建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年3月号〉

ZOOM UP

高い定着率と高い入居希望が建て替えの壁に

―― 現行法規制の中建て替え後の住戸が激減

不況化の公営住宅改善〜名古屋市


▲市営平田荘 第3次建設 外観 全景 南西面


 名古屋市の市営住宅は、平成22年度時点で300団地1,377棟を擁し、63,141戸に及んでいる。市では、これらの建て替えに鋭意取り組んでおり、これまでは昭和30年代までに建設した簡易耐火造の低層住宅の建て替えを中心に、大幅な居住環境の改善、建て替えによる戸数の増加など、居住者の協力を得て年間500戸以上の建て替えを進めてきた。
 現在は、昭和40年代に大量供給をしてきた中高層住宅の建て替えに着手しており、建築法令の規制強化の影響などによる建て替え後の戸数の大幅な減少や、または居住者の高齢化など様々な課題から、建て替え事業は年々困難になってきており、平成14年度以降は着工戸数が減少傾向にある。
 近年は平成45年度以前に建設された住宅42団地、14,724戸を対象に、順次建て替えに着手している。
 平成22年度は、西区平田荘の第4次建設として3棟227戸、港区南稲永荘の第1次建設として1棟100戸を着工する他、中川区の戸田第1次建設(90戸)、戸田第2次建設(90戸)と、千種区の仲田第3次建設(72戸)、仲田第4次建設(72戸)、南区の弥次ヱ第9次建設(35戸)、熱田区のくさなぎ第1次(45戸)、昭和区の永金(41戸)、中川区の小城南(29戸)、港区の南汐止(70戸)を実施中である。
 建替えを進める上では多くの課題がある。既存建物の新築時よりも建築法令上の規制が厳しくなっていること、また現在の住宅の設備等にかかるスペースや共用部が大きくなっていること、付置義務駐車場の整備スペースの確保などが要因となり、建て替え後の戸数が大幅に減少がする住宅が増加している。中には、半数以下へと激減する住宅もあり、これが事業の遅滞の原因となって、建替え後も住み続けたいという居住者の希望に迅速に応えることが困難となっている。
 また、居住者の高齢化も課題で、近況としては入居世帯の半数以上が高齢者世帯となっており、高齢単身世帯も約12,000世帯に上っている。中でも高齢化の傾向は、建替えの対象となる古い建物ほど顕著となっている。
 しかも、高齢居住者には終の棲家と考えて暮らす世帯が多いため、建替えに伴う移転への抵抗感は強く、転出者は減少傾向にあり、住戸を改善したいという建て替えに対するニーズも低下するなど、必ずしも建て替えを望んでいないという状況が、建て替えのペースを鈍化させる要因の一つとなっている。
 建て替えに当たっては、仮移転先など100戸単位での空家確保が必要となるが、近年の経済低迷、停滞に伴い、市営住宅の入居応募倍率が20倍を超える高倍率で推移していることから、市営住宅全体での空家の確保が難しくなっていることも、建て替えを困難にしている要因である。
 一方で、新たな高齢化、環境対策などの課題に対応するため、様々な改善策を検討している。例えば、間取りについてはこれまで建て替え居住者の要望に答え、住戸面積を年々拡大し、またソーシャルミックスを図る必要から1DKから4DKまで多様な間取りを組み合わせて供給してきたが、今後は高齢化、小世帯化の情勢に対応し、小家族向けの間取りの比率を高め、限られた敷地の中でできるだけ多くの戸数を確保するため、コンパクトで機能的な間取りの住戸整備を検討している。
 また、時代の要請となっている環境への配慮については、市の公共事業として省エネルギー対策、自然エネルギーの活用、緑化増進、自動車利用の抑制、生物多様性等々に率先して取り組む。
 安価に建設することが要求される市営住宅としての様々な制約がある中で、これまでに太陽光発電システムを4団地で18基設置したほか、駐車場緑化を検討。カーシェアリングの普及、要請に応えるため、敷地内にステーション設置を検討し、風土に合った植物相の回復を図るなど、生物多様性に配慮するため、植栽は在来種に限定することにしている。
 居住環境については、高齢者、障害者に配慮するため居室内のバリアフリー化を進めるほか、車椅子対応居室の整備の要望を受け、これまでに161戸整備してきた。今後は、原則1棟の両妻に車椅子対応住戸を建設することとし、仕様の一部についても入居者の希望に合わせるハーフメイド方式を採用することにしている。
 一方、建物の長寿命化を実現するため、これまで建て替え対象としていた建物のうち、耐震性や設備に問題のある一部の住宅を除いて劣化度調査を行い、長期に利用可能な住宅については改修を施すなど、住宅をできるだけ長期間活用を図る取り組みも進めている。
 今後はさらに、高齢化、世帯の細分化が進み、また市街地の状況も移り変わっていく中で、まちづくりや福祉施策と連携した建て替えが望まれることから、市としてはそれらも視野に入れて、さらに幅広い工夫を検討していく方針だ。


名古屋市の市営住宅整備に貢献しています

HOME