建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2010年11月号〉

interview

60周年を迎える旧札幌土木現業所(前編)

――土木技術者としての役割も変化

北海道空知総合振興局(建設管理部担当)
兼 石狩振興局 副局長 名取 哲哉氏

名取 哲哉 なとり・てつや
昭和32年3月15日 生まれ 富良野出身
北海道大学工学部土木工学科 卒業
昭和55年4月 北海道庁採用(函館土木現業所)
平成14年4月 旭川土木現業所事業部治水課長
平成16年4月 建設部河川課主幹
平成19年6月 小樽土木現業所事業部長
平成21年4月 建設部土木局河川課長
平成22年4月 現職

 道の支庁制度改革に伴い、札幌土木現業所は今年4月から空知総合振興局札幌建設管理部として空知管内と石狩振興局の河川、道路、海岸等の管理及び整備を担当することになった。建設部の出先機関から旧支庁との再編統合により、これまで以上に地域に密着した土木行政の展開が期待される。そこで11月18日の「土木の日」にちなみ、空知振興局副局長(旧札幌土木現業所長)に就任した名取哲哉氏にご登場いただいた。北海道開拓百年の礎を築いた土木事業。鉄道敷設や築港、治水など社会資本整備は、土木技術を抜きにしては語れない。財政難の影響で全国的に土木系技術公務員の削減、高度経済成長期に活躍した団塊世代の大量退職による技術継承問題など、「土木」を取り巻く環境は大きく様変わりしているが、地球温暖化による災害の多発、社会基盤整備の老朽化などへの対応など、土木の果たす役割は非常に大きい。名取副局長は「土木の仕事は社会貢献そのものであることを忘れないでほしい」と、後輩にエールを贈る。

