建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年4月号〉

interview

建設産業に従事して半世紀

―― 農業・水産業とともに歩み生産基盤整備施工実績No1の有力会社に

小樽建設協会 会長、株式会社草別組 代表取締役 草別 義昭氏

草別 義昭 くさわけ・よしあき
略歴
昭和12年2月21日生
昭和34年3月 法政大学工学部土木工学科 卒業
昭和34年4月 株式会社草別組 入社
昭和43年2月 同社 代表取締役社長 就任
昭和43年2月 北興コンクリート工業株式会社 代表取締役社長(現会長) 就任
昭和49年7月 株式会社北興生コン 代表取締役社長(現会長) 就任
公職
昭和54年9月 社団法人北海道水産土木協会 会長(社団法人は62年から)
昭和62年5月 岩内商工会議所 常議員
平成 2年4月 社団法人北海道建設業協会 理事
平成 2年4月 建設業労働災害防止協会 北海道支部理事
平成 2年7月 小樽建設協会 会長
株式会社 草別組
岩内町字東山12番地12
TEL 0135-62-1647

 日本海に面している北海道後志管内は、漁業の他に農業も盛んで生産分野も幅広い。国内農業がTPP加入による影響が懸念されていた上に、3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震と福島原発事故による農業被害が懸念される中で、北海道農業も、農業インフラ予算の削減による影響が懸念される。このため、管内の農業・水産基盤整備施工実績No1の(株)草別組の草別義昭社長は、小樽建設協会長という立場からも予算の回復を訴えている。
──社長は昭和34年に建設業界に従事し、およそ半世紀を生きてきましたね
草別 昭和29年に建設工事が直営から民間発注に変わり、建設業にとっては良い時代で、私は34年に入社しました。当時は季節労働者が事務所前に集まり、「お前はどこへ行け、そこへ行け」と指示していた時代です。  その後、この管内は昭和36年と37年に集中豪雨がありました。その時は、私も従業員なのか役員なのか分からないほど、業務に振り回されました。測量をはじめ何から何まで直接に当たったものです。
──現代に至っては、TPPで我が国の産業、建設業、農業への危機が懸念されています。特に農業王国である北海道にとって、農業への影響が重視されていますが、管内の農業土木の受注実積を持つ企業としても、農業情勢が心配では
草別 後志管内の農業基盤整備は90億円から100億円に上る規模で、圃場整備においては大区画化と機械化が進みました。今では10億円くらいの工事が行われており、私たちも数億円分の工事を請け負っています。最盛期の十分の一です。  管内の農業について言えば、蘭越町や共和町は稲作で、後志管内は1市19町村ですが、小樽市は漁業の街であり、余市をはじめ周辺は果実生産が主力です。寿都町では長芋、黒松内町は養豚と、農業分野は幅広いものです。  ところが、道都・札幌にはかなり近距離に位置しながらも過疎化しているという状況です。先頃、高橋はるみ知事による道政報告のための訪問があり、私は地元選出の村田憲俊道議とともに参加しましたが、改めて後志は札幌に近い田舎という実態を再認識させられました。大市場が近くにあるのに過疎化しているのは、農業分野が幅広い反面、高収益となるような特色がないということでしょう。
──後志管内の広さは富山県に匹敵する規模ですが、先代も富山出身とのことで、やはり農業から始まったのですか
草別 両親とも富山出身で、農家の出です。小さな農村から広大な北海道を目指して来たのでしょう。最初は倶知安町から始まり、岩内町、札幌市へと転住しました。そのため、倶知安で生まれた私も転々とし、小学校は泊村の茅沼、中学は岩内、高校は札幌、大学は東京と、親とは離れて暮らす期間が多かったものです。  私は当時、農業土木にも携わっていましたが、先代は農業土木というよりも建築工事が多かったのです。しかし、私は土木が専門なので、開発局発注の暗渠排水などの農業土木工事も請け負ってきました。  農業基盤整備としては、地域特性というのか地区によっては泥炭地区や蘭越町などは、れき質土のため米が美味いなどと言われます。共和町などは、地域によって農業の歴史は古いでしょう、岩内町は漁業と農業との半農という形態で、大きな産業というものがあまりないですね。
──会社として、それに携わる農業土木技術者を束ねてきたのですね
草別 当社の技術者は、当時から倶知安農業高校の卒業者で7、8人いました。近年は仕事も少ないので、現場に当たる技術者の新規採用ができない状況です。  それでも、札幌市東区丘珠の農業基盤の現場を担当した現場代理人は、優秀な技術力を発揮して高い評価を得て表彰されました。また、蘭越町の土地改良の現場でも選ばれましたが、この地区の農業基盤事業は予算的に見ても総事業費20億円に満たないでしょう。蘭越町の宮谷内留雄町長(町村会長)などが、道にいろいろと要望しているようです。管内は農業地区の中でも蘭越が一番広いので、畑総と農業基盤を特に陳情していました。 しかし、総体的に予算枠が少ないですからね。  当社の所在地は229号線と276号線の合流点で道路整備が行われています。高速道路は、小樽から余市までの区間の開通は平成30年と、まだ先の予定です。問題は高規格幹線道路で、北回りの黒松内−余市間は全線未定であり、さらに新幹線建設の動向も不透明です。
