建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2010年4月号〉

interview

北海道サロベツ原野の「エゾ鹿肉」で新分野に進出

――地域の通年雇用確保に孤軍奮闘

株式会社 大建産業   代表取締役社長
株式会社 サロベツベニソン 代表取締役
 西森 功氏

西森 功 にしもり・いさお
昭和29年 3月31日生まれ
昭和53年 3月 東京測量専門学校 卒業
昭和53年 4月 葛、成建設 勤務
昭和54年 7月 椛蛹嚴Y業 専務取締役 就任
平成 1年 5月 椛蛹嚴Y業 代表取締役 就任
平成 3年 3月 葛、成建設 退職
平成 3年 4月 椛蛹嚴Y業 常勤の役員 就任
平成11年11月 椛蛹嚴Y業 代表取締役社長 就任
平成19年 7月 潟Tロベツベニソン 代表取締役 就任
平成20年12月 豊富土木運輸梶@代表取締役 就任
株式会社 大建産業
天塩郡豊富町字豊富大通12丁目
TEL 0162-82-2967

 道北に拠点を置く椛蛹嚴Y業の西森功社長は、とにかく忙しい社長だ。人口4,500人の豊富町で先代が建設業を興しつつも、父子2代で農業土木を中心に農協に続く地元の有力企業に育て上げてきた。建設業を中核とし、廃タイヤ処理、エゾシカ肉の販売にまで事業を広げ、新分野への進出に取り組むユニークな企業だ。そこには西森社長の明確な経営哲学に裏打ちされた理念がある。キーワードは「地域貢献」と「雇用確保」で、冬期間は失業保険の給付に頼り、期間雇用が当たり前の建設業界にあって、通年雇用を実現し従業員の生活の安定を目指している同社長に社業の現状などを伺った。

