建設グラフインターネットダイジェスト
〈建設グラフ2011年3月号〉
interview 北海道農政部・農業農村整備特集
藤井聡京大教授の「公共事業が日本を救う」は「留萌を救う」
―― 北海道の発展に農業土木技術が貢献する
留萌建設協会 会長、株式会社 堀口組 代表取締役社長 堀口 亘氏
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堀口 亘 ほりぐち・わたる |
昭和45年3月 立命館大学理工学部土木科 卒業 |
昭和48年4月 株式会社堀口組 入社 |
昭和62年5月 同社 取締役副社長 就任 |
平成 3年5月 同社 代表取締役社長 就任 |
公職 |
平成17年6月 留萌信用金庫 理事 就任 |
平成18年6月 留萌間税会 会長 就任 |
平成20年4月 留萌建設協会 会長 就任 |
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株式会社 堀口組 留萌市高砂町1丁目4番15号 TEL 0164-42-1162 |
堀口組の堀口亘・代表取締役社長は、留萌建設協会長として管内のリーダー的な存在だ。グループ企業を含めて約300人を雇用しており、地域経済の振興に果たしている役割は大きい。管内のイベントや農業振興には全社を挙げて応援するなど、地域密着型の事業展開には頭が下がる。しかし、過去15年間で全国の公共関係事業費が3分の1に縮減されたように、留萌管内も公共投資は先細りの状況が続いている。日本海に沿って南北に長い留萌管内は「前菜からデザートまで」と言われるほど、稲作、畑作、野菜、果樹、酪農などバラエティーに富んだ農業が営まれており、実り豊かな大地が広がっている。「北海道は農業立国をめざすべきだ。1次産業が元気なら2、3次産業への波及効果も大きい」と力説する堀口社長は、長年にわたり農家と対話しながら農業土木工事に心血を注いできた。「コンクリートから人へ」をスローガンに22年度予算で公共事業費を前年度対比で2割削減した民主党政権に、「橋梁などの大量のコンクリート構造物が寿命を迎えている。インフラ整備をないがしろにしたら近代文明は荒廃する」と異議を唱え、「公共事業が日本を救う」を著した藤井聡・京都大学教授の論陣に「目の鱗が落ちた」と感激している。
- ――留萌管内の農業の特色についてお聞きします
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堀口 そうですね、 収穫量はともかく、コメ、果樹、肉用牛、野菜、畑作などバラエティーに富んだ農業が営まれており、前菜からデザートまで揃えることができる食材の宝庫です。品質も北海道のトップクラスの水準を誇り、光るものを備えていると、地元の人間として自負しているところです。遠別町が日本最北の米どころであるように、農業立国をめざして先人たちが様々なことに挑戦してきたと土地柄です。管内で生産される農畜産物の流通の拠点として留萌港があり、上川とも連携しながら、伸びていくという感覚は持っていました。
- ――留萌管内の人口はピーク時の昭和30年代前半には約14万人を記録しています。支庁の再編に伴い、幌延町が宗谷に編入されたため、現在は1市6町1村で53,108人。人口減少になかなか歯止めがかかりません。昭和62年、国鉄羽幌線(留萌〜幌延)の廃止も影響していますか
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堀口 国の都市型政策でこれだけ都会を便利にすると、田舎の人口は必然的に減ります。道路網も海岸線に沿って南北に走る国道1本(231・232号線)しかありませんから、通行止めになると行く所がありません。完全に陸の孤島になります。海が迫っているので、危なくなっています。冬期間は雪ばかりでなく、波しぶきで通行止めになることもあります。道と道とを繋げるなどして複線化の要望をしてきましたが、立ち消えになったままです。
- ――会社として農業整備事業に取り組んでいるなかで、農業土木の技術者は確保されていますか
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堀口 農業土木は、技術的に一番近道です。なぜなら農業土木は範囲が広いので、護岸があれば川もやります。圃場整備に伴う受益者対応も必要。そんな工事は農業だけです。そういう面では熟練を要しますし、建設会社からみても農業土木は技術者養成のコースとして貴重な現場です。
- ――農業土木技術者として実際に身をもって経験されましたか
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堀口 40歳近くまで現場代人を務めていたので、農業土木の現場も数多く担当させてもらいましたが、それぞれの現場で思い出があります。例えば、圃場整備などはなかなか図面どおりにいきません。農家の方といろいろ話し合って取り組みました。
- ――ご苦労もあるでしょうが、やりがいを感じましたか
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堀口 私たちには自負心がありました。北海道の食糧自給率を上げるのに貢献しているのだと。北海道の発展にも農業土木が必要だという感覚を持っていましたから。それは大きいと思います。道路にしても港にしても農産物の流通ルートですから。
北海道と本州府県の農業とは根本的に違うのに、一律にして「農業」で括るのは論外。北海道の専業農家に対して本州は兼業農家が多いでしょう。
- ――それだけ農家さんとの関係も深くなりますか
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堀口 留萌は地域密着度が強いですし、社員にも農家出身者が多い。必然的に農業祭等の各種イベントや綿羊や肉用牛、ワイン生産法人の株主など経済的な支援も可能な限りお手伝いさせてもらっています。農協さんに頼まれることもあります。
- ――地域振興のアイデアがあればお聞かせください
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堀口 留萌市で開催されるイベントには、地域を盛り上げるために積極的に参加しています。職員も動員しています。
