建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年11月号〉

interview

現場に学び、思考を巡らす

――砂浜海岸での漁港の漂砂問題を島式で克服〔後編〕

北海道 宗谷総合振興局 副局長(建設管理部担当)
柏葉 導�ｺ 氏

──ワイングラス漁港で漂砂問題を解決したそうですが

柏葉　八雲出張所に勤務していた時に、漂砂の問題を克服するため、全国でも初めてとなる島式漁港の計画を担当しました。長万部の砂浜に前浜漁業の拠点となる国縫漁港を造る計画でした。漂砂対策としては港内に砂が流入しないようにすることと、海岸に構造物を造ると周辺の地形が変わるので、影響を最小限に抑えるという目標を立てました。
　それまで国内で漂砂問題の解決に向け本格的に取り組んだのは苫小牧港で、東大の協力を得てラジオアイソトープを用い、海岸における底質砂の移動状況を把握し、砂の移動限界水深を科学的に実証したのです。
　国縫漁港の場合では、ラジオアイソトープの替わりに蛍光砂を使いました。実験結果から港口の水深を移動限界水深よりも深く設定しました。

　一方、周辺に影響を少なくするよう浜からの最短距離を検討しました。無限大に離してしまえば問題はないのですが、それではアクセスが大変なので、どれだけ浜に近づけられるのかが課題でした。そこで、石狩の漁港実験室で実験やシミュレーションするなどにより、2つの課題に挑んだのです。
　また、漁港の防波堤は直線的に造るのが一般的ですが、曲線を導入し、反射波を分散させることとし、防波堤の法線も陸側は円を導入し、沖側はクロソイド曲線を採用しました。
　国縫漁港では、今回の津波の影響はあったものの、漂砂の被害は無かったようです。平成5年に完成して以来、一度も浚渫したことがないようですから、そろそろ技術的評価が定まっても良い頃だと思います。国内では事例が少ないですが、大規模港では苫小牧港のような解決方法があり、小さな港であれば島式が向いていると思います。

▲ワイングラス漁港(国縫漁港)

──北海道は長崎、岩手とならんで漁港数が多い地域ですが、今後の漁港整備の将来像や技術的な可能性については、どう見ていますか

柏葉　本道の漁業は、歴史的に前浜漁業からスタートしました。最初は防波堤もなく、砂浜や河口から直接漁に出ていました。その後浜の生産力に応じて、船の数や港の規模も決まったと思います。
　最近は定置網漁業が盛んで、オホーツク海側では猿払村に代表されるホタテ、サケなどの魚介類と、利尻などに代表されるコンブなどの海草類などの特産物があり、また地域ごとに異なる漁法や漁業の形態にあった漁港づくりが進められてきたように思います。
　そして、コンブについて言えば、今春まではこだて未来大学におられた長野教授が「コンブ漁家を成り立たせるには、一日で作業工程を終えなければならない」と提唱していました。昆布の場合には漁場から港での陸揚げ、乾燥作業を行う漁業者の立場に立って、漁港配置を考えることが大切なのです。
　オホーツクのホタテの場合、漁場は農業の大規模な畑と考えて良いのですが、収穫した場所から最短距離に陸揚げすることが有利なので、漁場に応じて漁港の配置と規模を決めていくことが必要であると思います。
　国際的な漁業環境を見ると、遠洋漁業は昔のようにいかないので、日本近海の水産資源をいかにして維持活用していくかが、今後より一層大切だと思いますす。

　今後は前浜漁業と、沖合漁業、それぞれの海域の資源と生産力に応じた漁港の規模と配置の視点が重視されていくでしょう。
　また、産地ブランドや衛生管理の向上も重要な視点といえます。道東の標津ではO-157の問題を契機として、漁場から漁港、産地加工までの鮮度保持と衛生管理が徹底されました。
　衛生的に食品を扱う視点を、港の陸揚げ施設の設計に取り入れるのが近年の傾向です。岸壁に屋根を付けたり、防風施設を設置する事例も増えています。
　さらに、既存の防波堤や岸壁などのストックマネジメントが大きな課題となっています。公共予算が減少し、限られた予算を有効に使う観点からもこの取組みが欠かせないものとなっています。
　今日は、災害復旧、漁港整備を中心として拙い話を聞いて頂きましたが、話を終えるにあたって、社会資本の分野では地域の実情をよく知り、現場に学び、よく思考を巡らせてから、物事に望むことが大切であることをあらためて感じているところです。

▲須古頓漁港地域水産物供給基盤整備工事

柏葉　導�ｺ　かしば・みちのり 昭和31年11月20日生まれ 北海道大学大学院修士課程工学研究科土木工学　修了 昭和56年 4月 函館土木現業所江差出張所 昭和57年 8月 函館土木現業所松前出張所 昭和59年10月 函館土木現業所八雲出張所 昭和60年 4月 土木部空港港湾課 平成 4年 7月 土木部空港港湾課主査(海の祭典) 平成 6年 4月 土木部空港港湾課主査(石狩湾新港管理組合派遣) 平成 8年 4月 土木部空港港湾課港湾計画係長 平成 9年 6月 建設部空港港湾課港湾計画係長 平成12年 4月 水産林務部漁港漁村課漁港建設係長 平成13年 4月 建設部空港港湾課主幹(石狩湾新港管理組合派遣) 平成15年 6月 水産林務部漁港漁村課主幹 平成18年 4月 網走土木現業所企画総務部企画調整室長兼 網走支庁地域振興部主幹 平成20年 1月 建設部参事(苫小牧港管理組合派遣) 平成22年 4月 水産林務部水産局漁港漁村課長 平成23年 6月 現職