建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年12月号〉

interview

「三者検討会」の本格実施で成果品の品質が向上

――土木の魅力はチームワークで一つのものを作り上げる

北海道 渡島総合振興局 兼 檜山振興局 副局長(建設管理部担当)佐藤 義広 氏


 今年4月、留萌振興局留萌建設管理部長から渡島総合振興局(建設管理部担当)兼桧山振興局副局長に就任、道南における建設行政のカジ取り役となった佐藤義広さんにご登場いただいた。
 函館圏は平成27年度中の開業を目指す北海道新幹線の建設工事が急ピッチで進み、新幹線や高規格幹線道路の整備と連動した高速交通ネットワークの整備が最重点課題の一つになっている。函館建設管理部の23年度予算額は約228億円。「災害に強く安全性の高い道路整備や総合的な治水対策、土砂災害対策の推進に努めます」と、抱負を語った。
――土木技術者の道へ進まれたのは、どのような思いからですか
佐藤 実家が農家だったので、農学部か工学部の建築へ進むか迷った時期もありましたが、建築は成績が振るわずあえなく撃沈しました。父親は農業改良普及員になってほしかったようですが、農業が得手でなかったことと、工学部への憧れがあったので、ほどなく土木の道に進むことになりました。農業も土木も土をいじる作業があることでは共通していますし、相通じるところがあったと思います。そうしたきっかけで土木技術者になったのが正直なところです。
 学部へ移行の頃、土質工学という分野があり、たくさんの試験問題と厳しい講義で有名な教授がいまして、この先生を慕って土木に執着したのが、土木技術者になる契機になりました。そして、全道規模で動けるグランドの広い道庁の門を叩き、念願がかないました。
――河川と道路の両方を経験されているのは、珍しいですね
佐藤 2回の交流人事を経験するのは少ないほうかもしれません。道庁に入庁して32年目になりますが、河川事業については現場の担当者だった8年2か月と、河川課の担当者だった3年間、土現の河川係長2年間、河川課主幹10か月の都合14年間ですから、半分の期間は河川畑で働いてきたことになります。道路畑は舗装係長、道路建設課長で2年2か月、合計で4年2か月ですが、付き合いは濃かったと思います。
――河川畑と道路畑の違いはありますか
佐藤 ずっと河川の仕事をしていて、まさか道路に行くとは想定外でしたから、人事異動の際は頭が真っ白になって何も考えられない状況でした。実際は仲間に恵まれたこともあって、順調に仕事に取り組めました。道路畑に移っても河川畑の職員との交流は続きましたので、人としての幅が広がったかなあと思います。
――道路と河川では職員の気質の違いはありますか
佐藤 多少はあると思います。どちらかに片寄ることはなかったので、私自身としては良かったと思います。
▲厚沢部川
――限られた公共投資の中で、より品質の良い社会資本整備を推進するため、「三者検討会」の仕組みが構築されました
佐藤 平成14年度から試行の結果、発注者の技術力向上に高い有効性が検証されたため、平成17年度から本格的に実施しています。
 一方、私は平成16年4月、所管の技術管理課主幹に発令されました。それ以前は管理課の時代があり、勤務の経験がありました。
 その時に建設投資が非常に縮減されるなか、建設業界を何とかしなければならないという官民一体の動きが16年度から始まりました。建設業の経営効率化、つまり利益率の向上が大きな狙いでした。
 私は技術管理課のグループリーダーとして設計変更の手引き、提出書類簡素化の手引き、詳細設計照査要領作成等に取り組みました。提出書類簡素化の手引きは画期的な取り組みとして国土交通省からも引き合いがあり、専門誌でも取り上げられました。
 簡素化の手引き等は道のホームページでも公表しましたが、アクセス数が一番多かったと記憶しています。いうなれば内部管理の書類をオープンにしたのは、当時としては画期的な試みでした。
 設計変更の手引きを出してからは、それまではサービス工事で対応していた業者さんも設計変更について勉強するようになり、設計変更によって少しでも利益率を上げられたと思います。
――現場監督員の経験が今の仕事にも生かされていますか
佐藤 昔は現場代理人と酒を酌み交わしながら、いい現場をつくるのにはどうしたらいいか話し合いもしましたが、平成5年以降の一時期、現場代理人と監督員との壁というのか、甲乙の関係が強くなってしまい、現場代理人が監督員に意見を言えない時代がありました。
