建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年9月号〉

interview

地域の安全・安心の確保とともに「石狩・空知の価値」創出をめざした社会資本整備

北海道空知総合振興局(建設管理部担当) 兼 石狩振興局 副局長 金田 幸一 氏

金田 幸一 かねた・こういち
北海道大学工学部土木工学卒
昭和56年4月 北海道庁採用(稚内土木現業所)
平成14年4月 札幌土木現業所事業部治水課長
平成16年4月 建設部建設情報課主幹
平成17年4月 建設部企画調整課主幹
平成18年4月 建設部建設政策課主幹
平成20年4月 建設部参事(北海道建設技術センター派遣)
平成22年4月 建設部建設管理局次長(北海道建設技術センター派遣)
平成23年6月 空知総合振興局副局長(建設管理部担当)兼ねて石狩振興局副局長

――札幌建設管理部管内の特色について伺いたい
金田 札幌建設管理部は、道央圏の空知総合振興局及び石狩振興局を所管区域とし、東西に約130km、南北に約120kmの広がりを持ち、面積は9331平方キロメートルと全道の11%を占めています。  空知総合振興局管内の人口は、昭和35年をピークに減少しており、平成22年国勢調査(速報値)と平成17年国勢調査とを比較すると7.5%の減となっています。石狩振興局管内の人口は、道内の振興局別では最も多く、全道の42%を占めていますが、札幌市・千歳市・恵庭市は増加し、その他の市町村は減少する傾向にあります。  札幌市は、明治4年(1871年)5月に開拓使庁が函館から移されてから、ずっと道都となっており、190万人の人口を抱える東北以北最大の都市となっています。  また、石狩川の中流部地域である空知地方は一大穀倉地帯となっており、明治の初め屯田兵が入植して、開拓された歴史を持っています。石炭産業の全盛時代には、非常に発展しましたが、国のエネルギー政策の転換により、現在は地域の衰退と過疎化が著しい地域でもあります。  こうしたことから、比較的早くから長大橋を含む交通ネットワークの整備や、治水事業が進められてきた地域ですが、北海道の政治・経済の中心である札幌市や北海道の穀倉・空知地域を擁することから、これまで整備してきた施設の十分なメンテナンスとともに、今後、さらに必要な社会資本を整備していくことが肝要と考えています。
――札幌建設管理部の沿革について伺いたい
金田 土木現業所の設置は昭和14年8月で、それまでは道路、河川、港湾に分かれていた事務所を統合して、業務合理化を図ったものと聞いています。
 戦後、昭和26年7月に北海道開発局が設置されたことにより、北海道における土木事業は国(開発建設部)と道(土木現業所)で役割分担して進めることになりました。
 分離直後は、開発建設部の庁舎を借用するなど急場をしのいでおりましたが、国の職員の増加などにより、札幌土木現業所では昭和27年12月に庁舎を新築し、現在の場所に移転。その後、時代の変遷とともに機構の改正・定数の増減などはありましたが、ほぼ現在の原型ともいうべき組織で、本格的な土木事業に取り組むこととなりました。
 昭和30年代は札幌夕張線の本格改良や長大橋の建設、新川・野津幌川など中小河川の改修、40年代は札幌冬季オリンピック関連道路の整備や美唄ダムなどの河川総合開発事業、昭和50年代はJR千歳線千歳駅付近鉄道高架事業や石狩川流域下水道の整備など、まさに北海道開発の中心的な事業を行ってきました。
 時代の推移に伴い、道路・交通網の整備や住民活動の広域化、さらには地方分権改革の進展など支庁を取り巻く環境も大きく変化してきたことから、平成21年3月『北海道支庁設置条例』を全部改正した『北海道総合振興局及び振興局の設置に関する条例』が制定され、平成22年4月から札幌土木現業所は、空知総合振興局札幌建設管理部という新しい名称になりました。幌加内町が上川総合振興局に移りましたが、それ以外の管轄区域・所管事務はこれまでと変わりません。
 平成23年は、札幌土木現業所設置から60年の節目の年を迎えましたが、新生札幌建設管理部として、これまでどおり本道の社会資本整備推進のために全力を尽くして参りたいと思います。
▲美唄市と浦臼町をつなぐ美浦大橋(平成23年3月に供用開始)
――札幌建設管理部として社会資本整備の取組について伺います
金田 平成23年度の公共事業費は、2定(第2回定例道議会)現計で159か所、300億9千5百万円となっており、平成22年度当初と比較すると約1割の減となっています。
 道路事業は、97か所122億円となっています。主な事業としては、新千歳空港とのアクセスを強化し、観光振興や物流の効率化などを図る新千歳空港インター線の整備を進めるほか、幅員が狭小で大型車同士のすれ違いが極めて困難な上、歩道が未整備で危険であった江部乙雨竜線の石狩川との交差部に架かる江竜橋の新橋が完成することとなっています。
