建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2010年11月号〉

interview

対ロ経済交流の拠点 稚内港の重点港湾指定漏れに憤慨

――地元有志が郷里を誇れる街づくりに向けて最北シネマ運営に着手

稚 内 建 設 協 会 会   長
藤建設株式会社 代表取締役
藤田 幸洋氏

藤田 幸洋 ふじた・ゆきひろ
昭和30年3月29日生まれ 北海道稚内市出身
昭和52年3月 東海大学海洋学部卒業
昭和52年4月 東亜建設株式会社入社
昭和55年5月 同社を退社
昭和55年5月 藤建設株式会社入社
昭和62年5月 同社 取締役に就任
昭和63年5月 同社 常務取締役に就任
平成 3年5月 同社 専務取締役に就任
平成 4年5月 同社 代表取締役に就任
藤建設株式会社
稚内市港5丁目5番15号
TEL 0162-23-4810

 稚内建設業協会長として、宗谷管内の地域振興に取り組む藤建設(株)の藤田幸洋社長は、サハリンプロジェクトによって稚内経済の底上げに全力投球していることから、その拠点となる稚内港の重点港湾指定漏れが承服できず、民主党による新政権が昨夏にスタートしていながら、いまだに国土づくりの方針が曖昧で、長期計画も明確にされない現況に苛立ちを隠せない。折しも、大衆受けを狙った大衆マスコミによる建設事業への批判報道による風評被害もあり、政策的にも不当な冷遇を受けている現状への憤慨は大きく、現代の世相に疑問を呈している。地域活性化のため、昨年には地元有志らの協力で最北シネマもオープンするなど、地元出身者が誇れる郷里となるまちづくりを目指す同社長に、建設業が直面する近年の問題点などを伺った。

