建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2012年1月号〉

interview

ダム現場で自前の電算機を利用し計算業務に取り組む

――現場代理人は小規模会社の社長さん〔前編〕

北海道 後志総合振興局 副局長(建設管理部担当)
桶田 謙一 氏


──出身校は室蘭工大ですが、専攻は
桶田 土木の構造力学などについて学んでいました。土木工学は昭和50年代では最も就職先の多い学科で、土木構造物は地図上に表記され、長く残っていくものですから、これを職業とするのが良いと思っていましたが、まさか今日のような時代が来るとは思いませんでした。
──その頃は全国で土木事業が盛んに展開され、技術者も不足していたのでは
桶田 様々な分野で技術者が求められていましたね。民間企業への就職も考えましたが、体力的なこともあり道に入庁いたしました。
──大学側としても、公共事業に役立つ人材育成を目指していたのですか
桶田 土木自体が即ち公共事業で、これに携わる職業として企業に勤める人もいれば、官庁職員になる人もおり、また教職員になる人もいるということでしょう。
──在学中は、どんな分野を重点的に学びましたか
桶田 卒論は実務ではあまり使用されない分野をテーマとしましたが、その頃は電算機が業務に普及し始めていた時期でしたので面白い内容でした。
──実務でも役立ちそうですね
桶田 入庁して美唄ダム事務所に配属されたところ、ダムに関する様々な計算業務が必要となり、その作業を求められたので、当時マイコンと称されていたものを自費で入手しました。中古なのに70万円と高額でした。まだMS-DOSも無かった頃で、自力でプログラムを作らなければならない時代でした。
 美唄ダムでは、諸事情から計算のやり直しが必要となったので、その自前の電算機を駆使してコンクリートの温度応力などを計算したものです。後にも先にも一度きりですが、偏微分方程式を解いてみました。それに基づいてコンクリートを冷却するクーリングを実施し、その計算値の通りにコンクリートの温度が下がってきました。計算値と計測結果が一致したので安心しました。
──施工会社の現場代理人も驚いたのでは
桶田 そんなことはありません。現場は現場でいろいろと必死に取り組んでいますから、むしろ教えられることがありました。私は美唄ダムと愛別ダムの現場を通じて、ダムの現場には10年関わってきましたが、現場から教えられることは多々ありました。
 それらの現場では、ダムコンクリートはもちろんグラウトやクーリングの他、管理設備の設計では電気、通信を含め、様々な分野があり、関連道路の整備など、多様な業務に携わらせてもらいました。ダムは業務の幅が広い反面、従事する人員は少ないので、一人で何でもこなさなければなりません。
 お陰で最近の技術者とは違って、電気、通信業務に対する抵抗やこだわりを持つことはありませんでした。
▲辰五郎川高水敷除草(共和町)
――計算値が狂うと、作業工程全般に影響が出るので、緻密な正確さが求められますね
桶田 やはり大学での学習とは違います。実際に、実務は長時間にわたる大変なものでした。当時の私たちは、公務員技術者というよりも現場の一担当技術屋的な存在でしたね。
 その後は道路部門に移り、道路維持業務にも携わりました。電気、通信に対するこだわりが無かったので、後に技術管理課に配属され、積算システムの改良業務に携わりました。基本的なプログラムはそのままにし、クライアントサーバー型のネットワークに変更しました。電子、電気関係というのは、みなこだわのがあるので嫌がる業務ですが、私にはそれがないので、全道のネットワークの通信回線や機器設定に至るまで手を着けたのです。
――平成20年に技術管理課長に就任されていましたが、現場業務を知っていたお陰で、ネットワークシステムの設計がスムーズに描き出せたのでは
桶田 ダムというのは特殊な設計で、歩掛も自分で作ることになるのです。通常は決まった歩掛というものがあり、それに単価も組み合わせるのが道路、河川の積算方法ですが、その当時のダムでは共通仮設費も含めて、全てが積み上げ方式なのです。
 当然、ダムごとに異なり、ダムの現場事務所を設置するにも人員・面積において、どの程度の規模の事務所にするかを想定して積み上げていくのです。したがって、歩掛においても、また何種類もの労務単価を作ることになります。まず最初にコンクリート打設スケジュールを作り、それに基づいて全体の歩掛をダムごとに作っていくわけです。
――入札制度の改正にも着手しましたね
