建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2010年3月号〉

interview

治水技術の積み重ねが石狩川流域の生命・財産を洪水から守ってきた

――石狩川治水事務所が設置され100年

国土交通省 北海道開発局 石狩川開発建設部 部長 北村 匡氏



――治水事業の重要性をお聞きしたい
北村 日本の国土は、「災害列島」と形容されることがあります。
 国土の70%は山地で地形が急峻です。また、火山が非常に多く地質は脆弱です。モンスーン地帯に属するため、夏には、台風に襲われ、冬には豪雪に見舞われます。災害が発生しやすい地形、気象条件に加え、氾濫源である沖積平野に人口、資産が集中しています。
 このような地形、気象、土地利用の状況により、洪水、土砂災害が頻発し、大きな被害が発生してきました。
 北海道も例外ではありません。今から6000年前の縄文前期、海面は今より5m高く、札幌、江別の石狩地域はもちろん、篠津、美唄と空知地域の奥まで海面下でした。その後、海面が低下し、今の石狩低平地が形づくられました。標高の低い地域が広がっているため、一度、洪水に見舞われると広大な地域に氾濫水が広がります。
 一方、石狩低平地に北海道を支える社会、経済機能が集積し、多くの方々が生活をされています。そして、我が国有数の穀倉地帯となっています。
 石狩川流域にお住まいの方々の生命、財産を洪水から守るためには、堤防などの治水施設の着実な整備と水防団、自治体と連携した防災対策が不可欠です。
――石狩川開発建設部が果たしてきた役割と施策の効果は
北村 石狩川開発建設部の前身は、明治43年に設置された石狩川治水事務所です。石狩川の本格的な治水対策は明治43年の「北海道第一期拓殖計画」に始まります。この計画の中に、石狩川の水害防止が重要な施策の一つとして盛り込まれ、石狩川治水事務所が設置されました。今年は、ちょうど100年目にあたります。
 治水対策が始まった当時、石狩川は原始河川の状況を呈していました。岡ア文吉博士が執筆した「石狩川治水計画調査報文」を見ますと、明治12年から31年間に34回洪水氾濫が発生しています。春先には融雪出水により、長い時は1月以上氾濫が続いています。
――捷水路工事により未開の低平地が穀倉地帯に変貌しました
北村 石狩川流域の開拓を成功させるためには、毎年のように発生していた洪水氾濫を防ぐとともに、石狩川の水位を下げ、周辺の地下水位を下げる必要がありました。寒冷で海面下であった石狩低平地には、泥炭層が厚く広がり、農地にするには排水が不可欠でした。このため、石狩川の治水対策は一貫して捷水路方式が採用され、大正7年の生振捷水路から工事が始まり、昭和44年の砂川捷水路の通水まで、29箇所の捷水路工事が実施され、石狩川の河道延長は約60km短くなりました。
 捷水路の完成とともに、石狩川の水位も下がり、奈井江大橋付近では平常時の石狩川の水位は4m程度低下し、農業基盤整備と相まって、未開の石狩低地は一大穀倉地帯へと変貌しました。
――軟弱地盤の築堤技術をご説明下さい
北村 石狩川の堤防は、捷水路工事により発生する掘削土を利用し一部着手されていましたが、昭和36年、37年の大洪水が発生し、連続堤防の整備が進めれて来ました。連続堤防が概成してきた昭和50年8月に大洪水が発生し、軟弱地盤上の堤防沈下箇所からの越水・決壊により多大な被害が発生しました。そのため、河川事業としては我が国、最初の激甚災害対策特別緊急事業が採択され、計画高水位より0.5m高い暫定堤防の盛土などが5年間の短期間で実施されました。
 堤防整備では、泥炭等の軟弱地盤地帯に盛土を行うため、基礎処理としてパイルネット工法が開発され、この工法は高速道路や鉄道の盛土工事に採用されるなど、軟弱地盤対策の技術の向上に貢献しました。
――札幌市北部の取り組みについて
北村 札幌北部の茨戸川の周辺は、昭和50年の洪水時に大規模に氾濫しました。このため、昭和55年から、北海道、札幌市、石狩市と連携して総合治水対策を進めてきました。河川改修だけで無く、流域の保水、遊水機能の維持、増大を図る取り組みを実施してきました。昭和56年には、石狩放水路を緊急通水し、被害の軽減を図ることができるなど、札幌市北部の発展に寄与してきました。
――今後の石狩川の治水における管理体制と姿勢は
北村 平成22年度に石狩川開発建設部は、札幌開発建設部と統合し、より、総合的かつ効率的な組織に生まれ変わります。統合に合わせて、他の建設部には無い防災課が新たに設置されます。
 地球温暖化による豪雨の激化予測され、昨年も各地でゲリラ豪雨による被害が発生しました。石狩川の治水の重要性は変わりませんが、気象の変化による新たな課題にも取組む必要があります。新たに設置される防災課により危機管理体制を充実、強化しますが、自助、共助と言われるように、災害から地域を守るためには、自治体、住民の方々と連携した取り組みが不可欠です。
 これまでも、洪水を対象とした危機管理演習や住民と協働によるハザードマップづくりを行ってきましたが、安全、安心な国土が社会の基盤であることから、引き続き、地域と連携した取り組みを進めてまいります。


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