建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年10月号〉

interview

北網と十勝港を結ぶ高速道路整備で管内の自立・活性化を

――平成15年十勝沖地震の経験を生かしインフラの本格的見直しを求める

北海道建設業協会 副会長/帯広建設業協会 会長

萩原建設工業株式会社 代表取締役社長 萩原 一利 氏


萩原 一利 はぎわら・かずとし
昭和48年3月 日本大学理工学部土木工学科 卒業
昭和51年5月 萩原建設工業株式会社 入社
平成15年8月 萩原建設工業(株)代表取締役社長 就任
公職
平成 7年5月 帯広スケート連盟 会長 就任
平成10年5月 帯広商工会議所 常議員 就任
平成15年9月 帯広建設業協会 会長 就任
平成16年5月 帯広地方交通安全協会 会長 就任
平成19年4月 北海道バスケットボール協会 会長 就任
平成22年5月 北海道建設業協会 副会長 就任
他多数

 萩原建設工業(株)は、大正7年に創業して以来、3代に渡って帯広建設業協会長、北海道建設業協副会長を勤めてきた名門である。同社社長の萩原一利会長は、管内の活性化と建設業の再生に重要な使命を負っている立場上、その視線は常に大局を見据えている。その目標のため、同会長は北網地域から十勝港に至る高速道路整備と、建設従事者の待遇改善のための積算見直し、そして防災・減災のための、本格的なインフラ見直しを訴え、実現に向けて行動を起こそうとしている。

