建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年11月号〉

interview

災害現場の経験が現在の基礎

――北海道南西沖地震災害の復興を伝える〔前編〕

北海道 宗谷総合振興局 副局長(建設管理部担当)
柏葉 導�ｺ 氏

──土木と関わることになった切っ掛けは

柏葉　私が大学に入学した当時は、地域の鉄道の廃止が論議されており、あるテレビの番組で、交通計画がご専門の五十嵐先生が地域関係者と討論する姿を見ていて興味を持ちました。そこで、先生の元を訪ねてその話を聞いたことが土木工学を選択する切っ掛けになり、工学部移行後、交通計画学講座に入れて頂き、土木行政を目指すことにもなりました。

――港湾土木に携わった切っ掛けは

柏葉　56年に入庁し、旧函館土木現業所江差出張所に配属された頃、函館管内には、全道で280余港のうち約100港あり、漁港整備のピークに差し掛かる頃で、私はその担当になりました。
　その年の9月に奥尻町では300mmを超える豪雨となり、私も奥尻の災害調査の応援に当たることになりました。
　翌年、松前出張所へ異動しましたが、昭和58年5月に発生した日本海中部地震に遭い、漁港の地震災害の復旧を手伝うことになりました。松前出張所は高台にあり、地震発生後に崖上から見ると引き波で浜が沖に拡がり、松前港も水位がどんどん下がったのですが、見る間に海岸に茶色の津波が押し寄せ、港内では渦巻きが発生し、漁船が右往左往する光景でした。津波の威力を間近に見た初めての経験でした。こうした災害現場は貴重な経験となりました。その後、本庁で石狩湾新港や苫小牧港の管理運営に関わることとなりました。

北海道南西沖地震災害と復興の概要について（「北海道」ホームページより）

――平成5年の北海道南西沖地震の時にも、管内に赴任していたのですか

柏葉　その頃は本庁の空港港湾課(海の祭典事務局)に勤務し、旧運輸省が所管していたイベント「海の祭典」を担当していました。海の祭典開催が差し迫った7月12日午後10時17分頃に南西沖地震が発生しました。秋篠宮のご成婚後、紀子様とお二人で記念式典、祝賀会に参加される最初のイベントでした。秋篠宮ご夫妻は記念式典のみの出席、各イベントには慰霊と支援の取り組みを加え、開催にこぎ着けました。

――奥尻の震災をモデルケースとして考えると、大体の震災の現状などは見当がつくのでは

柏葉　16年にインド洋沖で地震・津波が発生し、インドネシアやタイでも甚大な津波被害がありました。その時は漁港漁村課に勤務しておりましたが、翌年の3月、水産庁からタイで開催される災害復興経験ワークショップへの参加要請がありました。
　阪神淡路大震災の後、神戸がどう復興したのか、奥尻が震災後、どんな復興を遂げたのかをタイの被災者、復興支援担当者、NGOなどに伝え、被災地復興に資するもので、私は4月にタイのバンコクのチュラロンコーン大学で開催されたシンポジウムで奥尻の復興事例を報告しました。
　津波後に怖いのは火災で、地方ではプロパンガスなどを使用しますが、ガスが流出していれば引火は避けられません。しかも瓦礫は燃えやすいため、奥尻島の場合も青苗地区が全焼する被害となったのです。
　今回の東日本大震災では、特に入り江の多い岩手県と自然条件が似ていると言えます。そのためか、被災県の担当者からも奥尻の視察や復興に関する問い合わせが寄せられ、復興実務に関する資料を提供しています。
　現在は高台移転が論議されていますが、土地問題というのは常に大きな課題となるので、南西沖地震の際に整理された資料も実務の参考になると思います。その他、復興の成功例も失敗例も含めて、奥尻の事例と比較検討して頂ければ、被災地の人々の現実的な選択の参考になると思います。本庁の水産林務部水産局漁港漁村課のホームページで「北海道南西沖地震災害と復興の概要について」を掲載しております。