▲当別ダム完成パーツ
――昭和26年、平成22年の制度改革等も含め、札幌建設管理部の沿革をお聞かせ下さい
名取 時代の推移に伴い、支庁を取り巻く環境も大きく変化してきたことから、平成21年3月『北海道支庁設置条例』を全部改正した『北海道総合振興局及び振興局の設置に関する条例』が制定され、平成22年4月から札幌土木現業所は、空知総合振興局札幌建設管理部という新しい名称になりました。幌加内町が上川総合振興局に移りますが、それ以外の管轄区域・所管事務はこれまでと変わりません。  土木現業所の設置は昭和14年8月で、それまでは道路、河川、港湾に分かれていた事務所を統合して、業務合理化を図ったものと聞いています。  戦後、昭和26年7月に北海道開発局が設置されたことにより、北海道における土木事業は国(開発建設部)と道(土木現業所)で役割分担して進めることになりました。  分離直後は、開発建設部の庁舎を借用するなど急場をしのいでおりましたが、国の職員の増加などにより、札幌土木現業所では昭和27年12月に庁舎を新築し、現在の場所に移転、その後、時代の変遷とともに機構の改正・定数の増減などはありましたが、ほぼ現在の原型ともいうべき組織で、本格的な土木事業に取り組むこととなりました。  札幌土木現業所におきましては、昭和30年代は札幌夕張線の本格改良や長大橋の建設、新川・野津幌川など中小河川の改修、40年代は札幌冬季オリンピック関連道路の整備や美唄ダムなどの河川総合事業、昭和50年代はJR千歳線千歳駅付近鉄道高架事業や石狩川流域下水道の整備など、まさに北海道開発の中心的な事業を行ってきました。  設置から60年の節目の年である平成23年を目前に控え、札幌土木現業所の名称はなくなりましたが、これまでどおり本道の社会資本整備推進のために全力を尽くして参りたいと思います。
――北大で土木工学を専攻していますが、土木の道を志した動機は
名取 当時、北大は理類と文類に分かれていて、教養学部で勉強してから学部へ移行する仕組みになっていました。工学部、理学部、農学部など学部の選択は入学から1年半後でした。  私が在学した昭和50年代半ばは、世紀の大事業と言われた青函トンネルの最盛期でもあり、社会資本整備のプロジェクトに参画したいという気持ちはありました。
――入庁当時の土木部の体制は
名取 最初の勤務地は函館土木現業所八雲出張所です。いまは細かく分かれていますが、当時は大係制で、技術係に道路、河川、漁港の担当者がいて、1人の係長の下に10人前後の職員が配置されていました。当時は各地とも災害が多発し、災害復旧事業が日常業務のようなものでした。  また、道路も河川も整備途上の箇所が多く整備が急務でした。皆のベクトルが合っていたと思います。係員は20代からせいぜい30代前半の職員が多く、みんな若かった。私は河川の担当でしたが、ひとつの係に道路も河川も漁港もあったので、会計検査があるとみんなで一緒に対応するというような状況でしたので、横の連携も取れていました。同じ釜の飯を食うというのか、若手職員の大半は独身寮に住んでいたこともあって、仕事と生活が一体化していた感じでした。  その後、職員数が増えたことから大係制から道路係、河川係、漁港係などの小係制に移行し、役割分担が明確になりました。そうすると次第に自分の担当以外の事業に関心が持ちづらくなってきた様に思います。  しかし、道の場合は予算要求から発注、監督業務まで一貫した実施体制を組んでおり、これは昔から変わりません。一人で一つの事業を要求段階から設計書の作成、発注、監督までを一貫して担当する非常に良いシステムだと思います。一つ一つの事業計画に本所はもちろん、本庁、国等の多くの人たちが関わり、さまざまな議論を通じて事業を形成していくので、その過程で学び、成長するチャンスがあります。  しかし最近では、事務手続きなどモノづくりのプロセスが簡素化し、事業に潜んでいる問題や本質が見えづらくなってきているような気がします。
――団塊の世代の大量退職や行財政改革の影響もあり、若い世代への技術の継承が課題になっているようです
名取 全体の職員数も減っており、職場のなかで技術的な課題を解決していくのが難しくなっているのは確かです。技術職員の年齢構成もピラミッド型からダイヤ型のような組織に変化し、現場の最前線にいる職員が減少しており、時間的な余裕もなく技術の継承も思うように進まないという悩みを抱えています。  また、われわれインハウスエンジニア(技術者公務員)の役割が変化してきている面も見逃せません。以前は調査や計画づくりのような設計コンサルタント的な仕事も技術者公務員がこなしていましたが、官側が過去に整備してきたいろいろなマニュアルにより民間に技術移転が進み、かつて我々が担っていた設計業務を民間コンサルタントが担うようになってきたことに伴い、コンサルタントの設計内容の妥当性を吟味することが求められています。その点の技術力を磨く必要があります。  もう一つの大きな質的変化は、住民との関係です。昔は公共事業の執行を役所は社会から任されていた面が強かったと思いますが、近年は事業内容を十分に説明して住民の信頼を得る社会に変化し、住民との合意形成のプロセスや事業評価などがインハウスエンジニアの重要な役割になっています。  一方、積算や監督などの業務はシステムの変化はあるものの、基本は同じでありノウハウは継承されなければなりません。人数がいた時代は、議論の中で学んできましたが、現在のような状況では組織を集約したり、研修という機会の中でノウハウを伝えていかなければならないと思います。  我々もそうですが、コンサルタント、建設会社それぞれに土木技術者がおり、住民や社会に必要な社会資本整備をチームワークで行っています。それぞれに継承すべき技術があり、役割の変化も視野にバランス良く技術力を高めていく必要があると思います。
――22年度事業、補正予算など現在の事業内容をお聞かせ下さい
名取 平成22年度当初の事業費は、補助事業・単独事業あわせて約353億円、箇所数は約300箇所となっています。  道路事業は、新千歳空港とのアクセスを強化し、観光振興や物流の効率化などを図る新千歳空港インター線の整備を進めるほか、美唄市と浦臼町を結ぶ美唄浦臼線の美浦大橋が完成することとなっています。  街路事業では、江別の顔づくり事業と一体で進めているJR函館本線野幌駅付近の連続立体交差事業の高架工事や、岩見沢市の駅前通などの整備を進めることとしています。  治水関係では、当別ダムの建設をはじめ、河川事業の主な事業としては、徳富川や柏木川等において、自然環境に配慮した河川整備を促進するとともに、千歳川流域河川において、直轄事業と連携した工事及び河川整備計画の策定などを行っています。  このほか、土砂災害を未然に防止するための砂防事業や土砂新法に基づき、警戒すべき区域の現地調査を進め、市町村に情報を提供しています。  また、道州制モデル事業の事業費は、15か所14億3千6百万円となっているほか、補正としては単独事業で道路8億4千百万、河川2億4千百万円、砂防2千6百万円、予備費の追加が6億8千万あって、今のところの事業量はおおよそ385億円となっています。
――いま副局長として重点的に取り組まれていることを、就任の抱負も含めてお聞かせください
名取 就任の際、職員には事業費も職員数も減っており、不安を感じているかもしれないが、昨年の支庁制度改革で地域から寄せられた土木現業所への期待を思い出して、自信と誇りを持って仕事をしてほしいと話しました。  近年は気象状況が非常に変化しており、北海道の年間降雨量の1/4から1/6の雨量が1日で降ることがあります。また、これまで1時間の50mmという降雨量はめったにありませんでしたが、今年は何回も記録しています。  もし地球温暖化が現実であれば、日本の中で北海道が最も影響を受けると言われていますから、安全・安心な社会資本整備の必要性はむしろ高まっていると思います。事業費の縮減が続いていますが、地域の声をよく汲み取って着実に必要な整備を進めていかなければなりません。

(以下次号)


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