――会社の概要からお聞かせください
西森 大建産業は、昭和38年4月に創業しました。資本金は2,500万円。現在、特定建設業、一般建設業、一般貨物自動運送事業、産業廃棄物収集運搬業、産業廃棄物処分業、砕石業に携わっています。
 創業者は父で、高度経済成長時代は公共事業の受注が順調だったこともあって、当時は遠別町に自宅がありましたが、家庭で父の顔を見ることはほとんどありませんでした。
 父の影響もあってか、私は学校を卒業後、建設土木の葛、成建設(稚内市)に13年間お世話になり、現場代理人等の仕事をさせてもらいました。その後、専務として父の会社に迎えられ、10年前に後を継いだところです。一番忙しい時期は現場で過ごしましたから、宗谷管内の地形はすべて頭に入っています。サロベツ原野の客土工事では測量から施工まで担当していましたから、一年中仕事に没頭していました。
 昭和40年代当時は、冬期間に茨城県の現場へ会社を挙げて行っていました。共成建設での仕事が一段落すると、私にも茨城行きの声がかかりましたから、本当に休みなしという感じでした。
 先代から学んだことは、請け負ったお金は極力下請等の外に出さず、人件費と設備投資等に使い、残りは蓄えることです。利益を設備投資に回すことで徹底していました。現在は下請に発注することもありますが、仕事の幅を広げるように努めています。
――豊富町では有力企業に躍進しましたね
西森 豊富町の中で大きな団体は、まず豊富町、次いでJA豊富、その次が総勢54名の当社だと自負しています。
 しかし、私が社長に就任した時期は、既に公共事業の単価が下落し、なおかつ競争が激化してきた頃です。いま振り返っても社長として「今年は利益が出て良かった」と言えるような、いい年が一度もありません。相当辛い人生を歩むこととなりました。
 仕事の減る冬季は、失業保険の給付が会社としても助かりますが、従業員には1年間働いてもらえるよう、会社が働く場を提供し、従業員の生活を安定させることをメインに考えています。冬季は茨城に続き、6年前から栃木県にも就労の場を確保して取り組んでいます。個人が本州府県の会社に雇用されて行くのは「出稼ぎ」でしょうが、私どもは会社単位で茨城、栃木の会社の下請、孫請として施工し、検定後の手直しまで対応しています。
 10月にまず私が現地に飛び、先方と話を詰め、11月下旬から12月上旬の間に順次、従業員を送り込みます。本業の生活を賭けて1年中働くことを目指して取り組んでいることを、「出稼ぎ」という簡単な言葉で片付けられたくないと思っています。本州への移動経費や現地の宿舎経費に、かなりのコストをかけて行っている事業ですから。
 建設業界は半年間働いて120〜130万円から170〜180万円の収入を得るのが手一杯と聞いていますが、わが社は1年間働いて年収300万円以上を確保したいと考えていますが、日雇い契約者には350万円から400万円近く稼ぐ従業員もいます。
――新分野への進出事業として廃タイヤの中間処理事業に取り組んでいますが、どのような経緯で始めましたか
西森 稚内市が野積みになっている古タイヤの処理に困っているという話を聞きまして、旭川以北で処理施設がないこともあって、1億5千万円を投じて処理施設を整備しました。
 年間通して古タイヤを確保できるわけではなく、夏タイヤから冬タイヤへの交換時期に集中的に古タイヤを集めて処理したとしても、ビジネスとして成り立たないことは最初から分かっていました。費用対効果を考えると、やらない方がいいという結論はすぐに出ました。
 しかし、従業員や日雇い契約者の就業率がアップすることも考えました。春先や秋口の雨続きの時は現場が止まってしまうので、代わりにタイヤ処理の業務に就かせることを考えて、あえて踏み切りました。
 そして、2年目からコンクリート破砕の砕石業を始め、また切断した古タイヤを室蘭の製鉄会社等に燃料として出荷した後、帰り荷に苫小牧から飼料の運搬を請け負うことで、ようやく赤字から脱却しました。始めた当初は最終処分場から有償で納める方式が採用されましたが、近年は有価物として受入れ、料金収入が得られるようになり、昨年からようやく若干プラスに転じました。開業当初の6、7年は古タイヤの確保も含めて相当難儀をしました。
▲えぞシカの角煮 ▲えぞ鹿肉のジンギスカン ▲行者ニンニク入り鹿肉ソーセージ
――平成19年には株式会社サロベツベニソンを立ち上げ、シカ肉の製造販売を始めましたね
西森 エゾシカは、豊富町の農家さんから食害に対する悲鳴が上がり、町に「何とかしてほしい」との訴えがありました。17年にシカ肉の試食会が地元で開かれ、何とか有効利用が出来ないかという話が持ち上がりました。
 当時は古タイヤ事業が一段落したところで極力手は出したくないと思っていましたが、事業の受け皿になるよう町長からも強い要請があり、また農業土木主体の仕事で昔からお世話になっている農家さんがエゾシカの食害に困っていることであればということで、18年から先進地の道東方面に足繁く通い、調査の結果、引き受けることにしました。
 しかし、相当に苦労しています。自社の倉庫を改修し、解体施設と加工室を整備して営業しています。北海道庁策定の「エゾシカ衛生処理マニュアル」に添った衛生施設で、北海道エゾシカ協会推奨の清潔で安全に処理した食材です。
――シカ肉はコンスタントに入りますか
西森 年間通して安定的に供給できる体制を確立することが最も重要なので、囲いワナなどで捕獲したエゾシカの養鹿(ようろく)場も整備しました。警戒心の強い動物で、警戒を解きながら上手なワナを作る環境にもないのが現状で、生きたまま飼育する施設が必要です。
――本業については、最近の工事完成高はどう推移していますか
西森 公共事業はピーク時の半分程度ですが、元請しての受注のほか、下請として仕事を頂いており、工事量は大きく変動していません。ピーク時の2割減程度にとどまっています。
――当面は廃タイヤ、運送、シカ肉の4本柱ですか
西森 建設業は厳しい経営環境にあり、とにかくエゾシカ事業を早く軌道に乗せることが喫緊の課題です。
▲食肉処理業許可書 ▲食用油脂製造業許可書
――2月18日に札幌で開催された商談会に参加されたそうですね
西森 チェーン展開している食品関係の2社とコンタクトを取り、売り込みを図っているところです。「潮風を含む牧草」、「積雪寒冷地」、「スリムで脂身が少ない」の三拍子揃っているのは豊富のエゾシカです。広大な利尻・礼文・サロベツ国立公園で日本海の潮風を受け、ミネラルが豊富な牧草や木の実を食べて育ったエゾシカは、肉質もやわらかく理想的な食材です。血抜きのいいシカ肉は臭みがない。平成20年5月に、昔懐かしい缶詰クジラ肉を再現してみたいと思い、開発したのが「えぞシカの角煮」です。同年12月には、やわらかくヘルシーな「えぞ鹿肉のジンギスカン」も開発しました。昨年6月には、「鹿ロースハム」、「行者ニンニク入り鹿肉ソーセージ」も発売しています。
 東京・有楽町のどさんこプラザで販売を始めたところ、お陰様で好評を得ています。 今年からは学校給食の食材としてシカ肉を使っていただくことになり、少しずつ前進しています。稚内で3店舗、札幌は4店舗で当社の肉を使ってもらっていますが、地道に努力するしかありません。
――エゾシカ事業の企業化に要した諸費用は
西森 サロベツベニソンの立ち上げに資本金1,500万円、初期投資に4,300万円必要でした。
 エゾシカも廃タイヤ、コンクリート砕石事業も、すべて自前で立ち上げました。
 行政に対しては、エゾシカ対策の本腰を入れるとともに、安全なシカ肉を提供できる環境づくりを後押ししてほしいと願っています。

会社概要
創 業:昭和38年4月
資本金:25,000,000円
許 可:
【特定建設業】北海道知事許可(特-17)宗 第387号(土木一式、とび・土工・コンクリート、舗装、水道施設)
【一般建設業】北海道知事許可(般-17)宗 第387号(管)
【一般貨物自動車運搬事業】北自貨 第580号
【産業廃棄物収集運搬業】第0100045613
【産業廃棄物処分業】第0120045613
【砕石業】北宗 第28号

株式会社 サロベツベニソン 会社概要
天塩郡豊富町字豊富大通り12丁目
 TEL 0162-82-2961
事業目的:食用鹿の捕獲
     鹿肉、鹿肉加工の製造販売
     鹿肉加工品の研究開発
     食用鹿の飼育、飼育施設の運営
解体処理施設:1階建、延べ床面積182u


サロベツベニソンオフィシャルサイト ホームページはこちら
HOME