▲後志総合振興局発注 蘭越町 中山間(生産基盤)
ほたるの里地区第1工区 柳谷地先、基盤造成(8月末現在)
──農業土木の施工において、特有の特色はありますか
草別 農業土木には地元負担が伴うので、農家の要望を聞きながら実施します。そのため、変更になる場合があり、施工管理上の負担が多くなります。  施工は農閑期に行われるので、昭和の時代には受益者である農家が当社の作業員ともなっていました。一時期は200人もいたもので、行政からもできるだけ地元住民を雇用して欲しいと要望されていました。特に共和町は農業人口が多いので、かなりの人員がいました。一方、海岸線には漁業関係者がいますね。
──建設業が農水産業関係者を農閑期に臨時雇用することで、経済循環していたのですね。近年ではどんな状況でしょうか
草別 今は人を雇用する余裕もないですね。国では、なるべく年間雇用をするようにと通達していますが、現代は施工も機械化が進んでおり、今では各社とも30人程度しか受け入れていないでしょう。したがって、作業員として農家の人を雇うことができなくなり農家も大変だと思います。  泊村などは、かつてはニシン御殿なども建っており、私がまだ小学生だった時分にはニシンが獲れすぎるほどに大漁だったのが、今では漁獲量も減りました。地元での雇用の場がだんだんなくなってきました。
──東北では震災、原発事故でダメージを受けていますが、そのために作物が不足となると、後志農業に求められる役割は大きくなるでしょう。しかし、農業基盤整備を国が削減している状況が足枷では
草別 後志の場合は、作物の種類が豊富ですが、大規模ではないのがネックですね。共和のメロンとらいでん西瓜くらいが北海道最大の位置づけになってますが、これも天候に左右されます。  しかし、会社としても農業予算の回復は、単独で運動できるものでもないので、業界全体で取り組む方向でいかなければなりません。特に23年度予算は未だに可決しておらず、22年度の補正予算とゼロ国債にしても削減状況です。  23年度予算がどれくらいになるかが問題で、ピーク時では総額1兆円だったのが、半分以下になっており、今後の削減状況が気になるところです。
──公共事業は、地域の雇用を支える産業であることへの再認識が必要ですね
草別 確かにそのとおりだと思います。私ども建設業者は雇用の維持を念頭に経営を進めておりますが、現状のままでは厳しい状況にあり、このまま公共事業が削減され続ければ、「新規事業を開拓し、社運をかけるよりも、従業員の退職金が払えるうちに会社をたたもう」という考え方も出てくるのではないでしょうか。
──その問題について、管内の建設業協会員からはどんな声が聞かれますか
草別 管内の事業量が減ったことなどにより、会員数は現在52社に減少しました。  しかも、23年度予算が決定していないので、協会としても展望を発表できない状況です。各業者なども事業計画が立てられず、不安な声も聞かれます。過日、小樽建設管理部の23年度工事の概要説明が行われ、昨年度に比べて若干の削減になる模様でしたが、震災などの影響もあるのではないかと考えております。4月の半ばにもなると、災害規模もある程度は固まってくるでしょうが、今現在は何も分からない状況にあります。マスコミ報道で見る限りは、今回の震災はかなりの規模で、阪神大震災では地震だけでしたが、今回はその上に津波が加わっていますから。
──今回の震災では、地震とともに津波と原発被害が注目されていますね
草別 私は道水産土木協会長も務めており、22日に臨時会が行われますが、こうした事態ですから終了後の夕会食は中止となりました。福島原発にしても、大学の専門家がいろいろと説明していますが、一年間分のレントゲンの放射能が、一時間で漏れているなどとい言われたりしていましたね。防災対策の地域範囲が広がっています。
──全国規模で、これほど公共事業を削減されている現状について、様々な公職を持つ立場として、いろいろ思うところがあるのでは
草別 一説には、5兆円の子供手当を半額にし、高速道路は有料化するとの話も聞かれます。一般論としては、現内閣はこのままでは保たないのではないかとも言われていましたが、災害によって政局も一変し、政治家も官僚も動きが見られなくなりました。  そうした情勢下でも、管内の要望をまとめて陳情はしていますが、政府には十分には伝わらないようです。国交省政務官に要望をしても、基本は「コンクリートから人へ」ですから。それが今回の災害で、菅首相がどのように考え方を変えていくのか ですね。
──管内を挙げて大々的に実現したい要望項目は
草別 とにかく、予算の削減が極端すぎました。道では地域産業のために500万円の融資などの支援を用意しましたが、建設業者としては、やはり公共事業の削減をもう少し緩めてもらいたいところです。何しろ日本は島国ですから、いつ災害がくるか分からないものです。静岡では、余震ではなく別の地震が起きており、北海道は函館でも震度3の地震がありました。岩内町も昭和29年の台風による大火で大被害を受けた経験があります。  その復興に当たる地場建設業は、郡部では地域のあらゆる行事に参画しているのですから、それが減るとさらに過疎化が進みます。事業予算を増額することは不可能でしょうが、もう少し郡部にまで行き渡るような配慮をお願いしたいと思っています。

