建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年3月号〉

interview 北海道農政部・農業農村整備特集

北海道農業発祥の地として農業土木技術者は誇りを持っている

―― 北海道農業が成り立たないとするならこんな悲しいことはありません

渡島建設協会 副会長、株式会社 工藤組 代表取締役社長 福西 秀和氏
(本州・北海道架橋を考える会 代表幹事)

福西 秀和 ふくにし・ひでかず
昭和26年5月18日生まれ
昭和45年 道立函館中部高等学校卒業
昭和49年 市立高崎経済大学経営学科卒業
昭和51年 株式会社工藤組 入社
平成 4年 同社 代表取締役社長 就任
財団法人 工藤育英会 理事長
NPO法人 函館エコロジークラブ 理事長
社団法人 函館建設業協会 理事
渡島建設協会 副会長
本州・北海道架け橋を考える会 代表幹事
秀鳳産業株式会社 代表取締役
社団法人 函館地方法人会 副会長
株式会社 工藤組
函館市石川町169番地7
TEL 0138-46-1111

 渡島管内は南北に長く,気象や立地条件が異なることから、地域によって特色のある農業が展開されている。八雲町、長万部町の北部は酪農が盛んで養豚や肉用牛などの畜産が主体。森町濁川地区は地熱利用による野菜栽培、函館、北斗市の中央部は野菜、米、花卉、馬鈴薯等多様な作物が生産されている。松前、知内町などの南西部は水等が主体だったが、転作を機に野菜の生産が伸びているという。濁川地区で農地防災ダム建設等の実績がある函館市の工藤組を訪ね、福西秀和社長にインタビューした。福西社長は現在、渡島建設協会副会長を務め、農業問題に一家言を持つ。「残念ながら日本人から愛国心が失われてきた。国内の安全・安心な農産物をみんなが食べるようにすれば、自由化は何も恐れることはない」と強調した。