──最近は行政においても業界においても、建設を目指す新卒者が減少しているとのことです
藤田 小泉政権以来、業界はダメージを与えられ続け、民主党政権になってさらに追いつめられています。とりわけ「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズは最悪で、地方の時代を標榜する民主党が政権党になったから、いよいよ地方の時代がくるのかと思ったら、地方の「地」の字も聞かれなくなりました。「選択と集中」がとかく主張されますが、それだけで良いのでしょうか。いくら業界が頑張っても、そうした施策によってかき回され、産業の根底となる建設業が否定され続けていることが苦況の主因で、悔しいことです。  私たちが土木の世界に参入したのは、橋でも道路でも港湾でもトンネルでもダムでも、地図に載る仕事をしたいとの思いと夢があったからです。ところが、マスコミなどからは過大投資と批判されて叩かれ、それで私たちの子孫に国土を残せるのかが非常に不安であり、憤りも感じます。この日本国の一部たる道北に、自国民である日本国民が本当に居住しなくても良いのか。辺境でも日本人が住むこと自体が国防ではないのか。「選択と集中」というコンセプトは、それを否定するものです。
──創業者の時代から、国土の最北端を護ってきたという自負があるでしょう
藤田 現在、サハリンとの様々な交流を進めていますが、かつては樺太という日本の国土で、そこへ赴く人々がたくさんいました。その人々のために様々なインフラが構築されましたが、それを造ってきたのが私たちの祖先です。しかし、今は彼らの業績が全く否定されています。今回の重点港湾指定においても、なぜ稚内港が対象外となったのか、単なる数値上の実績だけで評価したならば、それ自体がむしろ問題です。稚内港は、ロシアとの国境に面する港なのですから。  国交省は海外に目を向けるべきと主張していたので、私たちも民間レベルでポートセールスに取り組んできました。様々な問題や課題がありましたが、それを一つずつ解決し、その結果として現在の合弁会社があるのです。  しかし、私の目的はサハリンとのビジネスで収益を得ることではなく、それを機会に稚内市全体にモノや人が集まり、収益が得られる状況を作ることです。そうして努力しているのに世論によって否定され、重点港湾の指定から外されたのが納得できません。
──サハリンエナジー社のプラントも、すでに稼働していますからね
藤田 LNGや原油を日本を含む諸外国に輸送しており、さらに新たなプロジェクトも進み、そのための建設工事が予定されているのは事実です。しかし、重点港湾に指定されたのは釧路港、函館港、石狩港で、特定重要港湾は室蘭港、苫小牧港だけです。北海道はこの五港だけで、本当に十分なのでしょうか。  しかも、取り扱い貨物量を比較すると、石狩港は4番目であるのに対して小樽港は3番目です。数値だけを重視するのであれば、なぜ小樽港が選ばれなかったのかが疑問です。日本国内で最も外国に近く、国境に面している港が単に取り扱い貨物量が少ないだけで除外されるとは、北日本海やオホーツク海の存在意義を、どう捉えているのでしょうか。そこに港は不要なのでしょうか。
──この9月には、日露中韓の4ヵ国による国際フォーラムも稚内市で開催されましたね
藤田 国際的な防災訓練は、原油流出の可能性を考えてのことです。サハリンから実際に年間450隻くらいの大型タンカーが航行しており、それらが日本・韓国・中国方面に向かう場合は、必ず宗谷海峡を通ります。その現実を反映してのものですから、この観点から見ても稚内港の適用除外は理解できません。  防災訓練には海保や自治体などの関係者しか参加していませんが、完璧な防災体制には何が必要かを、私たち建設業界も独自に考えておかなければならず、そのために懸命に取り組んでいることを大衆向けマスコミは全く触れないのが不思議です。
──先月にもサハリンへ赴きましたね
藤田 合弁会社ワッコルのプリゴロドノエのサイトでは、労働者用キャンプの解体やサイト内の給水工事、コルサコフ港の岸壁改修工事などで、産廃を処理するための機械も稚内から送り出しました。サハリンプロジェクトのお陰で、現地の雇用情勢は日本国内よりも遙かに良いのです。  そのため住宅も建設ブームで、一時は稚内から資材や機材の輸出が決まりかけていましたが、リーマンショック以来の円高により頓挫してしまいました。円高を放置して、何の手も打たなかった政府の責任です。リーマンショック以前の為替レートは1ルーブル4.5円だったのが、いまは3円以下という状況で、そのために資材の供給は韓国に奪われる結果となりました。韓国ウォンとルーブルのレートは変動がなく、円だけが単独で高騰しているためです。とかく自動車、電気などメジャーな輸出産業への影響ばかりが注目されますが、円高の悪影響はこんな辺境にも及んでいるのです。 
──サハリンプロジェクトの今後については、どう展望していますか
藤田 さらにプロジェクト3が動き出しています。1、2のようなPS法(生産物分与法)の枠組みではなく、新たな法の下に契約が進むので、どんな契約内容となるのか、他プロジェクトの関係者は注視しています。それが投資家にとってプラスであれば、さらに進展するでしょう。  具体的な取り決めはこれからですが、中国のシノペックという企業が参入していますから、その契約内容が今後の基準ともなるでしょう。このサハリンプロジェクトは終わったものと誤認されていますが、実際に地下資源の埋蔵量は十分にあり、私たちは日本のエネルギー安保の上でもそれが有力だと思うから力を入れてきたのです。
▲稚内港北防波堤ドーム
──政府がエネルギー政策において、稚内の取り組みをどう評価するかで変わってきますね
