建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2010年8月号〉

interview

道内の橋梁技術の最高峰 豊松吉工業がトップ交代

―― 突出することなく着実な経営で本業に専念

豊松吉工業株式会社 代表取締役社長 鈴木 純一氏

鈴木 純一 すずき・じゅんいち
昭和48年3月 北海道大学工学部土木工学科 卒業
職歴
北海道庁 帯広土木現業所鹿追出張所
函館土木現業所事業部道路建設課長
監査委員事務局技術監査課技術監査主幹・技術主監
釧路土木現業所副所長兼企画総務部長
建設部道路計画課参事兼高速道室長兼市町村道室長
総合企画部政策室参事
総合企画部次長
総合企画部計画室長
建設部参与(苫小牧港管理組合専任副管理者)
豊松吉工業 株式会社
札幌市南区澄川2条1丁目4番11号
TEL 011-812-6605

 橋梁施工においては他社の追従を許さぬ実績と技術力を誇る豊松吉工業鰍ヘ、先代堀典昭社長の逝去により、この5月から鈴木純一社長が遺志を継ぐこととなった。建設業界は、国を挙げて前代未聞の冷遇、排斥の渦中にあるが、先代と次代のオーナー・堀有紀専務の考えに基づき、業界秩序を重んじつつ、身の丈に合った経営を心がけ、実力の範囲で地域に最大限の貢献をしていきたいと語る。

