建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2010年9月号〉

interview

市民視点・利用者視点を念頭に下水道事業の経営に取り組む

―― 次世代へ蓄積した技術の継承に努める

札幌市建設局 理事 吉岡 亨氏

吉岡 亨 よしおか・とおる
昭和31年11月2日生まれ
昭和55年 3月 北海道大学工学部衛生工学科 卒業
昭和55年 4月 札幌市採用
平成14年 4月 下水道局建設部技術開発担当課長
平成15年 4月 下水道局建設部計画課長
平成18年 4月 手稲区土木部長
平成20年 4月 建設局土木部道路工事担当部長
平成21年 4月 市民まちづくり局理事
平成22年 4月 建設局理事(現職)

 大正15年に始まった札幌市の下水道事業は、昭和47年の冬季オリンピック開催を契機として整備に拍車がかかり、昭和45年には20%足らずだった処理人口普及率は、現在99.7%に達し、ほとんどの市民が下水道を利用している。これは全国の政令指定都市の中でも大阪市、東京都区部、北九州市、横浜市に次ぐ高水準で、このため下水道整備は普及促進(一般整備事業)から改築・更新事業の時代に入っている。環境負荷のさらなる低減も視野に入れつつ、水質改善事業や下水道資源の有効利用について、下水道事業のトップである吉岡亨理事に抱負等を伺った。



