建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2012年2月号〉

interview

北海道農業は自然と共存しつつ 生産を維持していくことが大事

――オホーツク地域は日常生活の楽しみ方を知っている〔中編〕

北海道 オホーツク総合振興局
局長 有好 利典 氏


──各農家が1次、2次、3次に加工業を加えた6次産業として、自立していけば総予算も増額されるのでは
有好 6次産業化によって、付加価値を高めるということになるでしょうから、総生産額が高まっていくことは考えられるでしょう。例えばビートやじゃがいもについては砂糖工場や澱粉工場が作られ、これが雇用の場として地域に定着し、農業を核とする産業構造を形作ってきました。後に、効率化を図り工場の統廃合も進められて今日の姿になっていますが、さらに展開していくには、工場の機能を高めて多様化し、様々な需要に応えていくように改良されれば、一層の飛躍は可能です。そのために新たな技術開発も必要になり、新たな雇用も生まれることも期待できると思います。
──それが実現できると、オホーツクの将来展望は明るいですね
有好 北海道でも一番になろうとという意気込みはありますが、地域の人たちはあまり貪欲ではないと感じるところもあります。管内は自然環境に恵まれており、独自のライフスタイルを楽しむ気質もあり、日常生活の楽しみ方を知っている地域だと思います。
 しかし、産業としてみれば、潜在力があるので、それを高めたい思いはあるのですが、いきなり近代化して急成長するのではなく、自分の生活スタイルに合わせながら進化させていきたいということになれば、成長曲線の角度はいくぶん緩やかな状態で推移するのではないでしょうか。
 けれども、私個人としての心配は高齢化の進行で、これが進んでいくならしっかりした担い手を確保しなければなりませんし、また、次世代の農業の方々の将来デザインや理想は、また別の次元にあるのかも知れません。
 例えば、今の作物だけで満足しているのかどうか。新たな6次産業に向けて生産体制をデザインしていこうという思いがあるのではないか。引き継ぐなら、次世代の発想で今からいろいろな目標を立てて動き出すことが必要でしょう。その時に、あまり緩やかな行動では、20年先の情勢にも耐えられるのかが心配です。やはり新しい発想に基づく地域デザインをみんなで議論し、創りあげていく準備をするのが良いと思うのです。
▲公共牧場(はまなす第1地区)

──幸福感が高く、満足感もあるため、あくせくしていないのでしょうか
有好 農業も水産も順調ですから、幸福感はあるでしょう。流氷観光もあり、周囲は美しい景観に囲まれています。その優れた環境の中で、労働は大変でも収穫の喜びもあるので、生活スタイルとしては楽しんでいるのではないでしょうか。
──そうした環境にはありながらも、公共投資予算がこのまま削減され続けていけば、地域に与える影響も大きくなるのでは
有好 農業分野について言えば、農地性能の向上や排水対策への要望があるのに、事業費が回らないとなれば、性能に差が生じてしまいます。また、高齢化によって農地を手放す場合には、整備が後れているところは引き取り手が現れないという問題があります。性能が低いと言うことは、使いづらくて生産効率が悪いということですから、耕作放棄せざるを得なくなります。これによって、生産量は下降していくことにもなり、北海道の食料供給基地としての貢献度も落ちていくことになります。
 一方、建設業も土の性質や背後地の水処理、環境などについて理解している技術者がいなくなると、グランドデザインを実行するチームが地域からいなくなってしまいます。これは地域としても大きな損失です。企業として、せっかく蓄積した総合技術が、特定の分野に限定されることになり、能力が縮小してしまうことになります。そうした人材の減少によって、街の活気がなくなり購買力も落ちるので、これは農村の衰退につながります。もちろん、予算だけの話ではないかも知れませんが、その大きな要因とはなりますね。
 したがって、予算配分について、一括交付金の施行など制度を変更しようとの動きはありますが、まだまだ必要な予算の量があることを理解してもらい、地域にとって必要な予算は確保することが大切です。予算増ばかりではなく、地域で立てた目標を国民にプレゼンテーションして、声を挙げていくことも必要だと思っています。
 予算要求の仕方としても、従来の市町村と国との縦の繋がりだけで説明するのではなく、地域の将来のデザインと、それによってどれくらいのものを全国に還元していけるのかを示し、そのためにいつまでの期間にどれだけの整備が必要であるかを、国民全体に理解してもらう手法が必要になるでしょう。
──つまり自然環境を護りながらも収益を上げていくことを強調し、国民に納得してもらうことがポイントですね
有好 そうです。自然の資源を活用しつつ継続的に生産するために、その自然を護りながら生産力を高めていく北海道農業は、国家にとって価値あるものであることをアピールすることです。自然から略奪するのではなく、自然とともに共存しつつ生産を維持していくことが大事なのです。(以下次号)

有好 利典 ありよし・としのり
昭和29年6月4日生 北海道札幌市
昭和52年3月 北海道大学農学部卒業
昭和54年1月 北海道庁入庁(農地開発部総務課)
平成 2年4月 留萌支庁防災ダム建設事務所管理係長
平成 5年4月 網走支庁農業振興部計画課基盤調整係長
平成 7年6月 農政部土地改良指導課施設整備係長
平成 9年6月 農政部設計課設計係長
平成10年3月 農政部農政課主幹
平成10年4月 農林水産省構造改革局総務課管理技術専門官
平成12年4月 後志支庁農業振興部耕地課長
平成15年6月 農政部設計課主幹
平成17年4月 農政部事業調整課参事
平成18年4月 農政部農政課参事
平成19年6月 農政部農村振興局農村設計課長
平成21年4月 農政部技監
平成23年6月 現職

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