建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年4月号〉

interview

地域再生フォーラムで空知地方の経済活性を図る

―― 藤井聡京大教授を招き公共事業の重要性を再確認

社団法人 空知建設業協会 会長 中山 茂氏

中山 茂 なかやま・しげる
昭和29年4月 生まれ
昭和52年3月 成蹊大学 卒業
昭和52年4月 三共舗道株式会社 入社
昭和55年6月 株式会社中山組 入社
平成13年6月 株式会社中山組 取締役社長 就任
                             現在に至る
平成18年2月 社団法人空知建設業協会 会長 就任
                             現在に至る

 空知建設業協会は、2003年から会員を対象に独自のテーマを設定した地域再生フォーラムを開催しており、今年で7回目を迎えた。今回は「公共事業は日本を救う」というセンセーショナルな著書を手がけた京都大学の藤井聡教授を迎えて、講演とパネルディスカッションが行われた。昨年11月に発行されたこの著書は、半年と経たないうちに8刷目となるほどのヒットとなり、著者である藤井教授は参院予算委の口述人としても選任され、震災後の我が国の復興計画にも参与することとなった。そうした話題の人を招いての講演会はタイムリーだったと言える。同協会の中山会長に、このフォーラムの意義や、協会独自のユニークな取り組みについて伺った。

