていないと思いたいですね。そして、今後はいかに長く良好な状態で使用していくかを考える時代に入っていくでしょう。決してただでは使えなくなるわけですから、メンテナンスをしっかりとしなければならなくなります。
──全国的にも築後30年から40年が経過し、補修を必要とするインフラが増えてきました。これは釧路管内でも同様ですね
菊地 そうです。橋梁については長寿命化で、劣化度を判定しながら架け替えにするか、保全して長寿命化していくのか、仕分けをしてやっていきますが、その他の土木施設にしても経年劣化していくので、それらの確認と手当が必要になりますね。
──今後は市町村のインフラについても、道に代行を依頼したがるケースが増えていくのでは
菊地 市町村では技術者が激減している状況があるので、道や技術センターがタイアップしながら対処していくという発想はあるでしょう。しかし、現行の体制では道が市町村からの受託を受けて代行するシステムにはなっていません。
 何しろ道でも35%の人員削減を進めているところですから、建設部の技術職員も減少していきます。市町村をどのように応援し、カバーしていけるのか、何をアウトソーシングして、何を直轄するのかは検討課題です。したがって、公務員である技術者に期待される技能も、取捨選択されることになると思います。
──管内で注目される主要事業には、知床羅臼線の整備事業がありますが、現在の進捗状況は
菊地 知床公園羅臼線は、羅臼町市街地と相泊地区を結ぶ唯一の連絡路で、沿線にある集落の生活や経済にとっては欠くことのできない道路です。しかし、共栄地区は斜面災害や波浪時の越波被害などにより、通行止めを余儀なくされることが多く、集落の孤立化などが起きています。それらを回避するため、道路改良が平成5年度から検討されてきました。
 そして19年度に、安全安心な道路交通の確保のための防災対策に必要な検討事項について、学識経験者、地域住民代表、地元関係団体及び自然保護・教育関係者などによる意見調整と、各種工法について検討する「知床公園羅臼線道路防災対策検討協議会」が設立されました。協議会では、現道案、海上案、トンネル案が審議されましたが、自然環境への配慮や地下水脈への影響などを総合的に判断した結果、トンネル案が最良とされました。
 そこで延長は498.5mのマッカウストンネルの施工がスタートしました。地山は亀裂の多い新第三紀の安山岩溶岩やハイアロクラスタイトが主体なので、機械掘削方法を採用しています。また、周辺には北海道の天然記念物に指定されているヒカリゴケが自生しており、これを保全するため一部非排水構造として計画しました。これはウォータータイトトンネルという防水型構造形式で、トンネル掘削にともなう渇水などの影響を与えない工法です。
 一般に山岳トンネルでは、トンネル周辺の地下水を覆工背面に滞留させることなく排水させる構造が主流ですが、都市部などでは地下水位低下による地盤沈下などが懸念されることもあります。そこで、施工後に地下水位を復水させる、いわゆる防水型トンネルとして設計、施工されることもあります。ウォータータイト区間の防水構造については、止水性を向上させるための様々な工法がありますが、このマッカウストンネルでは2.0mmの防水シートを採用することとしています。
 このトンネルの施工によって、ルートを山側に変更することになり、安全と安心が確保されます。

菊地 隆 きくち・たかし
昭和30年7月1日生
昭和51年4月 北海道職員採用
昭和51年4月 小樽土木現業所
昭和62年8月 土木部道路課
平成 4年4月 函館土木現業所八雲出張所道路係長
平成 6年4月 札幌土木現業所岩見沢出張所維持係長
平成 8年4月 帯広土木現業所事業部事業第二課道路第二係長
平成10年4月 網走土木現業所事業部治水課防災係長
平成12年4月 建設部都市環境課主査
平成13年4月 建設部道路整備課道路維持係長
平成16年4月 帯広土木現業所事業部道路建設課長
平成19年6月 建設部土木局道路課主幹
平成20年4月 網走土木現業所事業部長
平成22年4月 建設部土木局道路課高速道・市町村道担当課長
平成23年6月 釧路総合振興局副局長(兼ねて根室振興局副局長)


HOME