表彰
昭和54年 5月 札幌市長感謝状(札幌市都市計画事業推進の功績)
昭和63年 5月 社団法人北海道建設業協会会長表彰(建設業界発展の功績)
平成 元年 5月 北海道知事感謝状(水産土木事業推進功労)
平成 元年10月 北海道開発局長表彰(北海道開発事業推進の功労)
平成 元年 11月 北海道知事感謝状(体育振興の功績)
平成 2年 5月 社団法人全国建設業協会長感謝状(建設業界発展の功績)
平成 3年 5月 北海道知事感謝状(農業農村整備事業推進の功績)
平成 3年 8月 内閣総理大臣褒状(公益奉仕の功績)
平成 4年 6月 社団法人北海道交通安全推進委員会会長感謝状
平成 5年 4月 札幌市長感謝状(社会福祉事業推進の功績)
平成 5年 9月 北海道土木現業所長感謝状(北海道公共事業推進の功績)
平成 6年 1月 北海道知事感謝状(北海道公共事業推進の功績)
平成 6年10月 札幌市長感謝状(札幌市交通事業推進の功績)
平成 7年 7月 建設大臣表彰(建設事業功労)
平成 8年11月 黄綬褒章受賞
平成10年11月 岩内町産業功労表彰(商工業振興発展の功績)
平成11年11月 北海道社会貢献賞(建設労働者の雇用改善)
平成13年11月 厚生労働大臣賞受賞(建設雇用改善の功績)
平成15年 5月 水産庁長官表彰(漁港漁場整備事業振興の功績)
平成22年12月 北海道産業貢献賞(水産事業功労)


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