建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2010年7月号〉

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世界でNo1の演算処理技術を誇るスーパーコンピューター開発実施本部研究棟施設

――日本の技術力のシンボル的研究所を整備

(独)理化学研究所 スーパーコンピューター開発実施本部研究棟


 スーパーコンピューター開発実施本部研究棟は、第3期科学技術基本計画で「国家基幹技術」として位置付けられた次世代型スーパーコンピューターの運営、研究部門を擁する施設を構築するものだ。計画では、世界で最高速の演算速度を誇る次世代型スーパーコンピューターを、より有効に活用すべく、そのグランドアプリケーションを開発するための研究施設としての役割と、世界最高水準のスーパーコンピューテイング研究教育拠点(COE)の機能を併せ持つ研究所の創設を目的としている。このため建築にあたっては、構想基盤を世界基準に則って、効率性、アメニティー、先進性などの全ての要件を包括すると同時に、人間工学、環境工学をも踏まえた最新のラボラトリーデザインを目標として計画された。

▲スーパーコンピューター開発実施本部研究棟 パース


 研究棟の設計に当たっては、スーパーコンピューターを視覚的にどのように見せるかを検討し、ラボラトリーデザインと相互交流のあり方について考慮された。また、ランドマークとしての建築デザインを実現するとともに、LCCの低減対策を実現することなどを設計の基本コンセプトとしている。
 これに基づき、「スーパーコンピューターを視覚的にどのように見せるか」については、共用法に基づくスーパーコンピューターへの理解増進のため、見学者対応の充実に配慮している。見学者ロビーを設け、各種の展示や見学者用シアター、スパコンを一望できる見学者用ステージを設置。また中高生も対象とした、100〜150人程度の見学者にも対応できる階段型ホールを提供。さらに外部からもスパコンがイメージできるように、外壁部分はガラス面とし、外観的にも内部空間との連続性を強調するデザインとなった。
 「ラボラトリーデザインと相互交流のありかた」においては、研究目的が特定された既存の研究所とは異なり、多様な研究分野からの研究者の参加が予想され、また産業界においても多岐にわたる業種からの参加が予想されるため、その雑多な交流の中から新しい発見や、異色の新技術開発の着想が得られることを期待している。そのためには研究者間の交流が、より自然な生活動線の中で平面的に行われるだけでなく、3次元的にも同様の効果をあげることが重要であることから、建築的な配慮によって有効性を高めよう工夫されている。
 また、多様な人材を集客するためには単なる研究スペースではなく、より付加価値のある研究環境の提供を目指す。そこで、山・海の恵まれた自然景観を最大限に活用した研究環境の提供を目指し、外観と内部空間の連続性・自然と融合した開放的空間を創出するため、外壁にはガラスを採用した。こうした研究環境の充実は、研究成果にも大きく影響を及ぼすものとなる。
 「ランドマークとしての建築デザイン」については、世界最速のスーパーコンピューターであるがゆえに、世界中から注目されることから、研究所の建築デザインは文化の表現にもなり得る。その場合、建築のコンセプトは国の文化の熟成を表すものとなり、民族の感性をも体現することになる。一方、立地場所は神戸港の入り口に位置するため、デザイン性は景観的側面からも重要な要件となり、従来の研究所が持つ機能性に特化した無機質の外観条件とは異なるイメージが必要とされる。そして、ランドマークとしての建築的主張は、スパコン自体の存在感とも連動して、知名度の向上による社会的な認知度を増すことにつながる。
 その結果、世界随一の研究所に勤務する研究者やスタッフのステータスとなり、自信とプライドを持たせると同時に、優れた研究者の招聘や学会開催などにより、学術的・文化的・経済的な波及効果が生み出されることも期待できる。したがって、同研究所はそうした多面的な効果を考慮して設計されている。

LCCの低減対策
 一方、施設の管理・運用においては、ライフサイクルコストの低減がいまや至上命題というべき時代の要請で、Co2削減とともに熱源の再利用などの具体的な方法を実践し、社会に提言する方針だ。
 そこで、省エネルギーに配慮し、建設時及び竣工後のエネルギー消費の少ない建物とするほか、環境及び健康に配慮し、エコマテリアルを採用する。また建築廃棄物、建築副産物を極力減らし、無駄のない計画としている。
 施工にあたっては、研究の場であると同時に、研究者の生活環境の整備も必要とされる。研究所としての機能は、想定人員300人程度が十分な生活環境を維持できる規模とし、構造は計算機棟との連続性から免震も考慮する。また20チーム程度を想定し、各チームの相互交流を重視した新しい形の内部空間を創出する。さらに各産業界からの参加も考慮に入れ、動線、セキュリテイ―にも配慮し、空間イメージとしては、木質系などの素材によるやわらかい内部デザインとした。
 各研究室においては、1チーム10人〜15人程度で20チーム分を予定し、TL室は個室対応とする。執務スペースについては、事務室、所長室、応接室等の事務部門(50〜100人程度)を配置し、70人収容のカフェテリアを用意する。また、COEとしてふさわしい教育、研修用施設としてサテライトルーム、大小講義室、ゲスト研究室等を確保する。
 その他、ビジュアリゼーションルームや、100人程度の規模の登録機関用事務室と、各フロアーにはラウンジを確保し、100人〜150人収容の階段型ホールを整備し、さらに居室等も整備する。
 構造計画においては、基本方針として建築基準法等法令を遵守した安全で堅牢な施設とし、臨海地域の建物として塩害対策を考慮。台風等の自然災害にも耐えうる建築物とする。また、高潮や地震による津波等にも配慮するほか、地盤改良を前提とするため改良範囲、改良深度等の免震構造を踏まえて検討された。
 設備計画の基本方針としては、トップランナー機器の採用など省エネルギーに十分配慮した設計とし、新エネルギー等の採用も検討した。また、加速器の安定稼働のために、気象条件など外乱の影響を受けにくく室内環境を一定に保つ設備としている。
 電気設備計画においては、受変電設備は高低圧変電設備を設置。電灯コンセント設備は一般電灯、一般コンセント、実験コンセント設備を設ける。動力設備は一般動力、実験動力設備を設け、弱電設備は構内内線電話設備、PHS設備、LAN設備を設置し、構内一体として運用可能とする。防災設備は消防法令に従った防災設備を設置し、構内全体の監視設備へ接続する。テレビ監視システムとしてLAN配線を利用したモニター監視システムを設置する。
 機械設備は熱源設備、建屋空調用熱源設備、実験用冷却水設備を設計する。空調換気設備としては、建屋空調換気設備を設け、放射線管理区域は法令を満たす換気量、室圧とする。衛生設備は給排水衛生設備を設計し、熱源設備及び必要箇所に都市ガス設備を設計する。
 防災設備は屋内消火栓、屋外消火栓等消防法令に従った防災設備を設置し、構内全体と統一的に運用可能な設備としている。


設計範囲
・研究棟建屋にともなう、建築、電気設備、機会設備、の基本構想、及び実施設計。
建築計画:延床8.000u程度(延べ面積は予算要求上の面積)
付帯設備:エレベーター、エスカレーター設備、セキュリテイ―設備


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