建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年12月号〉

interview

建設業は地域の守り神

――災害に強く、恵まれた自然との共生できるまちづくり〔後編〕

北海道 胆振総合振興局 副局長(建設管理部担当)
中西 由一 氏


──施設整備よりも制度システムつくりに比重が移っているのでしょうか
中西 私たちは土木技術者ではあっても、実際に施工に当たるのは民間の建設会社です。私たちは町をつくるための社会基盤の整備計画策定が本来の役割ですから、いかに町をつくっていくか、現在の生活をいかにして守り、向上させていくかという発想が基本で、そのためには人命が大切ですから、そうしたソフト対策も同時に進めていく必要があります。
 当時はそれを考えるのが行政の役割だとする考え方が一般的で、専ら役所だけでやってきましたが、今日では一緒に考えたいと望む市民が増えてきました。自分の町を自分で考えてつくろうという意識がトレンドとなっています。
──土木の魅力というのは、そこにあるのかも知れませんね
中西 大学でもよく言われましたが、土木とは市民工学であり、市民生活を向上させるためのものです。ただ、がむしゃらに基礎知識もない状況で適当にやるのは危険ですから、学問的基礎知識を生かしながらプロフェッショナルとして、論理的に解明していくことが大切です。その知見を、住民に還元することが大事だと思います。
▲厚幌ダム 完成イメージ図
──平成10年には東京事務所に赴任しましたが、経験は首都を活動拠点にグローバルな業務にも生かされたのでは
中西 当時は国と地方のあり方が議論されている時代で、地方分権や地域主権という言葉が頻繁に聞かれました。今となっては死語になりましたが、官官接待が批判されていたので、中央省庁との関係が大きく変わっていく転換期にありました。
 一方、政府でも建設省を廃して国交省に改組する議論などが行われていた時期でもありました。旧来の慣行を廃し、国民生活の快適と安全のために、担当者同士がフェイストゥフェイスで直接議論する機会を得たことは、非常に良い経験で財産となりました。
 また、東京事務所は北海道の全業務の窓口ですから、土木に限らず幅広い行政分野に携わる職員らと触れ合う機会もあり、その人脈には今でも助けられることが多くあります。土木とはみんなで作っていくもので、携わった人が自己主張をするものではなく、みんなでみんなが使え、長く愛されるものを造ることが基本です。それは一人ではできないので、みんなで力を合わせてやっていくところが、まさに土木の醍醐味です。
 有珠山の対策で、災害防止空間によって温泉街の居住地は3分の2に減ったものの、新たな観光スポットができ、安全も高まり、地域として再生した姿を見ると、土木技術者としては感慨深さと喜びがあります。
── 一方、現在所管する今後の胆振・日高管内の可能性については、どう展望していますか
中西 管内4市14町は、300kmを超える海岸線に沿うように分布しており、面積は広島県と同等です。軽種馬を始め農水産業だけでなく工業も観光もあり、それぞれの地域で特有の魅力と醍醐味があります。
 反面、人口減少と高齢化も急激に進行しており、なおかつ円高、デフレの影響で、公共事業費も大幅に削減されるなど厳しい状況は続いていますが、それでも私たちは生活していかなければならないので、地域住民が安全に安心して暮らせる活力ある地域社会を実現するには、地域の潜在能力を生かすことが必要です。
 そのために災害に強く、恵まれた自然と共生できる地域作りが必要で、地元市町村と連携しながら、必要な社会基盤整備を着実に進めていきたいと思います。整備が進めば、魅力ある地域ですから、人も集まり経済も潤っていくものと思います。
 また、建設業は地域経済と地域の雇用の要であります。今回の震災でも、建設業協会も被災地の復旧・復興のために活躍しました。私はいつも「建設業は地域の守り神」だと言っていますが、地元の生命線である道路の維持や災害時の緊急対応など、その役割は重要なのです。今回の台風13号でも、浦河で堤防が決壊寸前でしたが、いち早く対処してくれました。そのように、地域に精通し、地域を愛し、地域に密着している地場企業というのは大切で、その尽力には感謝しています。厳しい経営環境ではありますが、私たちのパートナーとして、より良いものをより早く提供してくれる、地域に根ざしたプロフェッショナルとして、今後も誇りを持って頑張って欲しいと思っています。
中西 由一 なかにし・ゆういち
出身地 新十津川町
北海道大学工学部 卒業
昭和55年4月 北海道庁採用(室蘭土木現業所)
平成16年4月 建設部土木局砂防災害課主幹
平成19年6月 旭川土木現業所事業部長
平成21年4月 企業局発電課長
平成23年6月 現職


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