建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年11月号〉

interview

全道立公園の半数を手がけた公園づくりのプロ

――道路河川が最長の十勝経済を支えるインフラ保全が使命

北海道 十勝総合振興局 副局長(建設管理部担当)
木村 篤 氏


――副局長が土木の世界に携わることになった切っ掛けは
木村 私の道職員生活は、北広島団地の公園整備の仕事(北海道住宅団地開発事務所)から始まりました。当時(H54)は各都市で都市計画が立案されて都市施設の整備が盛んに行われていました。公園についても、首長さんたちが競い合っていた時期だったので、公園セクションはとても活気がありました。大学は造園学科でしたが、植物や庭つくりといったものがどうも性に合わなくて、都市計画研究室でまちづくりをやっていたので、入庁したての頃は土木については全く素人でした。私の場合は道庁に入ったことが土木との出会いであり、諸先輩にもまれて知らず知らずに土木屋になっていったのだと思います。
――印象深かった現場はありますか
木村 現在、道内には11箇所の道立公園があり、私が入庁する前に完成していたのは真駒内公園だけですから、それ以外のほとんどの公園に何らかの形で関わってきました。砂川の北海道こどもの国での世界の七不思議をテーマにした遊び場や全国で初めてUターン可能なハイウェイオアシスが最初の大きな仕事でした。どの公園にも思い入れがありますが、積雪寒冷地ということで屋内遊戯施設にはかなり熱心に取り組みました。宗谷ふれあい公園で最初に導入し、中標津のゆめの森公園で大規模な物を作りましたが、今でも高い利用状況となっているようです。おそらく全国でも先駆けとなる取り組みだったと思います。
 公園部局に在籍しての最後の大きな仕事が、平成14~15年の噴火湾パノラマパーク(八雲町)でのPFI事業でした。道庁初の取り組みだったことから失敗は許されないという雰囲気だったので、応募者が出てきて契約に至った時は本当にほっとしました。25年という長期契約であり、生きているうちには完了しないだろうと思っています。
▲十勝エコロジーパーク 空撮
――機構改革により、以前なら帯広土現所長という肩書きになるところが、現在は十勝振興局の副局長という立場になりましたが、管内の土木事業の将来性をどのように見ていますか
木村 まず始めに、この9月の台風12号、13号で、この管内は、過去(S56年災害)に甚大な被害を受けた時と非常に良く似た気象状況で大雨が降りましたが、さほど大きな被害を受けませんでした。昔から見ると小さな被害で済んだのは、これまで長年に渡って行ってきた土木事業によって、管内の道路、河川の防災力がアップしたことが大きいと思います。もし、そうでなかったら大きな被害を受けていたと思います。我々の仕事に意味があったことの証明であり、諸先輩の努力に敬意を表したいと思います。
 それを受けて管内の土木事業の将来性ですが、道路、河川とも全道でも整備水準が高い方で、基礎的なインフラ整備は一定の水準に達したと思っています。今後は、維持管理をしっかりと行いながら、それらの施設を健全な状態で保っていくことが仕事になっていくと思います。昔のような事業費に戻ることはもう無いと思いますが、一定の事業費のもと、我々の役割はまだまだあると思います。我々の施設を基盤として、十勝の活気ある経済活動が行われ、日本一の食料地域となっているのですから、今後ともやり甲斐ある仕事だと思います。
――今後とも必要とされるやりがいのある仕事というあたりをもう少し
木村 道道延長は約1,700q、道管理河川延長は約2,300qになり、ともに全建管中で最長です。10年前までは、年に300〜350億円オーダーの事業を実施していましたが、今は100〜150億円です。今後とも、現在の施設を健全に保ち続けるには、中期的に100〜150億円オーダーの事業が必要だと思っています。やることはまだまだあります。
 これまでは新規に建設しなければならない箇所が多かったために、改修や補修が疎かになっていたことは否めません。例えば、管内には680箇所に樋門樋管がありますが、築30年以上が経過しているものが4割を超えている状況ですが、全く改修が行われていません。橋梁数も655で全道一ですが、これも年間に10橋ずつ補修したとしても、60年はかかることになりますですから、年間10橋程度では到底、追いつきません。20〜30橋ともっとスピードアップして取り組まなければなりません。
 ですから、現在の大きな課題と思っていることの一つは、メンテナンス事業を実施しやすくする制度の改正、拡充、柔軟化です。我々だけの力では難しいので、そのことを十勝の人々に理解してもらうことが大事だと思っています。その上で、行政と政治が力を合わせて、維持時代に対応した予算と制度に早くしていく必要があります。とかく公共事業といえば悪者扱いされますが、それは説明が足りないからであって、今後一層、地域の声に耳を傾け、地域の声をバックに仕事に取り組んでいきたいと思っています。

 一方では、事業量が減少して人員が削減され、職員の士気もなかなか高まりづらい現実もあり、しかも災害時には過敏なほど厳しい対応を求められ、組織として疲弊している側面はあります。しかし、私は希望を持っています。既にある道路や川を健全に保つということは地域にとって絶対に必要なことです。やっと基礎的な整備が終わった段階であり、その質的向上がこれからの大きな課題ですが、幅広い技術的知識と現場を見る目はこれまで以上に必要です。そんなスタンスで日々の仕事をしていけば、「なんか面白そうにやっているぞ」と周りに伝染し、若い元気な人材を迎え入れることができるはずです。先人の創ったインフラを、誰が守っていくのかといえば、それはやはり私たちなのですから。
▲利別川中流地区(足寄町)
――最後に、東日本大震災や今回の台風災害を経ての管内の課題について一言
木村 今回の東日本大震災では、十勝にも大規模な津波が押し寄せてきましたが、北海道太平洋岸では過去に500年周期で巨大津波が発生しており、前回の津波から既に400年経過していることから、いつ起きてもおかしくないのが今の状態だと言われています。そうしたことから、緊急に整備すべきところとして、大津の避難道路と広尾の避難橋梁の2箇所が課題となっており、現在検討を進めています。
 また、津波の原因となる地震が問題で、今回は、震度は6以下でも振動時間が長かったことで、世界に例を見ない規模の液状化現象が発生しました。これまでは過去の十勝沖地震が対策の基準となってきましたが、500年周期の巨大津波を起こす地震もM9クラスと言われていますので、今後は東日本大震災を検証して、液状化にも備えなければなりません。地震が起きてから直せば良いと悠長に構えるのではなく、被害の発生が高い確率で予想される盛土箇所などでは予防措置が検討課題になります。

 今回の台風災害は、先ほど言ったように、我々の施設はよく耐え甚大な被害は免れることができました。しかし、たくさんの流木が発生し、海に流出したり川の中に止まっています。サケの定置網に被害が出ないか漁師の皆さんは大変気をもんでいます。しっかりした流木対策の検討が必要になってきたと思います。

木村 篤 きむら・あつし
昭和28年11月21日 秋田県鹿角市出身
千葉大学大学院 修了
平成 4年 4月 留萌土現道路維持
平成 6年4月 公園下水道課主査
平成12年4月 旭川土現主幹(富良野市派遣)
平成14年4月 公園下水道課課長補佐
平成16年4月 函館土現企画調整室長
平成17年4月 後志支庁経済部長
平成20年4月 都市環境課参事
平成22年4月 十勝総合振興局副局長(建設管理部担当)


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