建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2012年1月号〉

interview

TPPに募る危機感と迫られる地域農業の強化・保護

――公共事業の早期発注と地場中小企業の受注確保に配慮

北海道知事
高橋 はるみ 氏

 現在の民主政権はTPPへの加盟に意欲的だが、全国知事会や農業界はおろか、党内にも強固な反対意見がある。試算では、アジア市場から27兆円の歳入を、10年もかけて得るとの展望だが、株安の一方で不自然な円高という環境では、品質はともかく価格においては国際競争に勝てる状況にはない。特に農業を中心とする北海道においては、その命脈に関わる問題である。


──農業を主力産業とする北海道にとってTPPへの加盟は、地域全体の死活問題にもなると思われますが、それでも政府が強行してしまった場合、北海道農業を守る手立てはありますか
高橋 TPP協定は例外なき関税撤廃が原則であり、仮にTPP協定に参加し、重要品目の関税撤廃の例外が認められない内容で締結された場合、本道の基幹産業である農業や関連産業に甚大な影響を及ぼすだけでなく、地域社会の崩壊を招きかねません。
 このため、道としてはこれまで道議会、農業団体、経済団体及び消費者団体などと一体となり、道民合意がないままTPP協定への参加を決して行わないよう、繰り返し国に要請してきたところです。
 しかしながら、野田総理大臣は、今年11月11日の記者会見で「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と述べるとともに、APEC首脳会議においてもその旨を表明しました。
 私としましては、国民に対しての情報提供がなされず、国民合意がないまま交渉参加に向けて、関係国との協議の開始を総理大臣が表明したことは極めて遺憾であります。
 また、政府の「食と農林漁業の再生実現会議」が今年10月にまとめた「我が国の食と農林漁業の再生・強化のための基本方針・行動計画」では、農業の競争力や体質強化を5年間で集中的に展開することとしており、道が今年3月に策定した「第4期北海道農業・農村振興推進計画」の方向とおおむね一致してはいますが、抽象的な部分も多いことから、今後、国において具体化される事業や制度が第4期計画の推進に資するものとなるよう、提案・要望を行ってまいります。
 私としましては、この基本方針等においては、高いレベルの経済連携との両立に関する具体的な方策などは明らかにされておらず、仮に関税撤廃を原則とするTPP協定に参加した場合は、本道農業の継続が困難となる恐れがあることから、引き続き国に対し、道民合意がないままTPP協定への参加を決して行わないよう、強く求めてまいりたいと考えております。
──デフレ不況に対する政府の有効策が実施されないまま、すでに20年が経過し、我が国経済はいまやデフレ不況と雇用不足は慢性化したまま推移しています。こうした状況の改善に向けて、有効と思われるカンフル剤は何と考えますか
高橋 道内の経済雇用情勢は、総じて業況の先行き悪化が懸念されているほか、失業率も高止まりの傾向にあるなど、厳しい状況が続いています。さらに昨年の3月と8月に続き、10月にも海外外為市場で円が戦後最高値を更新するなど、今後、長引く景気低迷に加え、歴史的な円高などの影響により製造業や宿泊業をはじめとした中小企業を取り巻く経営環境は、さらに厳しい状況が続くものと予想されます。
 こうした状況を踏まえ、私としましては国の第3次補正予算編成に向けて、中小企業の資金繰り支援や、雇用対策の充実などの経済活性化対策を国に要望したほか、全国知事会を通じて円高・デフレ対策の要望も行っているところです。
 一方、道ではデフレ下にあって厳しい状況にある経済・雇用情勢に対処するため、引き続き公共事業等の早期発注、中小企業者等に対する受注機会の確保、復興対策をはじめとする道の補正予算の執行に努めるほか、国の第3次補正予算を踏まえて適切に対応していくなど、道内経済の活性化に向けて切れ目なく取り組みを展開していく考えです。
 雇用不足については、本道の雇用情勢は一部に持ち直しの動きは見られるものの、景況とも相まって有効求人倍率や完全失業率は、全国と比べて悪い状況が続いており、依然として厳しい状況にあります。  このため、私としましては雇用対策を最重要課題と位置付け、関係者の皆様の力を結集して、切れ目のない対策に取り組んでおります。特に雇用情勢の改善を図るには、安定した「雇用の受け皿づくり」をしっかりと進めることが重要と考えております。
 そのためには、まず第一に中小企業の経営基盤の強化や、新事業展開など経営革新の促進に取り組むとともに、創業からの段階に応じた総合的な支援を行うなど、中小企業の育成強化が必要と考えます。  第二には、すそ野が広い自動車関連産業や、本道が優位性を有する食関連分野、さらに今後成長が期待される環境関連分野など幅広いものづくり産業の振興を図るとともに、本道の立地環境を活かした企業誘致を促進することが必要です。
 その他、食クラスターの取り組みの加速による食の総合産業化や、省エネルギー・新エネルギーなどの環境・エネルギー産業の振興。中国をはじめとする海外市場への販路拡大、地域の個性を生かした観光地づくりなど、ブランドとしての北海道価値を磨き上げ、本道の成長力強化に向けた取り組みも重要です。
 私としましては、こうした「雇用の受け皿づくり」を多面的に推進するとともに、雇用情勢が厳しい若年者や、中高年の求職者に対する就職支援や、季節労働者の通年雇用化の促進など「就業の促進」にも取り組み、産業施策と雇用施策を一体的に展開してまいりたいと考えております。

高橋 はるみたかはし・はるみ
昭和29年 1月6日生まれ 富山県出身
昭和51年 3月 一橋大学経済学部 卒業
昭和51年 4月 通商産業省入省
昭和60年 大西洋国際問題研究所(在パリ)研究員
平成 元年 6月 通商産業研究所総括主任研究官
平成 2年 7月 中小企業庁長官官房調査課長
平成 3年 6月 工業技術院総務部次世代産業技術企画官
平成 4年 6月 通商産業省関東通商産業局商工部長
平成 6年 7月 通商産業省大臣官房調査統計部統計解析課長
平成 9年 1月 通商産業省貿易局輸入課長
平成10年 6月 中小企業庁指導部指導課長
平成12年 5月 中小企業庁経営支援部経営支援課長
平成13年 1月 経済産業省北海道経済産業局長
平成14年12月 経済産業省経済産業研修所長
平成15年 2月 経済産業省退官
平成15年 4月 北海道知事

HOME