――社長は創業者以来、代々にわたって業界団体のトップに就任してきましたね
萩原 大正7年5月1日に創業し、今年で93年目となりますが、初代・萩原延一は、昭和37年から43年までの6年間に、帯広建設業協会会長と北海道建設業協会副会長を勤めました。二代目の萩原一男も同じく帯広建協会長と道建協副会長を、平成元年から10年まで勤めました。そして三代目である私も帯広建協会長に就任し、9年目に入りました。そして昨年から道建協の副会長も拝命しています。3代に渡って重責を担い、厳しい時代に責任の重さを感じています。
――帯広建協の守備範囲である十勝管内は、新潟県に匹敵するので、県建設協会に相当しますね
萩原 ただ、公共工事は平成10年、11年頃がピークで国、道、市町村を合わせると2,100億円の予算が配分されていました。その頃の十勝の農業粗生産額も約2,000億円でした。しかし、この1,2年の間に1/3になり、700億円台で、農業粗生産額は2,500〜2,600億円台です。  そういう状況下で、私たちの使命は終わったのかと言えば疑問です。建設業には様々な役割があり、地域の公共工事を通じ、発注者と受注者が協力しあって地域の安心、安全、利便性を提供すること。今回の東日本大震災を振り返ると、私たちが日頃から取り組んでいる防災・減災の役割が大きくなっていることを改めて知らされました。特に管内は、過去に私たちが防災・減災のために地域整備をしたことにより被害は少なかったのです。裏を返すと、今後はさらに防災・減災のためにインフラを見直す必要があるのではないでしょうか。
――更新期に入っている箇所も、けっこうあるでしょう。特に国内では、河川整備がほとんど手つかずと言われていますね
萩原 いろいとあります。例えば、私が現職に就任した8年前には、十勝沖地震が発生しました。その時は、十勝川の堤防にかなりのクラックが入ったのです。私たち地場建設業者は、地域を護るために24時間体制で出動し、その修繕に当たりました。
――堤防の重要性が改めて再認識された瞬間ですね
萩原 今回の台風12号と豪雨や、7月末に発生した新潟、福島の豪雨を見ていると、地震帯を抱えているこの十勝にしても、いつ災害が発生するかは分からないのです。今回の東日本大地震の被害は少なかったのですが、台風12号は十勝の各地で農業被害が拡大しました。人的被害がなかったのは日頃のインフラ整備のお陰だったのかも知れません。そうなると、今後とも防災・減災のためにインフラを見直し、整備する必要はあると言えます。
 そこで最も懸念されるのは、東日本大震災の被災地や台風と豪雨による被災地に重点投資されるのは当然のことですが、それは別枠の財源を充ててもらい、それ以外の地方の公共工事予算は確実に確保してもらわなければ、いつそこで災害が発生するか分からないのですから、防災・減災は実現できず、対応できない可能性があります。
▲すずらん大橋
――今回の震災で、公共投資予算の5%が凍結されていますね
萩原 その5%は大きいですね。私たちとしては、その早期解除と24年度予算をしっかり確保して欲しいと思います。いまだに概算要求がまとまらないので、しっかりしてほしいものですね。地域のインフラをもう一度、見直すためにも関連予算をアップしてほしいくらいです。それを10%もカットされたりすれば、国民生活の安全・安心を護るのも困難になるということを、業界として訴えていきたいと思います。
――特に十勝は日本の中でも最大の食糧基地ですからね。全国の自給率は39%ですが、十勝では1,100%ですね
萩原 北海道は200%で、十勝は1,100%ですから、まさに食糧基地です。さらに十勝港という不凍港もあります。北網から収穫物を収穫して回すということも可能です。国は自給率50%という目標値を掲げているわけですから、そのためには道東が核になって頑張らなければなりません。
 そのためにも、高速道路が札幌と連結しますが、足寄町から北見市までは凍結され、さらに大樹町以南はまだ計画決定していないのです。我々としては、札幌に直結するのは歓迎すべきことですが、もっと大切なのは北網から十勝港を結ぶ高速道路が是非とも必要です。これは北海道だけでなく日本の自給率を上げるためにも必要だと思います。ところが、それが未だに凍結されています。
 さらには農業インフラ整備が半減されてしまいましたが、これは自給率向上の目標に対する逆行ではないかと思います。しかも、残念なことに、50%も減額された今年度予算をベースに考えられているのです。一昨年も予算は減額されていますから、来年度予算で上げたところで到達しません。農業インフラと流通のためのインフラは、自給率向上のためにも必要になってくるのです。そして、地域の安全・安心のためのインフラの見直しと、これらが必要なので、十勝管内はやらなければならないことがまだまだあるはずです。
 これを地域として訴えかけなければらないので、建協としては経済界、市町村会と意見交換をしました。その結果、経済界が軸となって協力し合いながら動いていこうことになりました。商工会議所会頭や町村商工会の会長も理解を示してくれました。これも地域における建設業界の役割の一つですね。
 そしてもう一つの役割があります。公共工事というのは、民間工事と異なり地域経済を活性化させる役割があります。ところが、最近はマスコミが「安ければ良い」、「高ければ談合」と表現するので、落札率は下がり、地域経済を活性化させるどころか疲弊させる要因にもなったのです。そのために道では最低制限価格を設けたり、国では調査標準価格を設定しました。これは救済措置ではありますが、実態としてはまだまだ深刻です。特に、最大の問題は明治22年から続く会計法で、これのために価格競争ばかりに奔走してしまう傾向があるのです。その対策のために総合評価方式など段階的に処置されましたが、会計法は物品購入の原則を公共事業にも適用してしまったのです。
 例えば大量生産の規格品などは、製作費、宣伝広告費、利益を上乗せして定価が設定され、その上で価格競争していますが、公共工事の予定価格は、市場価格を調査して積算されています。だから、そこには受注者の利益などは含まないはずです。ですから、私たちは100%の価格で受注して初めて市場価格に合わせるのです。そこから経費その他を節約し、出世値引きした金額が入札価格となっているのです。したがって、ダンピングする場合は、赤字覚悟で請け負わざるを得ないというのが現状です。
――そんな状況では、地域によっては建設産業が育たないですね
萩原育ちません。特に北海道は、他県から見て建設業が倍のウェイトになっています。しかも、建設業は裾野が広いだけに、影響が大きいのです。それでいて落札率は下がっているので、地域の経済も疲弊する一方なのです。その次に波及するのは、大工や建設作業従事者の問題があります。ダンピングによって落札価格が低くなれば、当然、下請けの協力会社や資材会社に対する割り出しが叩かれます。そうした中で、財務相が決める積算価格について、国交省と農水省の二省協定で年々下がっているのです。
