建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年3月号〉

interview 北海道農政部・農業農村整備特集

日高で育った軽種馬は国庫納付金として国家に貢献

―― 発注者と設計会社と受益農家の3者検討の機会を作るべき

日高建設協会 会長、上田建設工業株式会社 代表取締役 上田 正則氏

上田 正則 うえだ・まさのり
昭和25年2月 25日 浦河町荻伏生まれ
昭和43年 道立浦河高校 卒業
昭和47年 中央大学法学部法律学科 卒業
昭和47年 埼玉県庁 入庁
昭和51年 上田建設工業株式会社 入社
平成 元 年 上田建設工業株式会社代表取締役 就任
役職
浦河建設協会 会長
日高建設協会 会長
室蘭建設業協会 理事
上田建設工業株式会社
浦河町荻伏町1
TEL 0146-25-2331

 日高といえば競走馬の産地として有名で、全国1位の軽種馬生産を誇り、生産頭数は5,494頭(平成20年度実績)と、国内の約80%を占める。軽種馬の農業産出額は全道の4%に過ぎないが、日高管内のシェアは63%に達し、文字どおりの基幹産業になっている。中央・地方競馬の減収、輸入農産物の増加、産地間競争の激化など農業を取り巻く環境がますます厳しくなるなか、経営体質強化による強い馬づくり、野菜、花卉等導入による農業経営の複合化が日高農業の課題になっている。農業基盤整備事業を通じて、日高農業の生産性向上に貢献している日高建設協会長で、まだ上田建設工業椛纒\取締役でもある上田正則氏に農業への思いを伺った。

