建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2010年9月号〉

interview

北海道の成長戦略と生き筋はどこか(後編)

―― 地場建設業が生き残るための戦略は何か

北海道建設部長 宮木 康二氏

宮木 康二 みやき・こうじ
昭和27年 8月8日生まれ 室蘭市出身
最終学歴
北海道大学工学部土木工学科
職歴
昭和54年10月 北海道庁採用(小樽土木現業所)
平成13年 4月 建設部参事(北海道エアシステム取締役)
平成16年 4月 建設部道路計画課長
平成17年 4月 留萌土木現業所長
平成18年 4月 建設部技監
平成19年 6月 後志支庁長
平成21年 4月 建設部長

 22年度の公共投資予算を、前年度より2割以上もカットするという異常な予算編成を強行した民主党政権は、地方分権によって直轄事業を廃止し、予算負担をカットするという将来像を提示している。その場合、全国の地方整備局が解体され、財源と業務権限が都道府県に移譲されることになるため、反面では地方自治体の裁量権の拡大が期待される。経済構造もインフラ整備の進捗度も一様ではない国土で、全国一律の国土整備を進めるのは、ひたすら衰退を続け、細り行く国民経済から得られる乏しい財源では限界がある。それだけに地方分権は時代の要請であり、各地域の国土条件や経済・産業構造に合わせた投資が行われるのは理想だが、その具体的な道筋や手順はいまだ示されないままだ。そうした国家レベルでの展望がない情勢の中で、北海道が生き抜くための投資分野は何か。地域経済を支え、防災に貢献する建設業に生きる道はあるのか。前号に続いて宮木康二建設部長に語ってもらった。

(前号続き)