――工藤組は農業農村整備事業に力を入れていると思いますが、渡島農業の特色についてはどのようにとらえていますか
福西 渡島は津軽海峡に面する松前町から、太平洋の噴火湾に面する北端の長万部町まで約400qあり、長崎県に匹敵する面積です。北海道における水田の発祥地(北斗市)ですが、農業の経営規模は決して大きくはありません。昔から大野を中心とする稲作が主力作物でしたが、相次ぐ減反で作付面積が縮小、いまでは畑作のほうが稲作を上回っているようです。  例えば知内のニラ、大野の長いもなど特色を持った畑作物に変わりつつあります。道南地域で品種改良されたコメの「ふくりんこ」が「冷めてもおいしい」と高級ブランド米として評判がいい。  渡島の農業も後継者不足は深刻でして、そう考えると厳しいものがあります。函館圏では都市化の進展に伴い、かつての農地が道路、宅地に変わり、函館市内の農地はかなり少なくなっています。農業が基幹産業の地域は近隣の七飯町、北斗市(大野、上磯)、これに知内町、八雲町ぐらいでしょう。
――函館は都市型で付加価値の高い野菜生産が主力になっているのでは
福西 函館圏には管内人口(45万人)の83%が集中していますので、高級銘柄の特産品に変わりつつあります。
――農業農村整備事業についてお聞きしますが、これまで手掛けた事業のなかで特に印象に残っている事業は
福西 いろいろありますが、20年間携わってきた濁川地区道営防災ダム事業は忘れられません。農地防災ダムの濁川ダムが建設された濁川地区は、森町市街地から約15km離れた濁川盆地の中に位置しています。スリバチ状の盆地のため大雨になると洪水が集中しやすく、過去に何度も被害を受けています。  そこで、普通河川の澄川に洪水調節ダムとして、昭和54年に事業に着手、平成17年度に完了しました。堤高42m、堤頂長219m、堤頂幅8m、堤体積484,000m3のロックフィルダムで、貯水池の集水面積は14.2ku。受益面積402ha、受益農家は106戸を数えます。  濁川地区は森町の水田面積の60%を有し、近年は地熱発電の余熱を利用したキュウリ、トマト、花卉等の園芸作物との複合経営により高収益の農業地帯に発展しています。道内ではせっかく農地防災ダムを建設しても後継者不足で大半の農家が離農したケースもあるようですが、この濁川ダムは成功した事例の一つでしょう。  こういう農業基盤整備事業に関わると、農家の方と直接触れ合う機会がありますから、苦労されていることがよく分かります。安心・安全な食糧を供給している農業が産業として成り立たないとするなら、こんな悲しいことはありません。渡島管内でも経営規模を拡大している元気な農家と廃業していく農家とに二極化の傾向がみられます。  輸入農産物に課税している関税を撤廃するTPP(環太平洋パートナーシップ協定)が始動すれば、壊滅的な打撃を受けることは間違いありません。そう考えると、農業も企業化していかなければ対応できない。価格面では海外の大規模経営の農産物にはかなわないのははっきりしているので、JAが先頭に立って日本の高品質の農産物を中国の富裕層等をターゲットに売り込むぐらいの気構えを持ってほしい。
▲広域営農団地農道整備南渡島2期地区
――建設業の経営多角化の一環として農業に参入している事例が多くあります。工藤組さんも検討されましたか
福西 農産物生産の入口は確かにありますが、販売ルートに乗せる出口の確保が容易ではありません。地元のスーパーは受け入れてくれるでしょうが、毎日切らさずに提供することが条件になります。ネットで販売する方法もあるでしょうが、そこまでのリスクを背負ってまでやれるか非常に難しい。
――日本の食糧基地という北海道の位置付けは今後も変わらないのでは
福西 クルマや家電が外貨を稼げば、農業は衰退してもいいということにはなりません。われわれがこぞって国内産の農産物を食べれば自由化なんて怖くない。消費者も価格だけに目を奪われているきらいがある。農業の技術や知識は日本の誇りです、日本人から愛国心が失われているような気がしてなりません。  それにしても、農家の皆さんの労働は過酷です。機械化しているといっても、最後は人力ですよ。広大な農地を持つアメリカのようにヘリコプターで農薬を散布し、30%でも収穫できればいいという農業とは根本的に違います。水の管理、雑草取りはすべて人手が頼り。  収入面でも恵まれているとは言えません。渡島管内でも農家戸数の減少や、従事者の高齢化が進んでいます。知り合いの農家では年間200万円前後の年収で営農を続けています、息子にはこんな苦労をさせたくないと、自分が動けなくなったらもう辞めるしかないと言っています。担い手を増やす政策を推進し、可能かどうか別にして、サラリーマンと同じ勤務体系と年収で一人400万円程度を確保できる経営体質にしないと、今の若者は日本の農業に魅力を感じないのではないでしょうか。  その意味でもTPPの問題は、われわれが日本の農業の実態を知るチャンスかもしれません。それにしても、民主党政権が打ち出した戸別所得補償にしても畑作や酪農は対象になっておらず、不思議な政策です。
――北海道は酪農王国ですから、北海道外しとの評も一部には聞かれます
福西 渡島管内ではスイスに匹敵するくらいのおいしいチーズが生産されています。安政5年(1858年)に七飯町で牛の飼育が始まり、明治6年にはバターと粉乳製造も始めた地域で北海道農業の起源といえます、北海道は安全で、安心できる食料づくりに取り組んでいる地域としてもっと評価していい。
――渡島建設協会の副会長として建設産業の現状についてお聞かせください
福西 公共事業予算の縮減は、建設産業の危機です。三ケタの国道はすでに耐用年数が過ぎ、落石が頻繁に発生しており、いつ崖崩れが起きるか心配です。  北海道建設協会の総合企画会議で、民社党政権を後押しした北大の山口二郎教授の話を聞く機会がありました。「公共事業は全然悪じゃない。地方では公共事業がなければ食っていけません。このままなら地方は崩壊すると、菅総理にも訴えています。政権交代のマニフェストを着実に実行することが重要。公務員改革にも手を付けないで、いきなり増税の話をしても国民は付いていかない」と強調していました。  例えば、渡島管内では函館開発建設部、函館建設管理部、渡島総合振興局発注の公共事業が年間800億円から1,000億円あったのが、ここ4〜5年で半減しました。工事を受注した建設会社は、建設関連資材会社等にこのうち6割を支払います。その6割が半減すると地域経済が疲弊するのは当たり前です。
――長年の夢、津軽海峡横断大橋についての展望は
福西 北海道と本州が橋で結ばれるのは理想です。第四次全国総合開発計画=多極分散型国土(昭和62年〜平成12年)の国土審議会計画部会で取りまとめた「21世紀の国土のグランドデザイン−新しい全国総合開発計画の基本的な考え方{日本の海峡プロジェクト・津軽海峡道路}」が計画されて20年近くになります。平成3年に函館青年会議所の理事長を務め、青年会議所などが「津軽海峡に夢かける」地域振興講演会などを開催し、実現に向けて津軽海峡大橋の必要性を訴えてきました。  北欧諸国ではアクセスは橋で結ばれています。自動車輸送による経済効果は大きく、北海道も同じだと思います。新しい交通体系で北海道の観光や食料の供給が充実し地方の活力となります、津軽海峡大橋の実現は波及効果は大きいはずです。

会社概要
設  立:昭和33年3月
資 本 金: 80,000千円(平成22年4月)
完 工 高:1,588,707千円(平成22年4月)
営業許可:特定建設業 北海道知事許可 (特-19)渡 471号
業務内容:土木工事業、建築工事業、とび・土工工事業、舗装工事業、
     鋼構造物工事業、竣渫工事業、造園工事業、水道施設工事業
社 員 数:36名
札幌支店:札幌市西区発寒13条3丁目7番26号


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