それでも人口流出に歯止めがかかりません。過疎化対策は、はっきりいって政治の問題です。留萌の若者は一生懸命に毎月のように集まって、イベントなどに取り組んでいますが、これ以上は無理でしょう。
- ――支庁の再編にあたって、公共投資の農業振興や道路整備の面で何らかの提示は、道側からはなかったのですか
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堀口 ありませんでした。私たちも幌延町の移管には混乱しています。幌延町はある程度公共事業が集中していますから、建設業への影響はあります。支庁制度改革にいつまでも反対ばかりしていられないので、留萌市長も反対から賛成に回ったのは事実ですが、私たちも本音は反対です。それでも留萌としては期待感を込めて(幌延町の宗谷移管を)受け入れた経緯があります。
私たちは多くを望みませんが、地元の熱意を評価して、もっと留萌管内に公共投資をしてもらい、過疎地域が自立できる予算を重点配分してほしいと思います。幌延町は稚内に近いので、あのような形(宗谷への編入)はやむを得ないと思いますが、私たちからしてみれば、我が国の最北を流れる大河川・天塩川(日本海に注ぐ日本で4番目に長い一級河川)の右岸(幌延町・宗谷管内)、左岸(天塩町・留萌管内)までも分けるのか、と感じています。天塩川河口の長い歴史、文化が分断される思いです。
- ――公共工事予算が大幅にカットされているなか、京都大学の藤井聡教授が執筆した「公共事業が日本を救う」(平成22年10月・文藝春秋発行)という本が話題になっています。社長も読まれたそうですが、感想はありますか
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堀口 目から鱗が落ちるぐらい感激しました。さっそく建設協会で本を取り寄せました。行事等の挨拶では藤井教授の本の一節を引用し、「力強いことだ。われわれは何ら恥じることはない」と話しています。応援したいし、話も聞きたいと思っています。
道路を整備することにより交流人口を増やし、人口流出にもある程度の歯止めをかけ、地域の均一化を図るのが国の方針だったはずです。それがいつの間にか人口の集約化で都市部だけに人が集まり、田舎には過疎化を促進しているのではないかと思います。
- ――やはり、公共事業が「留萌を救う」という気持ちになりますか
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堀口 なりました。たとえ会社の規模が小さくなっても後戻りできないので、留萌のために何が出来るかを真剣に考えなければなりません。
- ――藤井教授の本の中で特に印象的な内容は
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堀口 交通量や渋滞の問題などいろいろなデータを示し、道路網整備の必要性を強調されています。農産物の流通や救急医療の分野にも影響する問題です。それと雪の問題は特殊です。留萌管内は風がついたら北海道で1、2位の悪条件です。
農道と国道、道道が繋がっていないのも問題で、複線が通らない状況なんてあり得ないと思っています。
- ――TPPの問題も深刻です
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堀口 留萌の農産物はコメ、果樹、肉用牛などバラエティーに富み、品質も申し分ない。農業にはもっと力を入れいくべきです。しかしTPPに反対論が根強いのは北海道と東北ぐらいで、一般国民は表向きの説明だけで賛成しています。全体的な形で推進されると押し切られかねません。
いまこれだけ国際紛争が起きていて、食糧自給率は関係ないという議論がどこから出てくるのか不思議でしょうがない。農業土木を中心に会社を運営してきましたが、近年は予算が付かないのでなかなか受注量が増えません。
- ――このままだと農業土木の技術者が足りなくなる心配がありませんか
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堀口 由々しき事態です。札幌では20社以上で低価格競争のような入札を行っています。嘆かわしいかぎりだと思います。地区の受益者ともうまくゆき、工事も円滑に進み、どうしたら発展性を持たせるか、最低の評価基準が必要です。
- ――建設企業は地域の雇用確保にも大きな役割を担っています
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堀口 わが社の受注高は決して多くはありませんが、すべて直で行っていますので、従業員数は管内でもトップクラスでしょう。職員はグループで200人、これに季節作業員が100人ほどいます。重機、運転手も自前で抱えています。
- ――それでも経営環境はきびしいですか
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堀口 会社自体も厳しいし、周りも厳しい。同級生が同じ建設業で倒れたりしたら、たまらない気持ちになります。手を貸すほうも限界にきています。
競争原理も確かに大事ですが、助け合いも大事ですから。何とか方法がないかと、聞きたいぐらいです。地域で生きていくのにドライな感覚だけでは生きていけないと思います。
- ――留萌を救うには公共投資以外にはありませんか
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堀口 公共投資以外にありません。全国のほとんどの地方が似たような状況だと思います。現行の公共投資が最低限の水準だとするなら、私たちは暮らしていけません。
かといって異業種転換も容易なことではないので、どうしたらいいか。幸いにして藤井教授らのような応援団もいますので、留萌に昔の賑わいが少しでも取り戻せることを願っています。
会社概要 |
創 業:昭和25年7月20日 |
改 組:昭和38年1月25日 |
許 可 番 号:建設大臣(特・般)第14801号 |
資 本 金:50,000,000 |
年間完工高:約42億円 |
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