 私が道建協の副会長に就任した時には、同時に労務委員長も拝命しましたが、昨年から取り組んでいるのは労務単価の見直しでした。何しろ、労務単価はピーク時の2/3にまで落ちているのです。しかも、北海道は12主要項目の中で、昨年は7項目、今年は6項目が47都道府県の中でも最低なのです。
 そこで、震災のあった3月11日に、私は全国建設業協会で主張したのは、2/3にまで落ちているので、従事者の生活を護るためにも、底上げするよう努力すべきだということです。合わせて、道建協としても、全国最低という状況から脱却すべきではないかということです。7,8年前までは、全国で最低の項目など一つも無かったのです。こうなってしまうと、働くよりは失業保険を受給した方が良い暮らしができるという状況に陥る可能性があるのです。これこそは大問題ではないかと考えます。
▲明治北海道十勝オーバル(屋内スピードスケート場)▲
――勤労意欲が削がれますね
萩原 そういうことです。我々にも責任はありますが、悪循環によって単価が下がり、割り出しも下がり、積算者がそこに調査に来て、安いからさらに積算価格が下がるという負のスパイラルにはまりこんでいるのです。これはどこかでストップをかけなければなりません。
 だから、我々が軸になって建設従事者の生活を護っていく必要があります。しかし、経営においては護りたくても護れない状況にあるのです。これが大きな問題だと思っています。
 現在、道建協の労務委員会は、積算者が調査に来た時はしっかりと答えて、労務単価の見直しを要望しようと、パンフレットなども制作して、この9月から活動を開始する方針です。
――入札競争率が高く、業者数が多すぎるという状況が解消されていないということではないでしょうか
萩原 企業数は、確かに多いとは思います。しかし、合併にしても経営状況が良い企業同士の合併などという事例は、実際には無いのです。合併特例で評価は2段階特進し、このために上位者も増え始めましたが、これも考えものです。
 ただ、企業数が減少しているのも確かです。帯広建協の8年前の会員数は209社だったのが、大手企業の脱会もありますが、合併、倒産・廃業で、現在では150社以下になっています。
――最近では、市町村が公共事業を敬遠している傾向が見られます
それは国や道からの補助があっても、市町村の負担分もあり、以前は地方交付金があったのが、最近は交付されなくなり、自己負担分が確保できないためです。
――そうなると地域の防災・減災はおろか、災害時の復旧もできなくなるのでは
萩原 過去の新潟大震災の時にも、景気の影響で地元市町村に建設業者がなくなってしまっていたとのことで、地元には重機も無かったのです。幸い、他県とは地続きで道路がつながっているため、搬入することは可能でしたが、そうした空白地帯ができて良いのでしょうか。やはり、地域を護るために地場建設業を育てていくことは必要なのです。
――今回の豪雨では、十津川村の被災地に重機が入れないとのことで、未だに生存者が確認できないという状況ですね
萩原 重機が入れぬ現場で捜索が難航しています。十津川村にも7億円の復旧予算が配分されましたが、地元に地場建設会社があれば、多少なりとももっと動けると思うのです。
――十勝は実際に平成15年の地震当時は、社長も協会長という要職にありましたが、どのように行動しましたか
萩原 当時は会長に就任したばかりでしたが、発注官庁に出向き、協会としては24時間体制でいつでも待機していることを伝えて廻りました。協会には災害対策委員会もあり、連絡があればいつでもすぐに出動できる体制があります。
 やはり地域のことを一番理解しているのは、地域の会社です。それがもしも無くなって、大手や中堅ゼネコンが来ても、直すことはできても地域情報は十分ではないのです。そうした情報確保のためにも、地域の建設業は必要ですね。地元の道をよく通り、いろいろな場面を見て、地域の道路状況も把握していますから。
――東日本大震災の時に、迅速な復旧活動のために採られた対策は、管内を縦断する高速道路を軸に、各地域で海側に枝線を延ばしていく櫛の歯作戦でしたが、高速道路が防波堤の役割を果たし、存続したお陰だといえますね
萩原 それが防災ですね。冒頭に述べた通り、防災のためには道路の高さを上げ、それによって減災の効果も期待できます。つまり、被害を最小限に抑えることが、今後は地域にとって一番必要になります。ただ財源がないから我慢しなさい、などと言っていたのでは、いつ災害に襲われ、被害を受けるか分かりません。もしかしたら、明日に来るかも知れませんよ。
 確かに、政府財政が苦しいのは分かりますが、そこでさらに財産を失い経済が疲弊していけば、さらに苦しくなるばかりです。
▲東日本大震災における十勝管内の被害復旧▲
――この10月の29日に道東道が開通しますが、管内における影響は
萩原 管内としては、メリットとデメリットがあります。みなデメリットばかりに注目し、ストロー効果で、管内から吸い上げられてしまうと主張します。しかし、逆にメリットを考えるべきで、人口はそもそも札幌圏の方が多いのです。十勝圏はその1/10以下です。そのため、地域の経済界は、いかにして人口の多いところから呼び込むかを考えた方が面白いでしょう。特に、十勝は農業王国ですから、農作物があります。そうした秋の収穫時に合わせてピーアールをしたり、呼び込むことを経済として取り組めば面白いと思います。
 実際、3時間という移動時間は、近くなったとはいえ、やはり長距離なので、それをメリットに生かす工夫が大切です。そのメリットが何であるかをみんなで考え、知恵を出し、それを推し進めるのが良いでしょう。そうして札幌と繋がることで、十勝は北網、根釧、十勝という道東エリアの核となることが可能です。だから北網から十勝港に至る高速道路は、地域には不可欠なのです。
 北海道は大きく見れば、旭川市も室蘭市も札幌圏で、いわば札幌市旭川区、札幌市室蘭区です。しかし、十勝は札幌市帯広区となってはなりません。特に、日高山脈で隔てられているのですから、道東圏域として別の文化・経済圏を形成しても良いと思います。そう考えると、道東道は道央圏と道東の核同士を結んだ路線だと言えます。
 ちなみに、JRの移動時間は2時間10分です。これがさらに短縮されると、札幌市帯広区になってしまいます。独立性が維持できる移動時間としては、やはり2時間強というのが、最もほどよい距離感ですね。確かに一方的なストロー効果も考えられますが、独立性を保つことで、逆に取り返すことも可能です。
会社概要
代表者:代表取締役社長 萩原一利
創業:大正7年5月
資本金:80,000,000円
営業所:札幌支店、釧路支店、東京支店、厚岸営業所、函館営業所
営業品目:
  土木・建築工事設計及び施工
  建築の企画・設計・監理
  砂利の採取販売業
  コンクリート製品の製造・販売
  土木・建築用機械及び資材の販売並びにリース
  不動産の取得、管理、利用、処分及び賃貸
  土壌・地下水の汚染調査・浄化業務
  上記各号に附帯する一切の業務
関連会社:東日本道路株式会社、萩原物産株式会社、イチエイ建設株式会社

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