――社長は生まれも育ちも浦河町ですね。浦河は昔から農業に対し積極的に取り組んでいる土地柄と聞いていますが、管内の農業の特色について伺いたい
上田 日高山脈を背骨にして南北に長い地域特性があります。空知や十勝管内のように一つのまとまりのある地域ではなく、海にも面していて、農業の形態は管内7町でそれぞれ異なっています。かつては水田も畑作も盛んでしたが、昭和40年代あたりから稲作農家が軽種馬にシフトする傾向が強まってきました。最近はトマト、イチゴなどのハウス栽培も取り入れるなど複合経営のスタイルになっていますが、依然として軽種馬生産主体の農業であることに変わりはありません。軽種馬の売上は日高管内の農業生産額の6割以上を占めるはずです。  軽種馬生産は育成までは草地改良、土地改良等の基盤整備は必要ですが、出荷後は競走馬の世界ですから、管内の食糧自給率そのものには結び付きません。  日本中央競馬会では勝馬投票券の売上の中から一部国庫に納付され、畜産振興事業や社会福祉事業などにも充当されています。公営ギャンブルは収益を国庫なり地方公共団体に納付するのが原則ですから、日高で育てられた馬は日本の国家の財源に貢献しているのです。農業の形態が他の地域とは違います。  ただ、日高の農業を守るため、国策として食糧自給率の向上に取り組むにしても、「では日高の農業は何か」と聞かれれば、「美しい農村風景」と口ごもるところがあります。  しかし、名馬鑑賞やホーストレッキングの目的で、日高管内に本州方面からの多くの観光客が訪れており、日高の基幹産業の軽種馬は、国家の財源と北海道観光の活性化に無くては成らない存在になっています。  土地改良事業等の農業予算を個別所得補償に振り向けるとすれば、水田農家が圧倒的に多い地域は非常に歓迎されますが、日高は水田が極端に少ないので、戸別所得補償制度には戸惑いは否めません。  しかし、海外に対抗し農業を集約化し大規模化できるのは北海道しかない。そう考えると戸別所得補償制度などは積極的に取り組もうとしている農家の意欲を削ぐ政策のような気がしてなりません。農地の取得も含めて異業種が参入しやすい制度なり仕組みの確立、制度設計に取り組むことが先決じゃないでしょうか。
――軽種馬農家も後継者不足の悩みを抱えていますか
上田 あると思います。軽種馬農家は確かにリターンは大きい可能性はありますが、リスクも大きいので、残念ながら産業としての裾野は広がっていません。基盤は脆弱だと思います。軽種馬農家の離農後、農地を園芸作物などに転換できるかどうかが、日高農業の将来を左右するポイントではないでしょうか。
――管内の農業基盤整備の仕事を通じて印象深いエピソードなどはありますか
上田 数年前のことですが、管内の中山間事業の草地改良のことです。実際に図面どおりつくるのが良いのでしょうが、日高は平野部が少ないので、山を削って馬の放牧地や採草地にしたりします。均平度を要求される空知などの平野部と違い、傾斜面を利用する所は農家の人の昔からの知恵が貴重です。暗渠なら塩ビではなく昔ながらの素焼きがいいので、日高の暗渠は大半が昔の素焼き土管に戻りました。  また、日高は豊富な森林資源にも恵まれており、疎水材は間伐材の有効利用と疎水効果を考えてチップを利用しています。そうした昔の人の知恵には感激しました。やはり昔の人の話は聞くものですね。それぞれの地域で土壌も違うので、農家の蓄積されたノウハウを設計に生かすことを考えたら良い。農家は受益者として応分の負担をしているので、発注者と設計会社、受益農家の3者検討の機会を作るべきでしょう。その点、道路や河川改修とは事情が違います。
――どこが農家の相談窓口になっていますか
上田 水土里(みどり)ネットで、かつての土地改良区です。団体営事業を自前で実施するのが年々厳しくなってきたので、日高管内で単独で残っている土地改良区は浦河だけとなり、あとは町村役場の中に入ってしまいました。
――農家の方が町村役場に相談に行くケースはありますか
上田 実際は行かないようです。かつては、何か農業基盤整備事業をやる場合は土地改良区が中心になって期成会を旗揚げし、個々の農家の取りまとめを期成会が行い、発注者である行政の窓口になっていました。  近年は期成会設置の音頭を取る人がいません。勢い町村役場の担当者と折衝することになります。しかし、人口減少で町村役場の職員数も減り、行政サービスの統廃合で、彼らも担当課の業務の一部としかとらえていませんし、「選択と集中」の中で優先順位が付けられ、必ずしも農業基盤整備事業に目が向いていないような気がします。町村役場で農業土木に精通している人材も少ない。  ですから、われわれ建設協会は管内の各首長さんを回って地域の要望を要請するようにしています。
――1次産業が元気でないと地域の活性化と雇用の確保も難しいのでは
上田 1次産業がきちんとしていれば、2次、3次産業も付いてきます。建設業も1次産業の持続的発展を通じて仕事が生まれると思っています。その面で建設業は、1次産業を直接支援できませんが、側面からの支援は可能です。そこで、地域の新しい仕組みが必要です。そうでなければ、日高管内の過疎化に歯止めがかかりません。  浦河高校の卒業予定者の地元就職は厳しいもので、地元に働く場が無いのです。私も浦河高校のOBとして、地元で雇用が出来るように、地元に根付いた産業が育っていくように地域格差の是正を呼びかけています。  公共事業の入札においても透明性なり客観性、公平性を担保しなければなりませんが、しかし、地域の特性を活かした農業土木は一般競争になじみません。設計段階で農業土木に関する知識なりノウハウを有する技術者配置等の条件を付すべきで、一般土木とは違います。  生産性向上の基盤整備と農家の所得を最低限補償する政策は、両輪でなければなりません。豊かな実りある大地の北海道を今後とも持続的に発展させていくには、この両輪で考えてもらいたい。そのための提言、要望はわれわれとして積極的に取り組み、北海道農業を守っていきたいと思います。

会社概要
創  業:昭和40年10月
     上田建設工業株式会社に組織変更
資 本 金: 25,000,000円
年  商:450,000,000円
従 業 員:20名
関連会社:浦河メンテナンス
建設許可業種:北海道知事 特定建設業 日第13号
  土木工事業 とび・土工業 水道施設工事業


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