――札幌市は昭和47年の冬季オリンピック開催の決定を機に下水道整備事業など都市基盤が一気に進展しましたが、理事が学生時代の頃は既に水洗化されていましたか
吉岡 当時は水洗化が進み洋式便器のブームになる頃でした。私は工学部衛生工学科に進みましたが、既に環境の時代と言われており、都市の進展とともに環境を守る研究をしたいと考えていました。
――当時の恩師は国際的な水環境学者として著名な丹保憲仁教授(元・北大総長)でしたね
吉岡 「近代文明の大量に画一にというシステムは限界にきており、環境負荷の小さなシステムが必要になる」という考えを、俯瞰的・史観的に講義されていました。  上水工学講座を担任され、当時から水道界では著名な先生でしたが、専門分野に限らず環境問題全般に対する先生の社会学的・歴史学的な講義を興味深く受講していました。大学で学んだことを生かすために、行政の分野が最も相応しいと思い、公務員の道を選びました。
――丹保先生からは札幌市の下水道事業への提言やアイデアを受けたことは
吉岡 直接はありませんが、これまでも「上流で水を採取し、下水道を経由して下流に処理場があるという従来のシステムではなく、中間に小規模な処理場を分散させる仕組みづくりが必要ではないか」など色々と発言されており、常に耳目をそばだてチェックしています(笑)。今年には北海道立総合研究機構の初代理事長に就任されましたし、北海道の知的リーダーとして今後ともご指導いただければと思います。
――当時の下水道事業は盛んでしたか
吉岡 面接では「大学で学んだ水道の技術を生かしたい」と話したところ、当時の札幌は水道の普及率が既に90%を超えていましたから、面接官から「東南アジアの市を受けた方が良い」と厳しいことを言われました。結果として下水道局の計画部門に配属されました。  当時の下水道普及率は80%程度で、札幌オリンピックを契機に下水道の普及促進を図っていた頃でした。大変に活気のある職場で、管路工事部門は4課ありました。いまは1課しかありませんが。??
――入庁以来、30年の間に下水道処理技術は格段の進歩を遂げたのでは。札幌市の下水道の現況について伺いたい
吉岡 市内を10の処理区に分け、それぞれに水再生プラザ(処理場)を設けて下水を処理しています。10箇所の水再生プラザで処理する下水の量は1日100万m3。これは200gのドラム缶で500万本に匹敵します。水再生プラザのほかに17箇所のポンプ場、汚泥処理施設の東部スラッジセンター、西部スラッジセンターなどが稼動しています。  これらの施設における水処理や汚泥処理の技術は進歩し続けており、部品単体の技術革新のみならず、処理システムとしての効率化・省エネ化が進んでいます。
▲創成川貯留管(φ5.00m)の内部(施工時)豊平川貯留管はφ4.25m
――――近年の目玉事業としては豊平川雨水貯留管でしょうか
吉岡 ロンドンやニューヨークもそうですが、歴史的に大都市は経済効率も考えて、雨水と生活排水を1本の管で集める合流式下水道で整備されてきました。しかし、合流式では大雨時に流れる下水を処理場で処理しきれません。このため、雨水で希釈されたとはいえ、一部の下水を未処理のまま河川に直接放流せざるを得ないという問題があります。札幌市でも整備区域の60% が合流式なので、雨天時や融雪時の直接放流による水質汚濁が問題となっています。そこで水質汚濁の負荷を分流式下水道と同程度に改善するため、汚れた雨水を一時貯めて処理・放流する施設として、平成3年度から茨戸水再生プラザで雨水滞水池(19,600m3)、9年度から創成川処理区で貯留管(46,400m3)、15年度から伏古川処理区で貯留管(32,000m3)の整備を行ってきたところです。  豊平川処理区の貯留管(24,000m3)は21年度に着手し、25年度までに整備を終える計画です。白石区平和通地区、北郷地区等の浸水対策にも活用します。22年度は約10億3千万円の事業費を投じます。
――下水道の資産価値はかなりの規模になるのでは
吉岡 いままでの投資額は1兆円、資産は減価償却を差し引いても8千億円規模になっています。施設の耐用年数を一律50年としても、都市システムとしての下水道を維持していくためには1兆円を50で割った200億円規模の年間予算が必要とも言えます。
――整備から維持管理にシフトする上では、既存施設の長寿命化が重要なポイントになりますね
吉岡 普及促進の「整備の時代」から確実な機能維持の「維持管理の時代」に移り、年間建設予算147億円のうち、ほぼ半分の72億円を管路や処理施設の「改築・更新・再構築」に投じています。その意味でも日ごろの保守点検と簡易な修繕を怠りなく、効果的で効率的な維持管理により施設の延命化を図っていくことがますます重要になります。
▲札幌市下水道事業の情報発信基地 札幌市下水道科学館(創成川水再生プラザ)
――下水道事業者として最も重点的に取り組んでいることは
吉岡 下水道は、快適で安全な市民生活や都市の社会経済活動を支える必要不可欠なインフラの一つであり、安定的・計画的な事業経営が求められます。このため、現在5年間の中期経営プラン(平成19年度〜平成23年度)に基づき事業を推進しているところです。平成9年度の料金改定は4年間の予定でしたが、汚泥処理の集中化など経営効率を図るなかで、12年間据え置いてきています。今後とも着実な事業経営が求められる中、次期中期経営プラン(平成23年度〜平成27年度)の策定を進めています。  また、下水道事業はどうもPRが下手だと言われており、情報発信力も課題です。シビルミニマムがほぼ達成され、「あって当たり前」の下水道への関心が薄らいでいくなか、今後ますます増加してくる改築更新事業だけでなく、一刻たりとも休むことのできない施設の維持管理、将来に渡り良質な下水道サービスを提供し続けるための堅実な財政運営など、下水道事業全般について、その重要性を今までにも増して強くアピールしていく必要があります。
――環境問題も課題の一つですね
吉岡 もともと下水道は環境保全事業であり、環境貢献へのポテンシャルは大きいと感じています。汚泥のエネルギー化など環境貢献への道を探りたい。いまは焼却炉で汚泥を燃やし、年間2万t発生している焼却灰は100%コンクリート骨材などにリサイクルしていますが、焼却炉もいずれ更新の時期を迎えますので、そういう機会に汚泥を燃やさないでクリーンエネルギーとして打ち出せないかなど、新たな有効利用を調査研究しているところです。
――今後に向けて、下水道担当理事に就任しての決意のほどをお聞かせください
吉岡 22年度末で3,110億円の企業債残高を抱えるなか、一般会計、企業会計とも厳しい財政事情ではありますが、「選択」と「集中」により安定的・計画的な事業経営に努めます。また、蓄積してきた技術、ノウハウを手元に持ちながら次世代へしっかりと継承していくことを考えたい。  今後とも下水道サービスを提供する「企業」としての公益性・経済性を発揮させることは勿論のこと、市民視点・利用者視点での十分な説明やPRを心掛けながら、職員一丸となって下水道事業の経営に取り組んでいく所存です。

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