桶田 建設技術センターに在籍していた時に総合評価方式が導入され、市町村でも採用できないかと、各地を廻って説明していました。入札契約の経験がありましたので担当できました。
――総合評価方式については、今なお様々な意見が聞かれます
桶田 この方式は平成2年に国で適用された方式で、経済産業省にてスーパーコンピューターの発注に当たって導入されたものです。そして平成11年には、当時の建設省も採用しましたが、それは「規制緩和3ヵ年計画」の一環として導入されたものです。
 当初は海外の製品を日本に輸入することが目的だったので、現在の総合評価方式とは目的が違っていましたが、品確法が施行されてからは変わってきました。今の総合評価方式は地域要件なども含まれますが、当時のものでは総合評価管理費などがあり、形式が異なっていました。
 それは、新しい技術提案に対価を支払うような仕組みでしたが、現在の方式ではありません。この方式では対象件数を拡大するには不向きであったことによると思います。
――手間がかかるので、小規模工事にまで適用するのは難しいのでは
桶田 たぶん、当初は運用に当たっても莫大な時間がかかったでしょう。チェックリストにしても、中には私たちでさえ理解できないものもあったものと思います。したがって、当時は1本の工事に適用するのが精一杯という状況でした。道でも、平成16年に1本だけは施行していますが、かなり大変だったことと思います。
 その後、談合などあり、また、政府の構造改革の観点から、さらなる制度改革が求められました。このため、適正化法指針の改正、品確法の中で総合評価方式による一般競争入札の拡大、拡充が規定され、全国知事会の方針や総務省・国交省の連絡会議の中でも同様の事が求められました。それに基づき、北海道も平成18年に簡易型総合評価の試行という形で導入されました。
──この方式における評価項目も変わってきているのですね
桶田 当初のものに比べると、全く違うものになっています。
──つまり地域事情を考慮した地域要件を反映できるのですか
桶田 北海道でも、基本的には「北海道における総合評価方式のガイドライン」に基づいて、地域要件を含むことが出来るようになったのです。通常の一般競争入札に比べると、地域事情をより反映しやすくなっていおり、これは除雪や災害対策など地域貢献している地場企業が必要なので、それに配慮する意味も在ります。
 もともと、地域要件については「官公需法」に基づいた北海道の「受注機会の推進方針」の目標値を持っています。
▲車道除雪状況(倶知安ニセコ線)
──地場中小企業にも、ある程度の受注機会を確保しているわけですね
桶田 「官公需法」が基にあります。
──しかし、チェックリストを作るのも大変な作業では
桶田 評価項目については、施工会社はみな事情が違うので、説明会でも、それで善しとするところと、それは困るというところがあります。全員が満足とは行かないものです。やはり会社の体制で、しっかりしたところもあれば、そうでないところもあるということでしょう。
──この方式も、施工会社にとっても分かりやすいという透明性が必要では
桶田 実は、透明性とは言っても知的財産も含まれるので、公表できない部分もあるのです。ある会社で上げられたノウハウは、他者には提供できないという制約があります。ノウハウを共有できないことが、総合評価の最大の課題で、そのためにブラックボックスではないかと疑われる原因にもなっています。
 何しろ、現場代理人が考え出した個人的ノウハウで、成績を上げるために独自に工夫してきたのでしょうから、それを公表してしまったのでは立場がなくなります。
──そうした現場を担当した監督員も、かなり勉強しておく必要がありますね
桶田 現場代理人はみな成績を上げるために努力をしていますから、その内容はたとえ自社においても容易には口外できないかも知れません。現場代理人は小規模会社の社長のようなものですから、企業機密を他社には明かせません。そのようなノウハウが総合評価の提案にある場合がありますので、公表する訳にはいきません。(以下次号)

桶田 謙一 おけた・けんいち
昭和29年3月30日生まれ 泊村出身
昭和53年1月 札幌土木現業所美唄ダム建設事務所職
平成 6年4月 土木部総務課主査(計画)職
平成 7年6月 土木部管理課開発推進係長職
平成10年4月 網走土木現業所工事契約課主幹職
平成12年4月 札幌土木現業所工事契約課主幹職
平成14年4月 建設部建設管理局技術管理課主幹職
平成17年4月 (財)北海道建設技術センタ−企画研修部長職
平成20年4月 建設部建設管理局技術管理課長職
平成23年6月 現職


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