――地域再生フォーラムを始めたきっかけは
中山 空知の地域が疲弊し、元気が無くなってきていますが、建設業は地域と一体化している面があるので、建設業の再生なくして地域の再生はないという思いで平成15年から始めたのです。  同時に、空知建協は以前からIT化に熱心だったので、外向けの発信をした方が良いという考えもあって、一体的に始めたのがこのフォーラムの出だしでした。建設業と地域の再生は、表裏一体であることを認識しようという趣旨です。  通常は「土木の日」に記念フォーラムとして開催してきたのですが、それが地域再生フォーラムという名称に変更され、日程を固定化せずに開催しています。
――毎回、いろいろなテーマを持ちながら講師を招き、今月では3月7日にも開催されましたが、その内容についてお聞きしたい
中山 建設業協会だからといって、テーマを公共事業に限定するのではなく、「信頼」の問題など幅広く設定してきましたが、今回はタイムリーに京大・藤井先生の著書が発刊されました。私はそれを読んで、ぜひとも協会員のみんなにも読んでもらいたいと思い、協会のネットデータで公表したところ、購入して読んだ方々がみな喜んでくれ、勇気をもらったとの反響でした。そこで、協会の広報IT委員会でテーマを設定し、昨年12月に藤井先生を講師に招待できないかという提案が出て、藤井先生に直接コンタクトを取ろうと何度も京大に電話し、藤井先生の日程を最優先で交渉を進めた結果、3月7日に決定しました。
――著書の発売が昨年11月ですから、発売直後に会長自らが手に取り動いたのですね
中山 私が読んだのは11月3日で、このタイトルは以前から記憶にあったのです。読み始めたら一気に最後まで読み終えてしまいました。それで、建協会員のみならず、私が道建協で担当している総合企画委員会のメンバーにも「一度は目を通しておいた方が良いですよ」とPRしました。  この本は思った以上に売れたようで、地元の書店に在庫はすでに無く、函館市内の書店でも一冊しかないと言われ、札幌市内の主な大規模書店でも売り切れて見かけませんでした。そのため購入するにも、みな当初は苦労されたと聞いています。
――藤井先生が岩見沢市に到着した時、何か事前の談話はありましたか
中山 講演にあったように、札幌にはよく来られていましたが、岩見沢は初めてとのことで、「ここは空知であってカラチではないですよね」と冗談を仰っていました(笑)。岩見沢は今年は雪が多く、駅前に送迎に行き、会場へご案内する車中でも「本当に雪が多いね」と驚いておられました。第一印象は、長身でスポーツ刈りで髭があるので、想像とはかなりイメージが違っていました(笑)。
――藤井先生も空知が一番の米どころで、本道の食料供給基地の中心地であることを、講演の後半で触れていました
中山 藤井先生のご来訪に当たっては、建設業協会としては珍しい変わった取り組みをしていることを知ってもらおうと、地域再生フォーラムの初回からのパンフなどをすべて送付しました。その中では、かつて講師として招待した北大 山岸教授を藤井先生もよくご存知だったので、その機縁もあって依頼に応じてくれたのではないかと思います。  実際、建設業協会で「信頼の構築」などをテーマにフォーラムを実施するような事例は、恐らく無いでしょう。
▲「地域再生フォーラムZ」〜公共事業が空知を救う〜(平成23年3月7日) パネルディスカッション
――珍しい取り組みと言えば、このフォーラムから「空知フード&ワインロード計画」が生まれ、10年には国交省の「建設業と地域の元気」回復助成事業に採択されましたね
中山 協会員のメンバーの中で、「葉月会」という空知経営研究会に属する若手メンバー達から、事業申請したいとの申し出がありましたが、法人格を持つ団体は自前で申請しなければならないため、この空知建設業協会で事務局を引き受けてもらえないかとの要望に応じました。  そうして会員からの提案によって、空知フード&ワインロードという事業が実現しました。ちなみにネーミングについて、私は「ワイン」という言葉も入れるべきと主張して、このネーミングとなりました。建設業とは全く関係ないですが、空知には独自のワイナリーがいろいろと出来ており、そこにインフラ整備という側面で管内の地場建設会社が協力できるのではないかという考えがあります。このように建設外の事業でも、大きくなれば基盤整備が必要になるので、建設業がお手伝いできることも出てくるでしょう。  その他にも、空知は米どころですから米粉の活用拡大などから、いずれ建設需要につながるなど、将来的にはシーニックバイウェイのような展開になればと若手メンバーらは話していました。
――空知は若い世代から真剣に建設産業を考えている地域性ですね
中山 常に業界をどうしようかと考えてくれており、広報IT委員会という組織などは全道でも空知にしかないと思いますが、これも全員が若手で運営しています。  空知は、札幌市と旭川市など、道内でも一、二位の都市に挟まれた地域ですから、競争はかなり厳しいものです。農業基盤整備の公共事業が最も多い分、管外からの入札参加も多いので、空知建協としての存在感や位置づけをどう持たせるのかが不断のテーマです。  何しろ、この空知管内の発注機関は空知総合振興局しかないのです。それ以外はすべて札幌にありますから、他の地方とは事情が全然違います。
――空知総合振興局とはいうものの、札幌建設管理局は札幌市内にありますね
中山 道路や河川工事は札幌圏が多く、農業関連は空知が多いということですが、そうした競争においては、空知はなかなか大変な協会です。だから、会員が最も減っているのです。ピーク時には120社を若干下回るくらいの会員でしたが、現在は67社ですから40%の会員が消滅したのです。理由は廃業、倒産です。
――公共事業の削減によって地域社会の崩壊が進む中で、空知の様子はどんな状況でしょうか
中山 やはり現実は大変ですよ。もう少し自分たちで仕事を作り考えていかなければ、行政が作り出す工事ばかりを待っていても難しいでしょう。「北海道はこういうものが必要ではないか」と提案し、それを具体化してもらうことでしょう。それを建設業が具体化することは不可能ですから、そこは行政の役割ですね。
▲空知建設業協会 中山会長より挨拶
――空知建設業のトップという立場で、会員から何かと相談を受けるものと思いますが、最近、多いものは
中山 疲弊しているこの状況をなんとか出来ないか、ということですが、私としては少なくとも個別の会社を救うことは出来ないことを言明しています。  それよりも、会員が元気を出せる機会、モティベーションを下げないようにすることですね。フォーラムでは、パネルディスカッションで「この会場には業界の人しかいないのが残念だ」との発言がありました。それに対して、藤井先生は「業界の人が、こうしたことをきちんと勉強して、外部に発信すれば良い」と回答していました。「同業者しかいないことを卑下する必要はなく、なぜ公共事業が必要かということをきちんと認識して、次は商工会議所でも商工会でも、外向けに“こうした状況だから、公共事業を推し進めなくては困る”といった理論武装の場だと考えれば、全く問題ないではないですか」と、はっきり言ってくれました。この発言は良かったですね。  実際、会員と言えば管内の24市町の商工会会長や商工会議所の会頭でもあったりします。例えば、芦別、赤平、砂川、美唄、夕張、栗山の会頭は、建設業協会の正会員です。副会頭も含めれば、さらに多くなります。こうした方々が商工会や商工会議所の主力幹部になっていたりしますから、そうした立場でこのフォーラムの講演などを聴いて頂けば良いのです。
――今回の藤井先生の講演を通じて、会長としてどんなことを感じましたか
中山 きちんとした数字を比較したり、外部で発言するときのバックボーンが出来ました。例えば、マスコミの記事は眉唾と私も漠然と感じていましたが、藤井先生がそれを明快に発言されました。私はそこまでは見ていませんでしたから。  世界経済の中で比較するのに、日本もOECDに加盟しているにも関わらず、日本だけは日本独自の数値を使い、同じ世界標準で比較していない。そうした実態を、私たちにもきちんと見せてもらわなければ、嘘の記事を書いているということになるではありませんか。
――マスコミは、日本の公共事業は足りているから今後は解体すべきという主張でしたね
中山 そんなことをすれば、段々と弱体化していくのではないですか。そうした時に、今回の大地震が起きてしまいました。被災者には申し訳ない話ですが、インフラを考え直す機会でもありますね。
――被災地に対しては、何をするのが良いと考えますか
中山 一番はインフラをきちんと復旧させることですね。それは公共事業としてしかできないことです。それが出来て、初めて住民は生活出来ます。インフラの次に来るのは住宅でしょうが、まずは道路、下水、水道、電気といったライフラインが復旧しなければ。  公共事業は、最も雇用を増やす波及効果を持っています。無駄な公共事業をすることはないですが、生活に必要な公共事業は続けてもらわないと困りますからね。そして、それを施工する私たちは、あくまでも地域から信頼される建設業でありたいと思っています。

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