建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2010年11月号〉

寄稿

土木の日に寄せて

国土交通省 北海道開発局 局長 高松 泰

高松 泰 たかまつ・やすし
昭和29年2月24日生まれ 北海道出身
昭和52年3月 北海道大学工学部卒
上級甲種(土木)
昭和52年4月 北海道開発庁採用
平成 7年6月 同 北海道開発局小樽開発建設部 小樽道路事務所長
平成 8年5月 同 北海道開発局長 官房開発調整課防災対策官
平成10年4月 同 北海道開発局 網走開発建設部次長
平成11年7月 同 地政課事業計画調整官
平成13年1月 国土交通省北海道局地政課 事業計画調整官
平成13年7月 同 北海道開発局建設部 道路建設課長
平成14年8月 同 北海道開発局 建設部道路計画課長
平成16年7月 同 北海道局地政課長
平成18年7月 同 北海道局参事官
平成20年8月 同 大臣官房審議官(北海道局)
平成22年8月 同 北海道開発局長

▲明治37年7月 石狩川洪水氾濫実績図
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 土木工学の充実は社会全体の発展と一体不可分であり、私たちの生活の基盤を確固たるものにする極めて重要な要素です。北海道の開発の歴史と土木の果たした役割を念頭に置きながら、今後の方向性を考えていくことが肝要です。

  北海道の開発と土木技術
 北海道の開拓/開発の歴史は新しく、明治2年(1869年)に政府が開拓使を設置してから本格的な開拓が始まりました。以来、140年余りの間に、当時僅か5万人余りの人口が550万人に増加し、経済規模もヨーロッパの一国に匹敵するほどに成長を遂げてきました。
 未開の地を切り開いた開拓初期の段階には、外国人技術者が活躍しました。明治6年に完成した札幌本道(函館・札幌間の本格的馬車道)にはワーフィールド、明治13年に開業した幌内鉄道(小樽市?札幌)にはクロフォードなど開拓使顧問として来日したアメリカ人土木技術者の功績によるものであります。
 北海道における開拓/開発の大きな特徴として、総合的な計画(策定)制度が上げられます。明治5年開拓使により策定された「開拓使十年計画」、明治34年に策定された「北海道10年計画」、明治43年及び昭和2年に策定された「第1期、第2期拓殖計画」、現在の「北海道総合開発計画」など、地域開発政策を進めていく上で、「開発計画」が定められており計画に基づく政策の推進が図られてきています。
 北海道における開拓/開発に際して、土木技術者を始めとする先人たちは、幾多の困難を乗り越えて今日の北海道を築き上げてきております。北海道は日本の最北にあって、積雪寒冷の過酷な気象条件や広範囲に分布する泥炭性軟弱地盤など厳しい条件下にあり、多くの技術的課題を克服してきました。
 北海道の河川は泥炭性軟弱地盤が石狩川、十勝川など主要な河川の下流域に広く分布し、高度の土木技術を必要としました。河川沿いの低湿地を耕地化するための排水促進、洪水氾濫防止が必要とされましたが、明治末期までに実施された工事はわずかであり、たびたび洪水被害に見舞われました。軟弱地盤対策、漏水対策として効果の高い大断面堤防の採用などをはじめ洪水氾濫を抑制する技術を積極的に取り入れてきました。

▲明治37年7月 洪水 滝川市街地の状況


 第1期北海道総合開発計画で注目されるのは昭和30年に着手された篠津地域泥炭地開発事業および根釧地区機械開墾建設事業(パイロットファーム)です。当時、政府の財政緊縮のもとで事業を促進するため、世界銀行からの借款による事業でした。根釧パイロットファームは寒冷地にふさわしい酪農を柱とする経営計画を導入し、従来入植者の人力、畜力で行ってきた開墾を機械によって実施するなど画期的な試みでした。これを契機として開拓事業は機械による開墾に転換されています。
 北海道の道路構造の問題に対する幕開けは一般国道36号千歳〜札幌間(34.5km)の改良・舗装工事で、アスファルト舗装の道路としては当時、日本で最長のものでした。この道路は戦後初めての本格的自動車道であることや、わずか1年余りの短期間で完成させたことから「弾丸道路」と呼ばれ、凍上対策、アスファルト舗装の普及、自動車道路構造の前進など道路技術上の課題に対し現代道路の先駆的な役割を果たしました。
 以上は北海道開発黎明期の土木技術のごく一部でありますが、勿論これらの他にも、青函トンネル、白鳥大橋、苫小牧港、新千歳空港などのプロジェクトをはじめ、数多くの先駆的な土木技術が先輩諸兄の開拓者精神に基づく不断の努力と道内外の多くの方々の支援によって試みられ、大きな成果をもたらしてきました。

                     ▲推奨土木遺産 生振捷水路(竣工1931年) ▲推奨土木遺産 旭橋(竣工1932年)


未来社会を築き上げる土木技術
 今日、東アジア地域の急激な成長等グローバル化の進展、人口減少や少子高齢化、地球環境問題の深刻化など、時代の転換期を迎えています。「右上がりの成長」を基軸とした時代から、サステイナブルな成熟型の社会・時代へと転換していくことが求められていると考えられます。
 このため、今後、土木技術に関しても、グローバルな時代に即した効果的なネットワークの形成、地球温暖化対策をはじめ環境・エネルギー分野の取り組み、安全・安心の確保など、時代に呼応した取り組みの必要性が高まっています。これらの取り組みに向けて、従来の土木技術の延長線上で対応することが難しい事柄が想定されます。技術領域に関して、さらに学際的な領域への取り組みが求められていると考えられます。また、このような学際的な領域への取り組みに際して、官公庁や民間企業等の個別的な取り組みのみならず多様な主体との連携協働等により一層の成果をあげていくことなどが期待されます。
 土木の日(11月18日)は、土木技術者のみならず、国民各層においても土木との触れ合いを通じて、土木技術および土木事業に対する認識と理解を深めていただき、社会資本整備の意義と重要性について幅広いコンセンサスを形成するため、土木学会が定めているものです。現在、土木を取り巻く環境には厳しいものがあると思いますが、土木技術者は、昨今の社会の要請等をふまえ不断に技術研鑽、技術習得に励むと伴に、技術者倫理に基づく業務遂行により、より良い未来社会を築き上げていくための一層の取り組みが期待されているものと考えています。

▲世界初の防氷堤(サロマ湖のアイスブーム) ▲札幌駅前通地下歩行空間の完成予想図

11月18日は「土木の日」
北海道の土木事業に貢献します

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