――全国の自治体が地方分権に期待感を高めていますが、具体像がなかなか見えませんね
宮木 国と地方の役割について、全国知事会は高規格幹線道路は国が整備し、それ以外は河川も含めて都道府県が分担するとの考えを表明しています。  その場合に重要なのは、地方の財源がしっかりと確保されることです。  北海道は、人口比率で1/20、面積は国土の1/5という状況のなか、国家予算のおおよそ1/10程度の北海道開発予算が配分されてきましたが、国の制度や施策が大きく変わっていく時代の流れの転換期にあるので、的確にその情勢を把握し、迅速に施策に反映させていかなければなりません。
――民主政権の政策は、公共投資削減による建設産業の切り捨てであり、建設産業への依存度の高い「地方」の切り捨てでは
宮木 建設産業が、地域の雇用と経済を下支えしているのは、紛れもない事実です。今年度は、北海道開発予算削減による影響を最小限にとどめるため、道財政が厳しい状況ではあるものの、単独事業を最大限確保し、全体では対前年度比97%となる事業量を確保しました。また、来年度以降、どうなっていくのかという展望がなく、危機感を持っているところです。  7月下旬に中央への要請活動も行ってまいりましたが、大きな課題は、国による高規格幹線道路の整備促進です。各地域の期成会からも要望が寄せられており、それらを踏まえて、道としての要望を私自ら国に伝えてまいりました。  公共事業の大幅な削減が、今後はどうなっていくのか、前原国土交通大臣は22%の削減を達成したので、来年度はこれ以上は削減しない意向を表明していましたが、概算要求基準ではマイナス10%のシーリングとされており、今後、新たに経費を要する課題が生じたなら、やはり公共事業は真っ先に削減対象となることが懸念されます。そのため、なかなか将来像が見えないという不安が拭えません。現状では、事業予算がピーク時の半分以下という状態であり、今年の年頭は補正予算で辛うじてしのいだという状況ですから、本当の厳しさはこれからかも知れません。  道としてもソフトランディングなどの支援を行っておりますが、今日の潮流が変わらない限り、建設業界も異業種参入などを視野にいれた経営戦略が必要となってくるでしょう。
▲観光拠点へのアクセス道路の整備 倶多楽湖公園線(登別市)
――建設業界は各地の自治体と防災協定を結び、自然災害などが発生した場合には迅速に出動する役目を担っています。需要に合わせて合理化し、業界のスリム化も必要ですが、減りすぎた場合の影響も懸念されるのでは
宮木 公共投資とのバランスの問題です。財源が厳しい中で、道単独の事業予算だけで現在の業界規模を維持していくのは無理ですから、やはり国の補助事業などが必要です。しかし、そのベースがどうなっていくのかが鮮明にならなければ、明確な展望も持てません。  地域の建設業は地域経済や雇用の確保など重要な役割を担っており、地域の発展のためにも、維持・発展して欲しいのですが、最近の公共事業の削減を受けて、大変厳しい状況にあります。  このような中、今後、災害復旧対応は、もちろんのこと、これまでに整備した土木施設の維持・管理がますます重要になってきますから、それぞれの地域における建設業にその役割を担っていただかなくてはなりません。  このため、道では、最低制限価格を引き上げたほか、地元企業の受注機会の確保などを図るため、総合評価方式の見直しなど、入札制度の改善に取り組んできております。  また、今後、公共事業がどのようになるのか、よく分かりませんが、最近、温暖化の影響なのか、ゲリラ豪雨などによる災害が多発しており、地域の安全と安心のためには、社会基盤整備は続けていかなければならないと思いますし、それを担う行政としての使命はまだまだ重要なものと思っています。
――予算配分においては、採算性が低い分野を排除する視点もありますが、ビジネス上の採算ベースでカバーできない分野を担うことが、公共の本来の使命だったのでは
宮木 その意味で、現代は公共の役割が問い直されているのだと思います。自由化と規制緩和が進む中で、企業は経済原理で考えますから、そこで取り残されてしまった部分は公共で補っていくことが必要だと思います。そのためにも財源が必要で、それをいかにして生み出していくのかが課題ですが、国も道もあまりにも厳しいですね。  先般、国の成長戦略が出されましたが、今後どうなるのか、道としてはその動向を見極めて重点投資の対象を選択していくしかありません。今までは長期計画に基づき淡々と整備を進めていけば良かったのですが、今後はその目的と効果を明確に見定め、地域産業や経済を発展させ、また地域の安全や安心を確保するためのインフラ整備を行う必要があります。
▲観光など地域活性化に資する河川の整備 釧路広域河川改修事業〜ふるさとの川整備事業〜(釧路市)
――従来は国も地方も互いに整合性を持たせた長期計画を独自に策定し、そこに描かれた将来像を実現するために必要な公共投資の総量を算出することもできました。それを基準に、建設業界の適正な規模を計り、業界目標を提示して誘導することができるのでは
宮木 昨年の政権交代によって、そのシステムが変わってしまいました。これまでのように長期計画を作ることになるのかわかりません。ただ、先般、国が作った成長戦略を踏まえて、地方が重点投資すべき分野を、独自に検証していくことが必要だと思います。。  そのためには地方分権がいつ、どこまでの範囲で実施されるのかが大きなポイントになります。地方分権によって、地方が国に代わってインフラ整備を担うとなれば、地域での成長戦略に基づいてそれを実現することは可能なのです。北海道の場合では、重要な成長分野は「食」と「観光」「環境」などですから、そこに重点投資することになるでしょうし、最近は特にアジア・中国からの来道者が増加していますから、「観光」をテーマとした道路整備などは特に必要となります。
──疲弊しきっている全道の建設業者へのメッセージはありますか
宮木 本道の建設業は、良質な社会資本の整備や維持管理、除排雪や災害への対応など道民生活の基盤を守り、雇用の場を提供する重要な基幹産業であり、今後とも地域づくりの中心的な役割を担っていくことが一層期待されています。  また、環境を重視した環境型社会に対応した省資源・省エネルギー化や、少子・高齢化に対応できるよう優れた人材の確保・育成など、社会経済情勢の変化に対応した不断の経営改革を着実に進めていくことが大切です。  また、公共投資が削減される中、経営の効率化はもとより、新たな成長分野への進出なども本格的に検討する時期が到来したと思います。  道ではこの様な建設業の取り組みを支援するため、本庁及び各総合振興局・振興局に「建設業サポートセンター」を設置し、本業の強化や新分野進出への支援を行っているので、ご活用いただきたいと思います。  建設業の皆様は、現在、大変厳しい経営環境にあるとは思いますが、産業としての魅力の向上を図り、本道の建設業の発展に努めていただきたいと思います。

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