建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年11月号〉

interview

北海道に真に必要な社会基盤整備の促進

――道民の生命・財産を守り、安心・安全に暮らせる地域づくり〔前編〕

北海道 建設部 部長 武田 準一郎 氏


――「土木の日」にあたり一言お聞かせください。
武田 北海道における「土木」いわゆる社会基盤整備は、明治維新後の開拓が原点であると思います。
 道内の道路が本格的に整備されるようになったのは戦後からで、江戸時代から中山道や東海道などの社会インフラがあり、その上で整備が進められてきた本州とは、歴史が全く違います。
 明治のはじめには、10〜20万人だった本道の人口が、現在では550万人程にまで増加したのも、道路の整備や洪水に悩まされながら行われた多くの河川の改修など先人による社会基盤の整備があったからこそだと思います。
 しかしながら、国土の22%を有する本道では、基礎的なインフラである高速道路の整備も全国に比べ大きく後れているほか、近年多発するゲリラ豪雨による河川の氾濫、大規模な地震災害への対応など、直面する多くの課題があります。
 また、公共投資が減退する中、経済成長期に整備された橋梁などの土木施設の老朽化が進み、その更新や維持・管理などの新たな問題にも対処していかなくてはならない時期がきております。
 今後とも、本道に真に必要な社会基盤の整備や維持・管理などについて道民の皆さんとともに考え、進めていかなくてはならないと考えています。
▲江竜橋
――北海道建設部の取り組みについてお聞かせください。
武田 平成15年8月、台風10号という大きな台風が日高地方を襲い、農地や市街地などが甚大な被害を受けました。当時、旧室蘭土木現業所の事業部長として、どのように地域を復旧していくかということに携わった際にも感じたことですが、本年3月11日に発生した東日本大震災という未曾有の災害を経験し、改めて、北海道に住んでいる方々の生命・財産を守ること、安心して安全に暮らすことのできる施設や地域を整備していくことが、私どもの仕事の原点だと強く感じたところです。
 建設部は、生活の基本となるような施設の整備を所管しておりますので、使う人の目線を持って、施設を整備していくということを第一に考えていかないと、道民の皆様に最大のサービスは提供できないと思っています。
 前任地の網走市に着任した当初は、道路を走っていて、気になるのは、道路や橋の状況ばかりで、そのまわりに広がる畑の作物などについての意識はほとんどありませんでした。それが、網走市を去る頃には、麦やビートなど、作物の種類や出来栄えにばかり目がいくようになり、道路についても、生産者が使うための道路という目線で見るようになっていました。
 「同じ景色でも、見るところが変わった」と自分自身で実感したのを覚えており、「使っている人の目線」を忘れないように心がけなければならないと自戒の念を持ちました。
 北海道住宅対策審議会の「北海道の住宅政策の指針に関する答申」でも、住宅政策の中のソフト対策として社会福祉の分野の方々と協働しながら、コミュニティをどのようにつくるべきかというところまで踏み出していきましょうという提言がなされました。
 土木でも、建築でも、人間が生活することの基本となる施設を造っているので、物を造るだけ、ソフト対策だけで満足するのではなく、両方を組み合わせ、こういう使い方をしたいので、こういう造り方をするというところに一歩踏み出さなくてはならない時代に入ったのだと考えており、このような理念で今後の建設行政を進めてまいります。
▲地域自主戦略交付金(小石川広域河川改修事業)
――平成23年度の事業内容についてお聞かせください。
武田 平成23年度の主な建設部の事業についてですが、道路事業では、平成14年度から架け換えを進めてきた一般道道江部乙雨竜線の江竜橋が今年度完成し供用する予定です。
 都市部では、平成16年度から整備を進めてきた江別市野幌駅周辺の鉄道高架が10月に供用を開始し、鉄道で分断されていた江別市街地が一体化されました。
 また、平成10年度から整備を進めてきた旭川鉄道高架事業は、今年度に事業が完了しますが、11月23日に駅舎のグランドオープンが予定され、ダイナミックな屋根とガラスの壁面が特徴的なプラットホームからは、四季折々のパノラマを望むことができ、新しい観光スポットとして、また、北の玄関口とし、ますます発展することを期待しています。
 河川事業では、平成18年10月の豪雨で浸水被害のあった佐呂間町の佐呂間別川上流や、平成20年7月の豪雨で浸水被害のあった知内町の中の川など、今年度新たに7河川の改修事業に着手しました。さらに、北見市の市街地及び農地の浸水被害を防止するため、昨年度着工した小石川河川トンネル工事を促進するとともに、洪水調節やかんがい用水、上水道の供給などを目的とした当別ダムについて、来春に予定されている試験湛水に向け工事の進捗に努めております。