――代表取締役として就任されましたが、どんな運営を考えていますか
鈴木 私の人物像は、2年間の身近での勤務を通じてスタッフも心得ていると思いますが、基本は前社長の「公共事業を通じて、社会の未来に貢献していこう」という基本精神を引き継いでいく考えです。前社長は面倒見の良い思いやりのある人柄でしたので、そうした長所を大切に引き継いでいきたいと思います。  そして、社内はスタッフが安心して活躍できる環境づくりを心がけたいと思っています。スタッフはみな若くて勢いはありますが、現場と内勤スタッフとの接点が少なく、コミュニケーションが不足気味であることを感じます。実際に現場スタッフと話してみると、本当はもっと伝えたいことがあるのだということが分かりますが、お互いに遠慮し合っている様子が見られます。もっと気さくにコミュニケーションをすれば、お互いに有益な情報などを共有できるようになると思うので、私は会社代表者として、その繋ぎ役を果たす必要があると考えています。また、営業に反映させる意味では、営業担当者が仲介するのも良いでしょう。
──公共投資は削減続きで、10年以上が経過し、さらに民主党政権による常識外の削減で命脈も断たれるかと思われる今日の状況ですが、どのように情勢分析していますか
鈴木 国、道、市の事業が減少していく状況で、道の施策の受注に特化していくべきか、まだ方針について整理しきれていないというのが現実です。私たちは、現場に人が立ってはじめて収益に結びつくもので、今年のように春先から工事があまり発注されず、施工スタッフがみな社内にいる状況では、経営者としては胃が痛くなります(笑)  公共事業不要論はありますが、公共事業そのものが不必要ということは絶対にないと思います。私自身が道で開発予算を担当する部署に勤務し、事業の必要性や重要度を考慮して評価する任務に携わっていましたが、公共事業の必要性は変わらないにしても、公共投資以外で国や道が執行すべき行政分野は増えてきているため、相対的な評価という面ではやむを得ない面もあるとの感想は持っていました。  とはいえ、すでに整備されたインフラの疲労度が見えてきており、特に道路は橋梁が老朽化して使えなくなったのでは、効用がなくなってしまいます。そのため耐用年数に限界がくれば改修も必要ですから、そうした維持・補修における公共事業の必要性は依然として高いものであり、形を変えた公共事業として今後ともさらに高まってくるものと思います。
──民主政権の施策から見ると、全国ベースのゼネコンは海外市場での受注展開へ仕向けようと誘導しているように見えます
鈴木 大手と地場企業の役割分担は、実際はまだまだ過渡期の段階で、本来は地場企業に任されるレベルの工事との棲み分けが必要ではないかと思っています。そもそも、建設業界の企業数がまだまだ多すぎるという現実があります。事業費削減と企業努力がセットで進めば良かったのですが、お陰様で補正やゼロ国債などで対処していただいために、企業側に危機がなかったのも事実でした。
▲札幌土木現業所:夕張岩見沢線交付金4改築(翌債)工事
豊松吉工業樺P独
▲札幌土木現業所:美唄浦臼線美浦大橋新設(上部工)(国債)工事
豊松吉・菱中・沢田特定JV
──その動向を視野に入れながら、どんな営業戦略を考えていますか
鈴木 以前からそうした維持・補修分野に営業の比重を置く方向性を志向していたので、そこに生き残る道があるものと考えています。お陰様で、当社は橋梁の施工、維持・補修に特化して施工実績を残してきたことから、全国規模の大手企業とは比較にならないまでも、中堅企業の技術力としては一日の長があると自負しており、それを活かしていければと思っています。
――この8月を以て、国交省は北海道局を廃止して組織を改編することになりましたが、本道の建設経済にとって影響が大きいのでは
鈴木 一番問題となるのは、予算の一括計上権がどうなるのかと言う事ですが、一括計上権がなくなるとなれば、道民も大人しく受け入れることはないと思うので、実現は容易ではないと思います。  ただ、企業の立場としては、そうした最悪のシナリオも想定しなければなりませんが、我々としてもそうならないように努力したいと思っています。
──国も自治体も長期計画から今後の公共投資の総量を積算すれば、それに見合った業界規模が算出されて、具体的な努力目標を持つこともできるのでは
鈴木 建設事業は、長期的な目で見た公共投資の一方で、短期的な景気へのカンフル剤としての即効性が高いのは明白なので、途中で景気が悪化すると計画外の事業が執行される場合もあり、そのために業界全体としての再編への取り組みに甘さを残したまま続いてきてしまったということでしょう。
――企業として、事業者への要望はありますか
鈴木 現代は入札手法がいろいろ改革されてきました。かつては指名競争入札が行われ、工事が完成するまで責任を持って施工に当たるのが通例でした。ところが、現在は、施工の途中でも完工を見ないままに他の業者とバトンタッチすることが普通になっています。この結果、現場と地域との接点が少なくなり、関係が希薄になってしまっています。これで本当に良いのかと、私は疑問を感じています。  現場を任されて、せっかく地域の人々と良い関係を築き、施工をスムーズに進めているのに、来年もその現場に留まれるかどうかは分からないという状況ですから、もう少し落ち着いて現場に取り組めるよう施工の継続性を入札制度の中で考慮して欲しいと思っています。  入札制度について言うなら、指名競争入札は、指名する企業を人間が選択するアナログ的手法だったのが、今日では総合評価方式というデジタル的手法に変更されてきましたが、システムとしては完全ではないので、今なお試行錯誤しています。これに伴い懸念されるのは、発注者側においては発注業務に関わる作業や手続きが膨大となり、本来の業務でないところに労力を取られているのではないかということです。
▲札幌土木現業所:雨竜川幌加内町基幹河川改修(国債)1工区 豊松吉工業樺P独
――しかも、人員削減を進めているので人手も足りず、企業の技術力を評価したり、工事検査に当たって必要な知識や分析力などのノウハウを持つ職員が減らされ、技術の継承が危ぶまれる声も聞かれます
鈴木 責任施工という観点でみれば、現場を任された以上は不適切な施工は一切、許されませんし、得意技術の分野も明確になってきているので、ある程度は企業に任せなければ人員不足をカバーしていけません。  しかし、総合評価に手を取られすぎている印象があり、発注者側としても、もう少し施工現場に目を向けても良いのではないかとは思います。
――困難な時代を迎え、業界再編の必要性も論議される中で、豊松吉工業としてはどんな企業であり続けようと考えますか
鈴木 会社としての今後の進路については、新分野への参入などいろいろな選択もあるでしょうが、オーナーである堀専務も私もともにそうした異業種へ参入する考えはなく、建設業において当社が得意分野としている橋梁技術に特化していこうというのが基本方針です。  営業エリアも、現在は道内で満遍なく確保されているので、背伸びをして本州にまで手を伸ばすのは無理だと思います。むしろ、私たちはあまり利己主義になることなく、不必要に突出するようなこともせず、業界内の均衡と秩序を大切にしていく考えです。  これは発注者との信頼関係を維持する上でも重要なことで、無理な背伸びをするのではなく、持てる力に応じた仕事を考えると、自ずとこなせる業務量も決まってきます。その範囲において、最大値の仕事が確保されるのが理想的だと考えています。  これが前社長の理念であり、そしてオーナーの意思でもあり、私の方針でもあるのです。
会社概要
設立:昭和51年1月20日 豊建設工業株式会社を設立
沿革:平成13年4月1日 旧松吉工業株式会社を吸収合併し、社名を豊松吉工業株式会社に変更
資本金:3,800万円
業務内容:
 特定建設業許可番号 北海道知事許可(特-18)
           石第06082号
 建設業の種類 土木、とび、土工、鋼構造物、造園、水道施設
社員数:42名
支店:函館

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