 三者検討会は発注者、施工者、設計者が対等な立場で同じ席に着き、設計内容、現場の施工状況について勉強するわけですから、成果品の品質向上に向けて一歩も二歩も進んだと思います。それまで発注者と施工者、発注者と設計者の関係はありましたが、三者検討会が「間を取り持ち」、深い勉強ができるようになっています。「日経コンストラクション」の最新号で紹介されていますが、「また一緒に仕事をしたい役所」の特集記事で、道庁が全国のベストテンに入っていました。
 いまの(渡島総合振興局副局長の)立場になっても、現場の取り組みがスムーズになされているかどうか気になるところです。意見交換の時は設計変更で対応できないか確認するようにしていますし、業者さんとの対話の中でも問い掛けることがあるので、その意味では離れられないでいる感じがします。
 この三者検討会の仕組みは、広く一般に知られるようになり、三者協議という形で国も取り上げられていますから、一定の成果があったと思います。
――現場監督員の経験が今の仕事にも生かされていますか
佐藤 上がっていると思いたいですね。しかし若手の教育不足の面は否めません。私たちも同じですが、若手の人材育成が課題になっている気がします。団塊の世代がそっくり第一線を退き、そのあとが私の世代ですが、技術の伝承といった意味の課題があります。
――土木の魅力はどんなところにありますか
佐藤 何はなくてもチームワークだと思います。用地交渉から、入札、実施、管理が一体となって一つのものを作り上げるので、チームワークが何よりも大事ではないでしょうか。
――思い出に残っている現場はありますか
佐藤 サロマ湖に注いでいるサロベツ川で当時は河川では汚濁防止はあまり考えられていませんでした。河川は汚れるもの、工事をすれば汚れるという考えが支配的でした。しかし、昭和59年、60年にサロマ湖の汚濁対策として汚濁防止フェンスを設置、汚濁水を下流に流さない方策を考えました。フェンスが災害のたびに流失したので苦労した現場です。漁組さんから「いい仕事をしてくれた」と評価をいただいたので、一定程度の成果はあったと思います。
 当時、環境問題はあまりクローズアップされていませんでしたが、最近は環境なくして物事を語れない、特に河川の工事は川を汚さない、木を伐採しない等、環境団体から注目される現場が多いですから。
――函館は三方を海に囲まれていますから、他の地域にはない特色もあるでしょう
佐藤 工事できる期間が極端に短い。サケの漁期や夏場はサクラマスの遡上時期を外すと、12月から2月の冬期に限られます。函館市内でも漁組との関係もあって河川整備が思うよに進まないのが悩みです。
▲主要道道大沼公園鹿部線
――今回のような台風が道南地方を直撃すると心配ですね
佐藤 危険箇所はあります。知内町の中の川については普通河川から2級河川に昇格して道で整備中です。
――北海道新幹線に開業に向けた高速交通ネットワークの整備も重点課題です
佐藤 北海道新幹線の新駅が平成27年度中に開業するのに合わせて、アクセス道路や江差木古内線のような代替道路整備など高速交通ネットワークづくりが課題になります。北海道新幹線が札幌まで延伸されると、長万部〜八雲間は私ども管内ですから、それにアクセスする道路整備も課題になります。
 また、北海道縦貫自動車道(道央自動車道)の落部〜森が今秋、森〜大沼公園が24年度中に開通予定のため、森インター線と大沼インター線の整備を急いでいるところです。
▲市民参加の道路清掃(産業道路)
――渡島、桧山管内の持つポテンシャルについて、どのように見ていますか
佐藤 まず観光という意味では大いに可能性を持っている地域じゃないでしょうか。特に函館は札幌に次いで全国で二番目に「行ってみたい街」に挙げられ、潜在力を持っておりキャパシティもあると思います。
――毎朝散歩を心掛けているとのことですね
佐藤 毎朝1時間、函館の街を歩いています。ふだん目に付かないところに気付きますので、歩くことを心掛けていて良かったという感じがします。函館市内では亀田川の沿線の町内会は、散策路の草刈のボランティア活動に取り組んでいます。私たちの職員も函館上磯線(産業道路)の草刈活動や大沼公園線の清掃活動等に参加しています。

佐藤 義広 さとう・よしひろ
昭和31年6月生 剣淵町出身
昭和55年3月  北海道大学工学部卒
昭和55年4月  北海道庁採用(網走土木現業所)
平成13年4月  小樽土木現業所道路建設課長
平成15年6月  建設部土木局河川課主幹
平成16年4月  建設部建設管理局技術管理課主幹
平成19年6月  帯広土木現業所事業部長
平成21年4月  留萌土木現業所副所長
平成22年4月  留萌振興局留萌建設管理部長
平成23年6月  現職

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