藤田 政府間には、北方四島の問題もあるでしょうが、我々経済人が望むことは、国家間でなんらかの条約を締結することです。領土問題も確かに重要ですが、経済の側面から見るとグローバルな形で動いていますから、そればかりに固執してどうするのかとの思いがあります。エネルギー問題だけを考えても、やはり政府間での条約が必要で、それが無理なら北海道とサハリン州との自治体レベルでの条約締結でも良いでしょう。  また、こうした経済交流において重要なのは、道の問題です。現在はフェリーが道となっており、ハートランドフェリーが航路を維持していますが、これを単なる一企業の商行為としてではなく、道や国が政策として取り組み、航路を通年化する形で維持して頂きたいと思います。航空機は単に人を輸送するだけで、資材を輸送することはできませんから海運は重要で、そのためにも港湾が必要です。  港というのは明日に使用するからすぐに整備するという性質のものではなく、100年の大計があって初めて整備されるものだと思います。ポートセールスにおいても、とかく欠点ばかりを指摘されることがありますが、国家戦略として何をどう推し進め、そのためにどんなインフラ整備が必要なのかを決めて、その根幹に基づいて港湾も存在すべきものです。  しかし、今日の重点港湾の指定を見る限りは、そこに戦略性は微塵も感じられません。これまでの指定による重点整備においても、どんな戦略があるのかが知らされないままできました。これで先を見据えた経済が成り立つのか疑問です。
──政府や自治体の取り組みと政策的考え方が、民間に十分に伝わっていないのですね
藤田 そもそも基本的な戦略や政策を持っていないのではないか、との不審感が拭えません。日本はどこに向かい、どこに行き着こうとしているのか。北海道はどこに向かい、どのように生きていこうとしているのか。効率性重視で都市部ばかりを優先する集中と選択によって、地方が疲弊し建設業が衰退した場合に、何が起こるでしょうか。まずインフラを維持できなくなります。そうなると、もはや単なる財政問題ではなくなります。  麻生政権で公共事業を一時的に増やしましたが、それで建設業界が蘇生したわけではありません。それを実施するには技術者が必要であり、機材や資材の確保も必要で、ただ予算を配分したらそれで十分というものではないのです。
──業界は高齢化が進む一方で、新人を募集しても応募がないという状況ですね
藤田 宗谷管内の除排雪に携わっているオペレーターは、みな優秀で作業精度もかなり高いものですが、管内では平均年齢が50代を越えています。その人々も60歳になれば定年で、ある程度の年齢に到達すれば、作業も出来なくなります。一方、管内のダンプ数も減少してきています。その状況で、豪雪があれば、都市機能が破綻するでしょう。慌てて資金を集めても、必要なトラックや除雪機は用意できず、オペレーターも確保できません。その状況になったときに、一体どうするつもりでしょうか。  今年は全国的に猛暑だったために、牛乳が例年よりも多く本州に出荷されましたが、冬期間の場合に除雪が出来なければ、そもそも輸送が出来なくなります。米にしても、本州米の食味が相対的に下降する一方で、北海道米はレベルが向上していますが、冬期間の輸送となると除雪ができていなければ出荷できません。こうした流通経済においても、大きなマイナスになるのです。  さらに、宮崎県の口蹄疫問題の時には、殺処分された牛の始末のために、地域の建設会社がどれほどボランティアをしていたか。それについて、一度でも良いから強く主張して欲しいと思います。彼らの協力がなかったなら、県はいまなお口蹄疫問題を収束できないままでいたでしょう。ところが、そうした建設業界の貢献は、どのマスコミも報道したがりません。  このように、建設業界がなくなった場合に困るのは誰であるかは明白ですが、国交省では4年間分として1兆3,000億円もの予算を削減しました。それだけ削減したので、来年度はこれ以上は削減しない方針を表明したものの、その分は確実に減少したのです。これほど産業を破壊して、後はどうするのか。一体、何が得られたのでしょうか。
──宗谷管内にあっても、建設業界は限界に来ているのでは
藤田 まさに、もう限界です。土木技術者というのは、簡単に育成できるものではなく、それは重機オペレーターも同じです。それをとことん排除した上で、国土をどう護っていくつもりなのかはまったく不明ですが、この問題は各界各層の様々な場面で論議されることが必要だと思います。  みな冬期間でも道路が通行できるのは当たり前で、猛吹雪で通行止めになっても晴れればすぐに通行できるのが当たり前という感覚になっているようですが、その間に24時間体制で除雪に当たっている作業員の苦労を分かっているのか疑問です。
▲稚内駅と「最北シネマ」
──そうした国土保全のための本業とともに、地域振興のために地元の8社の有力建設会社と協力して最北シネマの運営にも乗り出しましたね
藤田 これも建設会社ができる地域貢献の一つだと思っています。地域の活性化のために定住人口を増やすのはもはや無理ですから、その代わりに交流人口を増やすことが重要で、そのための施設としても位置づけています。お陰で、ロシアの人々もよく利用しており、オープンしてから2万人以上の利用がありました。このシネマができるまではゼロだったところに、2万人が足を運んでいるのですから、周辺に商業施設などができれば効果は期待できると思います。100円の商品でも2万人が購入すれば200万円の売り上げですから。  この最北シネマは「映画も観られる」映像施設だと考えています。映画だけでなく、サッカーW杯のパブリックヴューも開催したり、市教委は小中学生対象の上映に利用して頂きました。設備としてはフィルム映写機だけでなく、あらゆるデジタル機器を導入していますから、文化や情報を享受できる施設です。
▲「最北シネマ」チケット売り場 ▲「最北シネマ」のロビー
──札幌で10月9日に封切りされた「KNIGHT AND DAY」が、こちらでも同時公開されているのに驚きました
藤田 先日、サハリンに行ったときは、現地で「BIOHAZARD4」が上映されていました。つまり、今や世界同時公開の時代ですから、札幌にまで行かなくても、市内の子供達に同時期に同じ作品が観られる環境を提供したいとの思いで、「TOY STORY 3」も3D上映しました。映画を観る子供達の笑顔を最初に観たときは、作って良かったと思いました。
──これもメセナと考えて良いのでしょうか
藤田 私は責任の所在が曖昧になりやすいボランティアというものは好みません。企業が事業として取り組むのですから、赤字は出さないつもりです。そのためには良いソフトを導入できるよう努力しなければならず、最低でも20年は続けることが必要です。  このように、私たちの使命は子孫がたとえ地元に定住しなくても、故郷として誇れる街を作り、残すことです。そのために地域の人々は本業で頑張り、私たちも建設業で頑張っているのです。日本経済は、そうした地方経済の集まりで成り立っていますから、地方斬り捨ての発想は間違いです。

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