 また、岩見沢月形線の石狩川に架かる月形大橋は昭和30年築造で、老朽化が著しいため、平成16年度から事業に着手し、橋梁本体は、平成25年度の完成を目指して、整備を進めているところです。
 仁別大曲線は、北広島市仁別を起点とし国道36号との交点を終点とする路線で、この区間を整備することにより、北広島市大曲地区における国道36号の恒常化した交通渋滞(主要渋滞ポイント:大曲交差点)のバイパスとして機能するばかりでなく、沿線に位置する大曲工業団地へのアクセスが強化されます。
 さらに、美唄市から富良野市に至る延長約53kmの主要地方道である美唄富良野線においては、通行不能区間を解消する事業を行っており、南空知地域と上川南部地域の短絡ルートを形成することから、農産物流の効率化や観光アクセスの向上が期待されています。
 街路事業は、10か所34億2千万円となっており、江別の顔づくり事業と一体で進めているJR函館本線野幌駅付近の連続立体交差事業などの整備を進めることとしています。
 野幌駅の鉄道高架事業は、平成19年に工事着手し、北海道、JR北海道及び江別市の3者で調整を図りながら進めていますが、今年の10月23日には、鉄道高架を開業する予定です。
 治水関係事業は、ダムを含む河川事業が30か所、119億円、砂防等が17か所15億円となっています。
 河川関係の主な事業としては、徳富川等において、自然環境に配慮した河川整備を促進するとともに、千歳川流域治水対策として、直轄事業と連携しながら、南9号川や柏木川などの河川改修を促進します。
 当別ダムは石狩川水系当別川に洪水調節、流水の正常な機能の維持、水道用水およびかんがい用水の供給を目的とした多目的ダムとして、平成4年度に建設採択、平成20年度から本体工事に着手しました。現在は本体工事や付替道路も順調に進んでおり、平成24年度中の事業完成を目指し平成23年3月から湛水試験を行う予定です。
――今後とも札幌建設管理部が果たしていくべき役割について伺います
金田 3.11東日本大震災では、国民が巨大津波の脅威を目の当りにしたところです。今年5月には、日本学術会議が「東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会議」を作り、被災地の支援にあたるとともに、「巨大地震と大津波から国民の生命と国土を守るための基本方針」を広く社会に発信しました。  地震・津波に対する我が国の防災・減災の向上のため、「発災後の緊急対応」「復旧・復興」「地震・津波に強い国づくり、まちづくり」「調査・研究・教育」の4分野に区分して16の取り組むべき課題を提案しています。  社会基盤整備は、異常気象、施設の老朽化、災害対応など社会的要請に応える行為であり、国家の危機管理の一環として、社会を支え未来を築く仕事です。土木技術者は自分の仕事に「社会貢献そのものだ」という実感を持つことが大切です。  学協会から発信された各課題に対し、我々土木技術者は鋭敏に対応すべきと感じます。  土木事業は、(完成までに)長い時間がかかりますし、それだけに先見的視野が必要です。社会情勢の変化に応じて計画の見直しなど柔軟な対応も求められます。また、土木技術はトータルな学問でもあり、生物や自然環境など多くの分野が関わっています。ベーシックな施工技術から当別ダムのように先端的技術まで非常に幅が広いうえに、日々技術開発も進展しています。更に、社会的価値観の多様化により意志決定が、ますます難しくなっています。 幅広い知識と視野、バランス感覚が、土木技術者にも求められています。
――札幌建設管理部担当副局長としてインフラ整備の価値をどう捉えていますか
金田 今回の大震災では、福島第1原発事故も相まって、日本経済全体が深刻な状況のもと、社会資本整備の重要性が、改めて認識されたのではないかと思いますし、住んでいる私たち自身が気づかなかった「北海道の価値」を見出すことができたように思います。それは、高い食の供給力や冷涼な気候、広大な面積などの特性を活かした災害に備えた我が国のバックアップ拠点としての北海道の新たな機能です。  地域の安全・安心の確保はもとより、「石狩・空知の価値」を存分に発揮するために、社会資本の整備や維持管理に全力を尽くしていきたいと考えています。  また、東日本大震災では、地域に精通した建設業者の皆さんが、救援や復旧の最前線で活躍されています。札幌建設管理部管内においても建設業の地域づくりへの熱意ある取組みが数多く展開されております。  地域の経済や雇用を支える建設業が安定的に発展できるよう、引き続き経営基盤の強化を支援するなど、建設業の振興に努めて参りたいと考えています。


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