建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2012年3月号〉

interview

農業生産システムの一環として道路整備の充実

―― 農業土木技術者は農家の希望をデザインする〔後編〕

北海道 オホーツク総合振興局
局長 有好 利典 氏


―― 農業土木技術者について
有好 後を次ぐ農業土木技術者を育てる先輩となる私たちは、資質や意欲、闘志、技術の研鑽や発信力を高めるなど、個々の技術者のマインドを高めていくことが大事ですね。私たちは組織が大きいので、とかく塊となってなんとなく仕事をしていますが、個々の思いを高めていくように努め、技術者としての意思や思いを積み上げることが必要で、そのために一人一人にファイトが必要ですね。
―― 一般土木と異なり、農業土木の現場では発注者の監督員と受注者の現場代理人だけではなく、農家という特定の受益者も加わりますから、技術も大衆向けの最大公約数ではなく、特定された農家の要望に沿う特化した技術力が求められますね
有好 設計する者、施工する者、それを使う者と三者が地域をデザインして目標に向かっていかなければなりません。単に仕様書の通りであるとか、農家の希望のままであるなど、個々の場面での自己満足ではなく、将来に何を作っていくのか、三者が同じ夢を抱くことで良いものが作り上げられていくと思います。
 100年以上も前に入植し、開墾して農業を始めるよりも木材と石炭などの原料調達地として利用されてきたわけですが、各地域に住み着いた人々が、ここまで農業生産力を高め、さらに未来を考え、街を築いてきた140年は、長くはないけれどもそこにファイトある道民性というものを感じています。そして、それは行政側にも一緒に考え、進めていこうという意欲があったからだと思います。それを担ったのが技術者であり、それらを率いるリーダーがしっかりしていたからだと思います。
▲馬鈴薯の収穫風景
―― オホーツク地域の農業の特色について
有好 酪農についても触れておきましょう。遠紋では酪農が盛んで、気象、土地、条件に応じた農業形態として行われていますが、農家の並みならぬ努力があって良質な生乳が生産され、加工にも手がけて発展してきました。
 それを今後もさらに伸ばしていくならば、自力で飼料を調達できるような草地整備やデントコーンなどを増やしていくことが必要です。そのためには基盤整備や排水対策、作業線としての農道整備が必要になっています。
―― デントコーン栽培は、可能性がありますね
有好 気温が足りないため生育しづらいのですが、改良の余地はあるので、発展途上にはあります。
―― それが可能になれば、真に飼料の自給自足で自立できますね
有好 国民の食糧自給率を高めていくのに、飼料も外国に頼っているのではなく、やはり自国でそれも賄えることを目標とすることが必要だと思います。そこで、飼料の供給組織というものが定着し始めているので、後はいかに良い餌のブレンドができるかが問題で、圃場で作付けしても、出来たり出来なかったりと差がまだありますが、それは品質改良や土地改良、排水対策などによってカバー出来るかも知れません。
―― 現在は、やはり100%が輸入ものに依存している状況ですか
有好 牧草は道内調達ですが、トウモロコシや大豆などの飼料は輸入物です。牧草だけでは生乳の量が増えないので、それらの濃厚飼料をいかに確保するかが課題となっています。
▲畑地帯総合整備事業による客土工事
―― 一部農家が手がけていると聞きました
有好 デントコーンについては、すでに作付けはしているのです。現地調査に行くと、2mを超える優良なものもありますが、1m強くらいで生育不十分のところもまだあります。圃場条件がバラバラなので、まだ技術開発が必要だと感じます。
―― 今後の課題について
有好 北見のタマネギ生産においては、これからのオホーツク農業の主力であり、技術的改良もさることながら、移出のための物流をきちんと確保していくことがテーマとなっています。道外へ安定出荷するための道内の輸送ルートの確保は生産システムの一環として重要です。象徴的なものでは、タマネギ列車がありますね。
 また、これは全道的な課題でもありますが、農水産物を道外、海外へ輸出するには、定時的に輸送できる道路網の確立も大事です。
―― この管内の高規格幹線道路は、まだ主要地域とはつながっていません
有好 夕張から帯広まではつながりましたね。しかし、管内では生産の中心地である北見市や網走市、紋別市は高速道路がつながっていません。インフラ整備は不十分で、農業生産を上げて、生産物を新鮮に安定して輸送するための物流ができていないというのは今後の大きな課題ですね。
 したがって、農業予算のみならず、関連のインフラ整備の予算も合わせて要求していくことが必要です。今後、6次産業を確立されていく上では、人や技術の交流も欠かせなくなりますので、そうした人・ものの移動においても道路整備は必要です。
有好 利典 ありよし・としのり
昭和29年6月4日生 北海道札幌市
昭和52年3月 北海道大学農学部卒業
昭和54年1月 北海道庁入庁(農地開発部総務課)
平成 2年4月 留萌支庁防災ダム建設事務所管理係長
平成 5年4月 網走支庁農業振興部計画課基盤調整係長
平成 7年6月 農政部土地改良指導課施設整備係長
平成 9年6月 農政部設計課設計係長
平成10年3月 農政部農政課主幹
平成10年4月 農林水産省構造改革局総務課管理技術専門官
平成12年4月 後志支庁農業振興部耕地課長
平成15年6月 農政部設計課主幹
平成17年4月 農政部事業調整課参事
平成18年4月 農政部農政課参事
平成19年6月 農政部農村振興局農村設計課長
平成21年4月 農政部技監
平成23年6月 現職

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