建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年4月号〉

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宇治拾遺物語と宇治茶の歴史・文化を反映した第一小中一貫校が建設

―― 児童生徒の安全を守る死角のない設計

宇治市 (仮称)第一小中一貫校整備事業

▲南側上空から見たイメージ


 宇治市は平成24年4月の開校をめざし、宇治小学校敷地において(仮称)第一小中一貫校の整備を進めている。この学校の基本コンセプトは「きずな」で育む9年間のまなびの場というもので、これに基づき、施設として目指す学校としての理想像を4つのコンセプトに大別し、詳細な施設の目標が規定された。
 1つは、「子どもたちが光り輝く小中一貫教育を推進する学校」で、前期(小学校1年生〜4年生)・中期(小学校5年生〜中学校1年生)・後期(中学校2年生〜3年生)のまとまりに即して、系統的、組織的な教育指導が行える施設づくりを目指す。また多様な異学年交流ができる施設、多様な発達段階の子どもたちが、のびのびと活動できる空間や施設、小・中学校教員が協働して1つの学校として機能する施設としている。
 2つは「多様な教育課題に対応できる学校」で、機能性や柔軟性を持つことにより、多様な教育内容や教育方法に対応できる施設、主体的な活動の支援や豊かな創造性を引き出す空間や施設、豊かな心、健やかな体を育むことができる施設としている。
 3つは「安全・安心で、子どもたちが楽しく通える学校」で、子どもたちの安全・安心を確保し、子どもたちが快適に生活できる施設、潤いの場、交流の場等、心のゆとりと豊かさを育む空間や施設、学校生活の中で、集中とやすらぎの調和がとれた施設としている。
 最後は「伝統を継承し、地域の風が行き交う学校」で、地域の教育力を積極的に活用した教育活動ができる施設、140年の歴史と伝統を継承し、地球環境やまちづくりに配慮した地域のシンボルとなる施設、地域の生涯学習やコミュニティの拠点となる施設としている。
 これらのコンセプトに即し、設計に当たっては、校門等の配置は正門の他に通用門として東門、西門を設置。車両門を児童生徒の動線と分離し、グラウンド整備用門を敷地南東に設置した。
 運動スペースはメイングラウンド、サブグラウンド、遊具スペース、第一体育館屋上運動スペースを設置した。いこいの園では、児童生徒の心と生活にゆとりをもたらす水と緑の空間として再整備し、ビオトープや飼育小屋を設置している。
 敷地内の動線計画としては、前期昇降口と中・後期昇降口を分けて設置し、昇降口から各教室への動線を前期と中・後期で分けた。
 管理諸室は教室棟の1階に集中配置し、各室から多方面への視野を確保。例えば、校長室からは「いこいの園」、ビオトープ方面、職員室からはメイングラウンド、昇降口方面、保健室からはサブグラウンド、昇降口方面、通級教室指導員室からは遊具スペース方面、育成学級指導員室からはサブグラウンド、遊具スペース方面を視認できる配置とし、正門・通用門等には防犯カメラを設置することで、安全対策に万全を期している。また、控室も見守り活動が機能する正門の横に設置されている。
 この配置計画に基づき、保健室は前期児童の教室から近い教室棟1に設置し、可動式間仕切りにより、多目的な使用に対応できる構造とした。
 特別支援学級等は、教室棟1に小学校の特別支援学級と通級指導教室を配置し、教室棟2には中学校の特別支援学級を配置。育成学級はサブグラウンド、遊具スペース、第二体育館に近接する位置に配置。
 バルコニーは1階から3階まで階段により立体的なつながりを持たせ、防災面や省エネルギーにも配慮をしつつ、児童生徒が休み時間をゆっくり過ごすことのできる場所として、幅広く設計された。
 普通教室・多目的教室は、前期、中期、後期のまとまりごとに配置。前期には、作業ギャラリースペース(吹抜け)を設けて、2階・3階の前期エリアを一体化した。
 特別教室は、各学年の教室からアクセスしやすい位置に特別教室を配置し、各教科の特性に配慮するとともに、音楽室と図工・技術室は防音設計としている。
 前期児童が一体感を感じられる空間として設置される作業ギャラリースペースには、絵本等を完備し、前期児童の潤いの空間として活用するなど、学級や学年を越えての学習活動等、多目的に使える空間とする。また、大きな制作物等を展示できる吹き抜け空間も確保する。
 前期・中期、後期にそれぞれ配置する教師ステーションは、児童生徒と教職員との日常的な教育相談ができるオープンカウンターを配置することで、児童生徒の状況把握や授業打合せ等に活用。児童生徒の個別相談や指導等に対応しやすい構造とした。
 教具庫・ボランティアルームは、1階から3階の各階に配置し、社会人講師や学生ボランティアの授業準備等に活用する。
 メディアセンターは、「学びの基地」として、図書とコンピュータ等のマルチメディアを活用した学習に対応。2階には前期児童向けの読み聞かせスペース、3階には調べ学習スペースを設置し、すべての教室からアクセスしやすい位置に配置することにした。25mプールと運動スペースについては、教室棟2の屋上にプールを設置するほか、第一体育館の屋上にも運動スペースを設置する。給湯給茶コーナーは、2階・3階に児童生徒用を設置する。
 この他、壁面展示スペースについては、廊下に面した壁の一部に、天井から床面まで全面使用できる展示スペースを確保した。
 一方、環境対策としては、教室棟1の屋根に20kw規模の太陽光発電パネルを設置するほか、発電量等を表示し、環境教育の教材として活用する。校舎に降った雨水の一部を植栽への自動灌水と、トイレの洗浄水等に利用。また、自然対流による換気システムや省エネ照明器具を採用することにしている。この他、太陽光を取り入れ明るく、自然対流を活用した設計としている。その他、エレベータやスロープを設置したバリアフリーにも対応している。
 トイレ・手洗いについては、前期では学年ごとに、中期・後期はブロックごとに男女トイレを設置し、手洗い場は「コーナー」として設置し、廊下の水濡れを防止する。
 この他、吹き抜けを介して内部、外部から活動の様子が見えるような、小中一貫校のシンボル的な空間として交流サロンを設け、総合的な学習の時間、異学年交流行事、学年集会、複数学年が同時に使用できるランチルーム等として利用可能な広い空間を確保する。
 また、地域の歴史性と文化を生かし、地域歴史資料室、小集会に使える会議室や育友会等の作業に使える小会議室、宇治小学校百周年記念館の収蔵物を収納したり展示などができるスペースを確保する。また、畳敷きで茶の湯が点てられる作法室も設置する。
 地域開放エリアとしては、建物内では、交流サロン、地域歴史資料室、作法室のほか、第一・第二体育館を地域開放エリアに想定し、その他の部分とは独立した管理区域として設定している。



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