 公園事業では、野幌総合運動公園の総合体育館耐震化工事により、都市公園の安全・安心対策を推進しています。
 住宅事業では、子供からお年寄りまで、全ての方が安心して暮らせる住環境づくりを目指しており、今年度は釧路市、留萌市などで新たに子育て支援型道営住宅の整備に着手するとともに、環境重視型社会の構築に向けた取組みとして、夕張市や岩内町において資源循環に配慮した木造道営住宅のモデル的な整備を行うほか、北見市においては敷地の特性を活かしてC02量を削減するとともに再生可能エネルギーの活用も図る環境共生・CO2削減モデル道営住宅の整備を進めています。
――北海道建設部長として一番力を入れていることをお聞かせください
武田 建設部としては、平成24年度の予算編成に向け国土交通省などに対し、東日本日本大震災の対応などを踏まえ、最重点課題として「災害に強いまちづくり」を掲げました。
 北海道では、550万人の方が国土の22%という広大な面積に生活していますので、そこで生活していくためには、「移動する」ということが不可欠であり、人や貨物の移動手段は圧倒的に自動車交通に依存しているのが現状です。
 本道における国道や道道は、ある程度のレベルまでは整備されていますが、高規格幹線道路の供用率は50%程度で、70%を超える本州に対し、大きく後れています。
 今回の大震災でも、復旧でいち早く通行可能となったのは、高速道路であり、新幹線でした。大震災の総括は、まだ先になると思いますが、有事の際に確実に流通を確保することのできる道路として高規格幹線道路の整備が必要だと改めて認識したところです。
 この広い北海道で、お互いの地域がリダンダンシー(補完性)を確保しながら暮らしていけるよう「高規格幹線道路ネットワーク」の早期形成を国などへしっかりと訴えてまいりたいと考えております。
 洪水や土砂災害に備えた河川などの整備はもとより、地震に対応した緊急輸送道路の整備や建築物の耐震化など、まずは道民の皆様の生命と財産を守るための社会資本整備をしっかりと進めてまいります。
▲北彩都:旭川市街地全景
――今後の展開、ビジョンをお聞かせください
武田 北海道は、広大な土地に市町村が点在する広域分散型社会を形成しています。
 社会資本の整備は、B/Cという考え方に重点を置いて優先順位が付けられており、限りある資源をどのように分配するかというようなことを判断する際には、ある種の「ものさし」を使って判断しなくてはならないと思いますが、北海道は人口も少なく、交通量も少ないため、全国一律の費用対効果に当てはめると必ずしも高い数字にはなりません。防災や安全・安心の概念をどのように反映するかという課題を抱え、今日に至っています。
 本州では、ほとんど津々浦々まで高速道路がつながっているのに、北海道は未だ50%程度です。各地域ごとでは、道東地域ではほとんど手付かずの状態で、釧路までの整備がようやく見えてきたような状況ですし、道北地域の整備も進んでいないのが現状です。
 また、本道には、豊かな水や森林資源、安全でおいしい食、優れた自然環境、多様な再生エネルギー資源など、かけがえのない財産「北海道価値」があります。とりわけ、農業生産高は食料自給率、約200%と高く、肥沃な農地や食料供給力などの強みを活かし、安全で安心な食べ物を日本中に供給しており、全国の食料供給基地となっています。空港や港湾、道路など交通ネットワークによりこれらの強みを活かすと言う視点での施設整備が必要です。
 この北海道で災害が発生し、交通網が寸断されて人的・物的移動ができなくなれば、その役割を果たせなくなってしまいますので、北海道が果たしている重要な役割を全国に向けてしっかりとアピールするとともに、道民の皆様の目線を大切にして、リダンダンシー(補完性)のための道路整備、河川や住宅の耐震化など、真に必要な社会資本の整備を進めていかなくてはならないと考えております。(以下次号)

武田 準一郎 たけだ・じゅんいちろう
昭和28年9月20日 門別町出身
室蘭工業大学 工学部土木工学科 卒業
室蘭工業大学大学院 修了
昭和54年10月 北海道庁採用(土木部管理課)
平成 9年 6月 函館土木現業所事業第一課長
平成10年 4月 建設省建設経済局建設機械課課長補佐
平成12年 4月 建設部道路計画課長補佐
平成15年 6月 室蘭土木現業所事業部長
平成17年 4月 建設部道路計画課長
平成18年 4月 函館土木現業所長
平成19年 6月 建設部技監
平成21年 4月 網走支庁長
平成22年 4月 オホーツク総合振興局長
平成23年 6月 現職


11月18日は「土木の日」
北海道の土木事業に貢献します
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