須古頓漁港　水産生産基盤整備工事1工区

──港湾・漁港を長く担当されていますが、土木技術者として港の機能をどのように上げるべきでしょうか

柏葉　観光振興の面では、一般市民をどう「もてなす」かについて、行政と関係者が最初から一緒に考えた港が比較的うまくいっているように思います。例えば、稚内の北防波堤ドームや釧路のフィッシャーマンズワーフなどは、港の埠頭一帯が観光資源として利用されています。そうなると港はお客さまを迎える場所にもなります。釣りが好きな方や、プレジャーボートの利用者も多く、道内では100港以上でそれらを受け入れています。当然、漁業者とも調整しなければなりません。
　特に最近では、釣りの好きな人は港湾でも漁港でも、釣り情報誌を参考にして訪問して来ます。遊漁者の皆様には漁業への理解、漁業活動の支障にならないように配慮して頂けるとなおうまくいきますね。

▲仙法志漁港海岸の全景

──港が経済活動と交流や活性化の拠点施設という位置づけになってきているのですね

柏葉　宗谷管内の観光客の入り込みは年間200万人くらいで、そのうち利尻と礼文の離島観光では50万人に上りますが、離島に行くにはフェリーか航空路しかなく、空路は丘珠と新千歳の2路線しかありません。ほとんどの方が稚内からフェリーに乗ることになります。
　離島観光は宗谷観光全体において、大きなウェイトを占めることになります。そして、新鮮な海の幸を食べることは観光客の大きな楽しみであると思います。また地元で迎えるの人々の対応が温かいので、まさに観光要素が揃っていることになります。水産業も観光を支える要素としてウェイトは大きいと思います。
　したがって、この地域の漁業にとっては観光との連携が重要ですし、その拠点となるのが港ということになります。観光は地域の基幹産業になっていますが、東日本大震災が起こって以来観光客が激減しました。、この9月になってようやく稚内の宿も満室で、隣町の宿に泊まる観光客もでるという状況になってきました。半年間の間、ホテル、旅館業関係者はかなりの苦労があったと思います。

雄忠志内漁港 水産生産基盤整備工事

──そうした漁港の整備については、真冬でも施工しているのですか

柏葉　海の工事であれば春先から秋が中心ですが、岸壁や陸の工事であれば、冬でもあまり問題ありません。防波堤は春から秋に整備し、それ以後は天候を見ながら現場を動かすノウハウを、みな持っています。陸上でも海上の工事でも、寒冷地の土木施工のノウハウがあります。材料面では寒中コンクリートを用いたり、アスファルトの温度を上げたり、路盤を加熱したり、様々な工夫を凝らします。
　ただ、できるだけ施工に適した時期に工事量を増やすことが理想ですね。(以下次号)

柏葉　導�ｺ　かしば・みちのり 昭和31年11月20日生まれ 北海道大学大学院修士課程工学研究科土木工学　修了 昭和56年 4月 函館土木現業所江差出張所 昭和57年 8月 函館土木現業所松前出張所 昭和59年10月 函館土木現業所八雲出張所 昭和60年 4月 土木部空港港湾課 平成 4年 7月 土木部空港港湾課主査(海の祭典) 平成 6年 4月 土木部空港港湾課主査(石狩湾新港管理組合派遣) 平成 8年 4月 土木部空港港湾課港湾計画係長 平成 9年 6月 建設部空港港湾課港湾計画係長 平成12年 4月 水産林務部漁港漁村課漁港建設係長 平成13年 4月 建設部空港港湾課主幹(石狩湾新港管理組合派遣) 平成15年 6月 水産林務部漁港漁村課主幹 平成18年 4月 網走土木現業所企画総務部企画調整室長兼 網走支庁地域振興部主幹 平成20年 1月 建設部参事(苫小牧港管理組合派遣) 平成22年 4月 水産林務部水産局漁港漁村課長 平成23年 6月 現職